「駱駝」 政石蒙
先日、機会に恵まれて栗林公園にある動物園を観ることができた。島の療養所で生活するようになってからの六年間、犬と猫、そして最近檻に飼われるようになった猿、患者の食糧用に飼われている豚、家の内外で見かけるネズミや小鳥のほかに動物を見ていなかった私は、すべての動物に興味を持ったが、中でも駱駝を見ることのできたのは非常なよろこびだった。
駱駝は猿のように愛嬌をふりまくこともなく、縞馬のように美しくもなく、奇妙な背のこぶが人々の興味の対象となるくらいで、柵の前に人影はまばらだった。近々と柵際に立つと、駱駝はくりっと私を見てから首をのばしてきた。私は旧知に会ったような親しさを感じながら鼻面を撫でた。もう今では私の手や指の感覚は麻痺してしまい触感は皆無に近い状態なのだが、杳い日に駱駝に触れた肌の感触がよみがえり、一層親しみを覚えるのだった。
あの駱駝たちは、このように一つこぶではなく、厄介げなこぶを二つまでも背負ったアジアの駱駝だった。外モンゴルの曠野の中に逞しく生きていた駱駝たち。従順で忍耐強く、働き者でひょうきんで、そしてグロテスクな姿態に似合わず清澄な声で鳴く駱駝たち。
私はしばらく駱駝の鼻面に手を触れたままでいた。