思考ダダ漏れ

なんとなく書こう

短文感想11『普請中』

2017-12-06 20:20:26 | 短文感想
森鴎外の作品はあまり読んだことがない。『高瀬舟』『うたかたの記』そしてこの『普請中』だ。普請中は原稿用紙十枚にも満たない作品かもしれない。会話文の改行を含めても3000字程度ではないかと思う。それぐらい短いものだが、これは数ある掌編でもとても上手に作られた作品だ。思わず、これは上手いと思わせられる技法が込められている。
  小説の基本の話となるが、語り手はあらゆる情報を握っているがために、その引き出し方を取捨選択して、時に目まぐるしく舞台を動かし、時に淡々とした寂しげな世界を作り出すものだ。普請中はそこに登場する人物の心情を直接描くことなく、動作と台詞に落とし込むことに成功している。それは読者にもそれなりの慣れが必要だ。読み慣れていない読者層には(単純に考えて、当時は今以上に読書する層は多かったろうから、もしかすれば現代だからこそ分かりづらいのかもしれない)分からないかもしれない。江戸時代、着物は表立って美しいものを着ずに、裏地を上品に仕立てたものが粋とされていたと、こち亀だかで読んだ記憶がある。まさにこれは粋な作品だ。掌編といっても学ぶことは多い。

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