積ん読の部屋♪

本棚に積ん読な本を読了したらばの備忘録。

宮部みゆき『あやし』あらすじと感想

2020-05-25 10:57:52 | 紙の書籍
角川文庫 宮部みゆき『あやし』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
居眠り心中
影牢
布団部屋
梅の雨降る
安達家の鬼
女の首
時雨鬼
灰神楽
蜆塚
解説 東雅夫


【あらすじ】
恐い江戸の不思議噺を集めた、著者渾身の奇談小説集。

*居眠り心中
14歳の銀次が奉公にあがった木綿問屋「大黒屋」での話。

*影牢
深川六間堀町の蝋問屋「岡田屋」市兵衛、お夏夫婦の母親監禁虐待の話。

*布団部屋
深川永代寺門前東町の酒屋「兼子屋」は代々の主が短命で知られている。その訳は布団部屋にいる禍々しいものが関係していた。

*梅の雨降る
箕吉の姉、おえんは長患いの末に亡くなった。自分が神社に願掛けしたことが発端で、お千代が奉公先で疱瘡に罹り亡くなったことが原因だった。

*安達家の鬼
お義母さまのお世話をするために安達家の嫁となった私。座敷には決して自分だけには見えない鬼が姑と一緒に居た。

*女の首
太郎は手先が器用だが口がきけない子だった。母親が亡くなり、袋物の「葵屋」に奉公することになったのだが、なんだか店の様子がおかしい…。

*時雨鬼
お信は奉公先を変わるため口入れ所「桂庵」に出かけた。そこで応対に出たのは女房だという、おつたという美しい年増女で、実はこの女こそが恐ろしい事件の関係者だったのだ。

*灰神楽
本所元町の岡っ引き、政五郎のところへ桐生町の「平良屋」から奉公人が刃傷沙汰を起こしたと知らせがきた。主人の弟、善吉におこまが斬りつけたのだ。おこまはなにかよくないものに憑かれてしまったらしい。

*蜆塚
米介は御蔵蜆という高い蜆を目笊一杯買い、亡き父親の碁仲間、松兵衛を見舞った。そこで松兵衛から「影」のない、年もとらない、死なない人間がいるという薄気味の悪い話を聞かされた。


【感想】
宮部みゆきの造形する人間のおぞましさに、本当に読んでいてぞっ…とする。人の業や腐った魂をむき出しにして見せつけられるから。

*居眠り心中
奉公人の銀次が居眠りで見た夢は、若旦那とおはるの心中事件。おはるのずーんと暗い井戸の底を覗くような心持ちが怖い。
怖いのは化け物や幽霊などではなく、人の心が一番怖い。

*影牢
後味の悪い、胸が悪くなるような話。

*布団部屋
おゆうが見た「あれ」は臭い息をして、足を引きづるように後ろについてきた。おゆうは「あれ」に飢えと孤独を感じた。
兼子屋は火事で焼け落ち、北東の角に埋まっていた人骨は鬼のように角が生えているように見えたという。ただの古い骨だったからかもしれないし、本当に殺されて埋められたことで鬼になってしまったのかもしれない。
怖いけど、少し哀しい…。

*梅の雨降る
おえんが神社にした願掛けは、自分の代わりにお千代が深川八幡様の近くの料理屋に奉公にあがることになったから。理由はお千代が「器量よし」でおえんが「ちんがくしゃみをしたような」娘だったから。
おえんはお千代に嫉妬し、恨み、「お千代に不幸が起こりますように」と願掛けをしたのだ。それが思いもかけず現実となり、そのことが原因でおえんは心身共におかしくなってしまう。罪悪感に苛まれてしまったんだろう。
長患いの後、弟の箕吉が姉の顔を覆う手ぬぐいを取ったとき、その下には青黒く崩れた顔があった…はず。だが、その後、改めて見た姉の顔はきれいな顔だった。
これはお千代の仕業? それとも、おえんの罪悪感からきたもの?
梅の香りと共に去っていった若い娘は、お千代?それとも、おえん?
不思議な余韻が残る作品。

*安達家の鬼
安達家のお義母さまの座敷にいるもの。「鬼」。痩せこけて、ぼさぼさ髪の若い男。いつも無言。
「鬼」とは、上州桑野の安達家の穢れを具現化したもの。安達家とは構えは立派だが空き家で、病人や老人、行き場のないものを留め置く場所。ある意味、町から穢れを守るための結界のようなもの。
映画『楢山節考』に出てくる、姥捨て山のようなものと思えばいいのかもしれない。
「鬼」は見るものの性根が映って見える。だから、性根が腐っていたり、ねじ曲がっていたら、それがそのまま見えるのだから見たものは驚くわけだ。
「人として生きてみて、初めて“鬼”が見えるようになるのだよ。」という、お義母さまの言葉が深いな…。

*女の首
太郎が口をきけないわけは声が出ないのはなく、出さないように心の奥底にじっと隠れていたものが、声を出すのを押し留めているから。それはかつて葵屋に奉公していたお吉という女が、若旦那と一緒になれると手前勝手に思い込んだ末、若夫婦の初子をさらってしまった。このときの赤ん坊が太郎なのだ。
太郎がおっかさんと信じて暮らしていたのは、大水で夫と小さな男の子をなくして傷心していた女。ある夜、水路を流れてきた赤ん坊を拾い上げ、亡くしたわが子の生まれ変わりと信じ育てたのだった。
怖いけど、ほっとする後味のよい人情話。

*時雨鬼
桂庵の女房のように何食わぬ顔をして、お信と応対していたおつたは盗賊の一味で、そのときにはもう主の宮蔵は首を刺されて死んでいたのだ。おつたから臭ったのは血の臭いだった。
おつたがお信に話してきかせた自分の昔話に出てくる鬼は、おつた自身だった。梅林に立つ、人の皮を被った鬼。
お信は重太郎という男が好きで、その男に「もっといい稼ぎのところへ奉公先を移ろう」などと言葉巧みに言い含められている。はたから見ればなんて馬鹿な娘なんだと思うが、重太郎を「好き」なお信は薄々疑いつつも信じている。
あ~なんて馬鹿な世間知らずな小娘か。身寄りのない貧乏な小娘なんて、この手の男の格好の餌食だ。
苦々しい思いが残る作品。

*灰神楽
平良屋で起こった刃傷沙汰は、女中部屋に入れた火鉢が原因だった。おかみさんの優しさで、女中部屋に火鉢を置くことを許したのが発端とは切ない。
古道具屋で購入した火鉢に憑いていた悪しきものが、おこまに取り憑いて刃傷沙汰を起こした。それは痩せた女で、灰のような粉っぽい匂いを残して縁側を早足で通り抜けた。
物に憑くというのも、リサイクルショップとかを考えると怖い…。

*蜆塚
年もとらない、病気にも罹らない、死なない人間が世の中にはいるというお話。高橋留美子の『人魚の森』を思い出した。あの作品も同じような人間が出てくる。
ごくごく普通の人で悪意があるわけでもなく、ただ年をとらず死なないだけの存在。それはそれで不幸ではないだろうか…。
終わりがあるから今を生きていけるのだと思う。


【余談】
積ん読に宮部みゆきの本がもう一冊あるので、これを読んでから新しい本を購入しようかな~と。また、宮部みゆきの江戸時代物にしようかな?
時代物はいいよね、現実逃避にうってつけ♪ 現実逃避こそ読書の醍醐味だと思う。