珍友*ダイアリー

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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第六十八話

2006-09-30 15:34:47 | 第八章 旅立ち
 その時、後ろの方で、チャリンと小銭の音がして、思わず振り返った。小銭の姿を追うおれの眼光は、多分鋭かったと思う。見ると、何人かのダチがくやしそうな顔で、舌打ち混じりに、マサキの掌に小銭を落としているところだった。マサキの顔は、彼らとは反対に、ニヤニヤ得意げに笑っていた。小銭を握りしめて、軽い声で「どーもねー」とか言っている。おいおい。まさかさぁ。
「マサキ、テメー、何、人のこと、カケのダシにしてんだよ」
 マサキの後ろ頭を、冗談の力で片手でガッと掴んで言った。
「げっ、武蔵さん!」
 案の定、ヤツは、おれの顔を見上げて慌てている。
「げっ、じゃねーよ、ったく、信じらんねぇ」
 そう吐き捨ててから、マサキの頭を掴んでいた手を離し、小さなため息を1つついた。呆れた。でも、よくこんなこと思いつくな、と、ある意味、ちょっと感心した。マサキは小銭を握りしめたまま、へヘッと笑っている。ムカつくから言ってやった。
「ふざけんな、金よこせっ」
「ぎゃははっ。ちょっ、武蔵さん、やめッ、マジでっ、くっ、ふへへへ…」
 こちょぐりまわしてしばらく暴れた後、マサキの首根っこを捕らえると、ヤツは、ひーひー言いながら、笑いすぎで、少し潤んだ目を上げた。その瞬間、あっと声をあげて、小銭を掴んでいない方の手で、その視線の先を指差した。格好の逃げ道が見つかったとばかりに、おれを見上げてニヤニヤ笑いながら、
「ダンナァ、奥さんがとられてまうでぇ」
 と、すっとぼけた声で言った。
「あ?」
 何、言ってんだ、こいつ。
 不審に思って、マサキの指差す先を見ると、
「あ゛――――――っ」
 せいあが男友達と話しているところだった。マサキの首根っこをほっぽり出して、ずかずか踏み出した。
 オメエら、なれなれしく触んじゃねぇよ。…つっても、せいあの肩に手ぇ置いてるくらいなんだけど。いやいや。てやんでぇ。待ちやがれ。
 するとその時、後ろから、
「オレは、武蔵さんたちがくっつく方に、カケたんだけどね」
 という、ぼそぼそっとした早口の声が聞こえた。え、と思って、思わず振り返ると、声の主のマサキは、ポケットに入れかけていた小銭の最後の一枚を空高く放り投げて、受け損ねて、慌てたふりで追いかけた。
「…」
 そういえばそうだよな、マサキが金もらってんだから。悪いことしたな。でも、似合わねーことすんじゃねーよ。大体、ヒトの恋愛、カケに使うこと自体、ひねくれてんだよ、テメエは。…。シタタカニンゲンマサキめっ。まぁ、いいか。ベッド譲ってくれた礼と、掃除してくれた礼だと思えば。
 …もう、もはや自分が何を考えてるのか分からない。つまりは、マサキと同じぐらい照れていた。
                            ≪つづく≫

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