「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.293 ★ 日系が電動・スマート化攻勢 北京モーターショー開幕

2024年04月27日 | 日記

NNA ASIA

2024年4月26日

世界最大級の自動車展示会である「北京国際汽車展覧会(北京モーターショー)」が25日、北京市で開幕した。新型コロナウイルス禍の影響で、北京での開催は4年ぶり。

中国で「新エネルギー車(NEV)」の販売が伸びる中、日本勢は電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の新モデルを公開した。中国IT企業との連携も打ち出し、中国でニーズが高まる電動化とスマート化を進めることで中国市場での巻き返しを狙う。

日本車メーカーからはトヨタ自動車やホンダ、日産自動車、マツダが出展した。

■トヨタはテンセントと提携

トヨタ自動車は25日、中国ソウトウエア大手の騰訊控股(テンセント)と提携すると発表した。テンセントと協業することで、ソフトウエア分野での競争力を高める狙い。

中嶋裕樹副社長がプレスカンファレンスで、テンセントを新たなパートナーに迎え入れると発表。テンセントの湯道生副総裁もスピーチを行い、トヨタとは昨年から人工知能(AI)分野などでの協力を始めたと明らかにした。テンセントが手がける中国最大のチャットアプリ「微信(ウィーチャット)」のデータも活用し、トヨタのソフトウエアサービス向上に貢献する考えを示した。

トヨタ自動車はテンセントとの提携を発表。中嶋裕樹副社長(左)はプレスカンファレンスで、テンセントの湯道生副総裁とがっちり抱擁を交わした=25日、北京

その他詳細な提携内容は明らかにされなかったが、トヨタがソフトウエア分野の競争力向上に力を注ぐ意思を強調したといえる。

トヨタは同日、ソフトウエア機能の充実を重視したレクサスの次世代EVコンセプトカー「LF―ZC」を中国で初公開した。同コンセプトカーは昨年のジャパンモビリティショーで、世界で初めて公開していた。26年に市場投入する予定。

EV専用ブランド「bZ」シリーズの新型2車種「bZ3C」と「bZ3X」も公開した。昨年の上海モーターショーで公開した「bZ」シリーズの新型2車種をより量産モデルに近い状態にアップグレードした。向こう1年以内に発売する予定だ。

■日産は百度とAIで協業検討

日産自動車は25日、インターネット検索の中国最大手である百度(バイドゥ)のグループ企業と、AI技術の活用での協業に向けた覚書を結んだと発表した。日産が中国で販売する車両に百度の生成AIを搭載し、自動車のスマート化を加速させる狙い。

同日に日産の中国法人、日産(中国)投資と百度在線網絡技術(北京)が覚書を結んだ。具体的な搭載車種や投入時期などについては今後検討を進める。

会場では、EVとPHVのコンセプトカー計4車種を公開した。いずれも中国の合弁相手である東風汽車集団と共同で開発した。EVのセダン「日産エポック・コンセプト」は、1年以内の量産モデル投入に向けて開発を進めている。

中国市場では2026年度までに5車種のNEVを投入する。当初の発表より1車種増やした。中国市場でのラインアップをさらに充実させるため、市場投入のペースを速める。

内田誠社長は会見で、「中国で、中国のために」という指針を発表。中国市場の急速な変化について「中国の国内ブランドが市場を大きく変えてきた」と述べ、「日産はこの変化に対応し、競争力を維持していく必要がある」と強調した。

日産は26年度までの中期経営計画で、中国で日産ブランドのモデルラインアップの73%を刷新し、同年に年間100万台を販売する目標を掲げた。25年からは中国からの輸出も始め、第1段階として10万台レベルを目指す。

会見に臨む日産の内田誠社長=25日、北京市

■ホンダが新シリーズ披露

ホンダは、中国市場向けに開発したEVの新ブランド「イエ」(イエ=火へんに華)シリーズと「e:N(イーエヌ)」シリーズの第2弾を披露した。

イエシリーズは中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の車載ディスプレーや、AIでの音声認識の研究などを行う科大訊飛の音声認識機能を搭載するなど、中国の技術を導入した。24年末から販売を始める予定。

五十嵐雅行中国本部長はイエシリーズについて「中国顧客を最優先に考え、新たな価値を提供することを考えて開発した」と話した。

記者会見するホンダの五十嵐雅行・中国本部長=25日、北京市

e:Nシリーズの第2弾「e:NP2」は25日に発売し、「e:NS2」は5月1日から予約販売を始める。価格はともに15万9,800元(約343万円)から。中国市場で価格競争が過熱する中、20万元を下回るEVで勝負する。

ブースでは、「無印良品」とコラボレーションしたe:Nシリーズの特別仕様モデルも展示した。中国で若者を中心にキャンプの人気が高まる中、アウトドア用品の収納を工夫した。特別仕様モデルは計100台の限定で販売する。

ホンダは35年に中国市場で販売する新車を全てEVにする方針。e:Nシリーズを皮切りに、27年までにホンダブランドのEV10車種を投入する計画。EV新シリーズの投入に合わせ、中国の合弁2社がそれぞれ24年後半にEV専用工場を稼働させる予定だ。

■マツダ、新NEVで反転攻勢へ

マツダはセダン「マツダEZ―6」を発表した。PHV版とEV版を用意。同シリーズは中国NEV市場での巻き返しを図るためのシリーズと位置付けており、現時点では中国のみでの販売を予定している。

今年発売する計画で、価格は未公表。EV版の航続距離が約600キロメートル、PHV版が1,000キロメートル以上になる見通し。

マツダの「EZ―6」=25日、北京

開発と製造は、中国合弁会社の長安マツダが手がける。同合弁会社がNEVの開発と製造を行うのは初めて。合弁会社が開発・製造を行うことで、より中国の需要に合致した車種の投入を図る。

マツダはさらに、EZ―6に続く中国市場向けNEVのコンセプトモデル「マツダ創ARATA」を発表。同モデルは25年に量産する予定だ。

マツダは他の日系大手と同じく中国に2社の合弁会社を設けていたが、事業効率化を目的として21年に組織再編を実施。長安マツダが別の合弁会社を傘下に収めることで、長安マツダを中心に中国事業を推進する体制を整えた。

マツダは近年、中国市場で苦しんでいる。中国での通年の販売台数は17年に30万台を超えていたが、23年には約8万5,000台に減った。マツダの世界販売台数に中国が占める比率は23年に6.8%まで下がった。

苦戦の一因は、中国自動車市場の急速なNEVシフトに乗り遅れたことがある。EZ―6、創ARATAと立て続けにNEVを投入し、中国市場で再び存在感を強める狙い。

マツダの広報は、電動化の波に追随できれば、同社の強みであるデザイン性と操作性が再び中国の消費者に注目してもらえるとみている。

発表会にはマツダの毛籠勝弘社長兼最高経営責任者(CEO)が登壇。広報によると、CEOが中国のモーターショーに登壇するのは10年以上ぶりで、中国での反転攻勢に向けた決意がうかがえる。

■IT機能を強化

自動車業界では近年、「ソフトウエア・ディファインド・ビークル」(ソフトウエアを変更することで性能や価値を変えられる自動車)の重要性が声高に叫ばれるなど、ソフトウエアの力が市場の勝敗を決する鍵になりつつある。

こうした状況の中、中国自動車企業はテック企業との提携を積極化し、時代への対応を速めている。トヨタや日産も現地のIT企業と協力することで、中国市場の潮流に追随する。

北京モーターショーは上海国際モーターショーと交互に隔年で開かれていたが、22年は新型コロナウイルスの感染拡大で開催を中止したため、北京で開かれるのは20年以来4年ぶりとなった。

今回の展示面積は22万平方メートルで、国内外の主要自動車メーカーが出展したほか、部品メーカー約500社も参加した。今回は278車種のNEVが展示され、20年の160車種から大幅に増加。世界初公開は117車種で、コンセプトカーは41車種。

会期は5月4日まで。(北京・吉野あかね、吉田峻輔)

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No.292 ★ 中国で広がる「低空経済」って何のこと? 深セン・広州が中心地に

2024年04月27日 | 日記

DIAMOND online (吉田陽介:フリーライター)

2024425

深センの夜景 Photo:luxizeng/gettyimages

「低空経済」という言葉が、今、中国の経済系メディアでよく見られる。35日に全人代が開幕し、李強・国務院総理(首相)が「政府活動報告」を行った際に、「新たな成長エンジンとしてバイオものづくり、民間宇宙産業、低空経済などを積極的に発展させる」と述べたからだ。「低空経済」が「政府活動報告」で取り上げられたのは初めてのことだ。中国の「低空経済」の今を解説しよう。(北京理工大学教師 吉田陽介)

2024年は中国の「低空経済商業化元年」

 そもそも「低空経済」とは何か。

「低空」とは、高度1000メートル以下の低高度(地域の実情と実際のニーズによっては、4000メートル以下)の空域のことだ。その空域で営まれる民間の有人・無人航空機によるモノや人の輸送などの低空飛行活動をけん引し、関連分野を融合させた発展を促す総合的な経済形態を「低空経済」という(参照:「低空空域管理改革の意見」)。

 具体的には、「ドローンによる宅配便配達」「空飛ぶタクシー」「ドローンによる測量マッピング」「空中環境モニタリング」「農業用ドローン」「映画・テレビの空撮」などが挙げられる。

 また、「低空経済」は、大きな発展の余地がある。4月9日の「大衆ネット」の報道によると、eVTOL(電動垂直離着陸機。ヘリコプターのように垂直に離着陸する)の生産許可証を、eVTOL製造企業に発行し、低空経済の「商業化」に弾みをつけた。

 中国は、2024年を「低空経済商業化元年」と位置づけており、ドローンなどの消費が加速するだろう。2階以上の建物にいる顧客にドローンで出前を届けたり、空中タクシーで出かけたりするシーンが珍しくなくなる日はそう遠くない。

 中国民用航空局が発表したデータによると、中国の低空経済の市場規模は2025年までに1.5兆元(1元=約21円)に達する見込みで、2035年にはさらに3.5兆元に達する見込みだと言う。

「中国経済周刊」によると、魏進武・中国聯通研究院副院長は「低空経済がカバーする分野とシーンが幅広く、その概念を出すことによって、物流、観光、緊急救助、農業生産など新興応用分野をより全面的にカバーできる」と述べている。低空経済の発展により、当該産業だけでなく、それに関するインフラなどの産業も発展することになり、経済全体にプラスとなるだろう。

 さらに、3月30日の「財富師21」は、「2023年、中国の従来型有人機の飛行時間は135.7万時間、無人機の飛行時間は2311万時間に達した。現在登録されている中国国内のドローンは118万機で、うち、中・大型ドローンは10万機に上る。全国のドローン生産メーカーは2200社に達した」とし、中国には低空経済の発展のための基盤があるとしている。

 法的な整備も進んでいる。2023年11月に「中華人民共和国空域管理条例(意見募集稿)」が公布され、24年1月1日に「無人航空機飛行管理暫定条例」が正式に施行された。このことは、中国の無人機産業が、法律に基づいて「秩序良く」発展する段階に入ったことを意味する。

「低空経済」が発展している地域はどこ?

 現在、「低空経済」のレベルが高い地方はどこか。

 中国メディアの報道によると、深セン、広州が最も発達した都市とされている。低空経済関連企業はいずれも4000社を超えている。

 一方、中国の北の地域にはドローン産業の集積地域が少なく、企業の生産コストが比較的高く、発展が遅れているという(3月8日付の「新京報」)。

 前出の「財富師21」によると、深センは「低空経済」が発達している都市になる可能性が最も高い。深センは「ドローンの都」と呼ばれ、DJI(大疆創新科技有限公司)、豊翼科技、Autel Robotics(深セン市道通智能航空技術)、科衛泰など産業チェーンの先頭に立つ企業が集まっている。特にDJIは、民間用ドローンの世界トップ企業だ。深センの消費者向けドローンは、世界の約70%、産業用ドローンは世界の約50%の市場シェアを占めている。ヘリコプターの飛行数は2万回を超え、飛行規模は全国をリードしている。

 また、深センの低空経済の2023年の年間生産額は、900億元を超え、前年比20%増となった。深センでは、2023年に無人機航路が77路線新たに開通、無人機発着拠点も73カ所新設され、無人貨物機の飛行数は60万回で、飛行規模は全国1位となった。さらに24年1月、深センは、全国初の「低空経済」地方立法である「深セン経済特区低空経済産業促進条例」を制定した。このようなことから、深センが、低空経済発展の面で先見性があることがうかがえる。

 さらに、現在、深センと広州は、すでに初歩的な規模のドローン生産チェーンを形成しており、「低空経済」発展の“中心地”になりつつある。

 杭州も「低空経済」に力を入れている地域の一つだ。同地は人工知能(AI)、ビッグデータ関連産業が発展しており、「低空経済」発展の技術面・人材面の基盤が備わっている。2020年10月には、民用無人操縦航空試験区に選ばれ、無人機の都市での応用シーンの商業化を模索した。

「低空経済」の発展にはイノベーションが欠かせない。杭州はイノベーション振興政策を打ち出し、「低空経済」発展の政策的基盤をさらに強化した。今後、先進的製造業が盛んになり、「低空経済」が発展していくとみられる。

「低空経済」発展の課題

「低空経済」は、宅配や街のセキュリティーなど、人々の生活のインフラとなりうるものである。ただ、「低空経済」の発展にともない、ドローンが増えるため、「空の渋滞」が起こりうる。その際の対策を打ち出すことも重要だ。

 また、「低空経済」の発展によって、宅配もドローンを使えばいいということになって、配達員の人数が減らされる可能性もある。人員をどうするかも課題だ。余った人材をメンテナンスなどに配置転換した場合、スキル教育が必須となるだろう。

 新たな産業の発展は、イノベーションによる経済発展を促すことができる。本稿で取り上げた地域の「低空経済」が発展しているのは、イノベーションの面で強みがあるからである。

 イノベーションを進める上で核となるのは、やはり人材の育成だ。ハードの部分だけではなく、学生のみならず、競争に敗れた人材のリスキリングを行い、イノベーションの“戦力”となれるようにすることも大事だ。

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No.291 ★ 北京モーターショー開幕 世界最大市場で国内外メーカーがEV競う 日本勢も新モデル公開

2024年04月26日 | 日記

産経新聞

2024年4月25日

北京国際モーターショーに出展したホンダのブース=25日、北京市(三塚聖平撮影)

【北京=三塚聖平】中国・北京市で25日、世界有数の自動車展示会である「北京国際モーターショー」が開幕した。世界最大の自動車市場である中国では、電気自動車(EV)の販売が急速に拡大している。日本勢を含む国内外のメーカーがEVの新モデルを公開する。

日本からはトヨタ自動車やホンダ、日産自動車などが出展する。中国市場でEVの販売が伸びる中、日系メーカーもEVの新商品投入を急いでいる。

ホンダは、中国市場で新たに投入するEVの「燁(イエ)」シリーズを出展する。今年末にシリーズ第1弾を投入し、2027年までに計6車種の発売を計画している。

中国勢ではEV最大手の比亜迪(BYD)のほか、3月にEVに参入したばかりのスマートフォン大手の小米科技(シャオミ)といった新興メーカーが出展する。

会期は5月4日まで。北京モーターショーは、上海市で開かれる「上海国際モーターショー」との隔年開催。2022年は新型コロナウイルスの感染拡大により中止しており、北京での開催は20年以来、4年ぶりとなる。

中国自動車工業協会によると23年の新車販売台数は前年比12%増の3009万4千台で、史上初めて3千万台を突破した。中国政府の後押しを受けてEVやプラグインハイブリッド車(PHV)などからなる「新エネルギー車」の販売が伸びたことが牽引(けんいん)し、15年連続で世界最大の自動車市場となっている。

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No.290 ★ 中国の産業スパイ活動に警戒すべき、独情報機関が国内企業に警告

2024年04月26日 | 日記

ロイター編集

2024年4月25日

ドイツ情報機関の連邦憲法擁護庁(BfV)は24日、国内企業に対し、中国政府による産業スパイ活動を警戒すべきと伝えた。写真はドイツのショルツ首相。2月撮影(2024年 ロイター/Annegret Hilse)

[ベルリン 24日 ロイター] - ドイツ情報機関の連邦憲法擁護庁(BfV)は24日、国内企業に対し、中国政府による産業スパイ活動を警戒すべきと伝えた。中国に対して甘い考えを持ったり、過度に依存したりしないよう警告した。

前日にはドイツ連邦検察庁が、中国の情報機関のためにスパイ活動を行ったとして、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」所属の欧州議会議員のスタッフを逮捕したと発表していた。

fV高官は中国がドイツ企業のセキュリティーに与える影響に関するイベントで、「中国との貿易における過度に楽観的または過度に前向きとみられる姿勢が、これらの企業の事実上の解体につながった例は数多くある」と指摘。問題の1つは、中国企業は完全な民間企業と主張しているものの実際は全て中国政府の影響下にあり、その支援を受けていることだとした。

また、中国の最終的な目標は2049年までに世界最大の経済、技術、政治大国になることだと言及。中国が特に関心を持っている分野として航空宇宙技術、ロボット工学、エレクトロモビリティー、省エネ技術、バイオメディカル、情報技術などとした。

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No.289 ★ 突然発表された中国人民解放軍の大改革、その詳細とこれまでの経緯 2015年に始まった戦略支援部隊の壮大な実験は失敗したのか 

2024年04月25日 | 日記

JBpress (渡部 悦和:ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー、前・陸上自衛隊東部方面総監)

2024年4月23日

中国人民解放軍の軍事演習(2023年4月30日、写真:新華社/アフロ)

 

 筆者にとって驚きのニュースが4月20日付「解放軍報」で報道された。

 中国人民解放軍(=解放軍)の大改革の目玉であった戦略支援部隊が解体され、新たに3つの部隊(情報支援部隊、サイバー空間部隊と軍事宇宙部隊)が編制されるというのだ。

 解放軍の大改革は、習近平主席の肝煎りで2015年末から断行されたものだ。解放軍改革の最大の目的は、腐敗で有名だった解放軍を「戦って、勝つ」軍隊にすることだった。

 習近平主席は改革開始を公表した2015年末時点での評価として、「解放軍は戦えないし、戦っても勝てない軍隊だ」と考えていた。「戦って、勝つ」とは、米軍と戦い、米軍に勝つことだ。

 その大改革から8年しか経過していないのに、早くも改革の目玉=壮大な実験と言われた戦略支援部隊が解体されるというのだ。これは、戦略支援部隊の壮大な実験に無理があったということだ。

 以下、解放軍の2015年の解放軍改革について説明するとともに、その改革がどのように変わるのかを紹介したいと思う。

1 概成したはずだった中央レベルの改革

 2015年末から始まった解放軍改革の「首から上」と呼ばれる「軍中央レベル」の改革は概成したと評価してよい。

 軍中央レベルの改革とは、従来の「7大軍区」を廃止し「5大戦区(戦域軍:Theater Command)」を新編し、陸軍司令部・ロケット軍・戦略支援部隊・統合兵站支援部隊を編成し、腐敗で有名だった中央軍事委員会直属の参謀組織を改革することだ。

 図1は解放軍の改革後の組織図である。

 改革後の解放軍を表現する語句として、「軍委管総、戦区主戦、軍種主建」がキーワードだ。

 つまり、「中央軍事委員会がすべてを管理し(軍委管総)、5つの戦区が作戦を実施し(戦区主戦)、軍種である陸・海・空・ロケット軍は各々の指揮下部隊の戦力開発(部隊の編成装備、訓練など)を担当する(軍種主建)」という意味だ。

図1「改革後の解放軍の組織図」

出典:「China’s Goldwater-Nichols? Assessing PLO Organizational Reforms

 

 改革の目標であった「解放軍の総数230万人を30万人削減して200万人にする」計画は2017年末までの2年をかけて達成された。

 この30万削減のほとんどは陸軍の削減であったが、音楽隊や雑技団などの非戦闘組織の削減も行われた。

 その結果、陸軍は18個集団軍から5個集団軍が削減され、13個集団軍に大幅に縮小された。

 軍種レベルの変更もなされた。

 改革以前には、人民解放軍は陸軍、海軍、空軍の3軍種と第2砲兵で編成されていた。

 解放軍改革により、陸軍司令部、ロケット軍、戦略支援部隊、統合兵站支援部隊が新設された(図1参照)。なお、海軍と空軍に変化はない。

 戦略支援部隊は、陸・海・空軍・ロケット軍と同列の軍種ではなく、独立した職種として中央軍事委員会の直轄組織として戦区を支援する部隊である。

2 世界に類を見ない戦略支援部隊

 戦略支援部隊は今回の軍改革の目玉であり、現代戦に不可欠な情報戦、宇宙戦、サイバー戦、電子戦を一つの組織で面倒を見る世界でも類を見ない部隊だ。

 戦略支援部隊の編成は壮大なる実験と言ってもよい。

 筆者は、「天才でなければ、戦略支援部隊を指揮することはできない」と言ってきた。なぜなら、情報戦、宇宙戦、サイバー戦、電子戦のすべての知識、経験、見識を持っている者などいないと思うからだ。

 戦略支援部隊の基本編成は図2の通りである。参謀部、政治工作部、兵站部、装備部のほかに宇宙システム部とネットワークシステム部がある。

図2「戦略支援部隊の基本編成」

出典:China’s Strategic Support Force: A Force for a New Era

中国の宇宙開発で最も重要な組織は戦略支援部隊

 戦略支援部隊は2つの同格の半独立部門、つまり宇宙戦を担当し宇宙関連部隊を指揮する「宇宙システム部(SSD:Space Systems Department)」と、情報戦を担当しサイバー部隊を指揮する「ネットワークシステム部(NSD:Network Systems Department)」を指揮下におく(図3参照)。

 図3で厄介なのは赤線で囲った部分だ。

 つまり、対宇宙(攻撃的な宇宙戦)と戦略情報が2つの組織(SSDとNSD)の任務としてオーバーラップしているのだ。これを区分するのは難しい。

 4月20日の情報によると、戦略支援部隊が解体して、新たに3つの部隊(情報支援部隊、サイバー空間部隊、軍事宇宙部隊)が編制されるという。

 新たな「サイバー空間部隊」はネットワークシステム部を母体として編成するのであろう。

 新たな「軍事宇宙部隊」は宇宙システム部を母体として編成されるのであろう。

 新たな「情報支援部隊」はネットワークシステム部に存在する情報部隊を母体に編成するのだろう。

 それでは、このオーバーラップする任務をどの新たな部隊に割り振るのだろうか。

図3「戦略支援部隊の任務別編成」

出典:China’s Strategic Support Force: A Force for a New Era

「宇宙システム部」と「ネットワークシステム部」

 解放軍の再編成の結果、戦略支援部隊の「宇宙システム部」は宇宙戦の中核組織として、宇宙での攻撃と防衛を含む解放軍の宇宙戦を担当するようになった。

 中国の宇宙開発と宇宙戦でぜひ知っておいてもらいたい組織がある。

 戦略支援部隊の指揮下にある「宇宙システム部」であり、宇宙戦の核になる組織である。

「宇宙システム部」は、衛星打ち上げ(作戦上即応性の高い移動式の発射装置の打ち上げを含む)、宇宙遠隔計測(テレメトリ)・追跡・制御、戦略情報支援、対宇宙(英語では「カウンター・スペース」と表現され、敵の衛星などの破壊や機能妨害を意味する)など、解放軍の宇宙作戦のほぼすべての機能を統制している。

 宇宙システム部が中国宇宙開発の現場における主役だ。

「ネットワークシステム部」は、コンピューター・ネットワーク(以下ネットワーク)の開発、サイバー監視、ネットワーク攻撃およびネットワーク防衛任務の遂行について、中国のサイバー部隊を監督する。

 つまりサイバー戦の核となる部隊だ。

 また、「ネットワークシステム部」は、対宇宙ミッションの「中心」でもあり、サイバー戦や電子戦対策、宇宙監視、技術偵察を含む解放軍のノンキネティック(非物理的)な対宇宙ミッションを担当している。

 つまり、ネットワークシステム部は、宇宙戦において宇宙システム部を補完する役割も担っているから複雑だ。 

宇宙戦と戦略支援部隊

 戦略支援部隊は、衛星打ち上げとその関連支援、テレメトリ(遠隔計測装置を使って遠隔地の測定結果をコントロールセンターに送信すること)、衛星の追跡・制御、宇宙情報支援、攻撃的宇宙戦、防御的宇宙戦を担当する。

 これは、戦略支援部隊が改革前の解放軍の宇宙作戦のほぼすべての任務を引き継いだことを意味する。

 これまで、解放軍全体に分散する宇宙関連組織を、統一された軍事宇宙部門に再編することは喫緊の課題であった。

 現在、戦略支援部隊の宇宙任務を遂行する部隊は、中国の「軍事宇宙部隊(军事航天部队)」と呼ばれる。

 一方、有人宇宙ミッションを統括する部署は、当該部署の軍事化を避けるために、戦略支援部隊ではなく装備発展部の所属になっている。

 明らかに、有人宇宙ミッションを宇宙戦とは区別している。この点は重要だ。

 宇宙通信衛星の管理などを担っていた旧総参謀部の衛星メインステーションは、戦略支援部隊の指揮下に入った。

「北斗衛星測位システム」を担当する旧総参謀部の衛星測位基地も最終的に、戦略支援部隊の指揮下に入った。

 2017年8月、宇宙での衛星破壊実験に使われた「DN-3」対衛星ミサイルは、戦略支援部隊の酒泉衛星打ち上げセンターから打ち上げられた。

 このことから戦略支援部隊がこれらのシステムの試験や実用化に責任を有していることが推察される。

サイバー戦と「戦略支援部隊」

 中国のサイバー戦を議論する際に戦略支援部隊を抜きにしては語れない。戦略支援部隊は、解放軍がサイバー戦を遂行する際に不可欠な部隊である。

  • ネットワークシステム部は、サイバー戦、電子戦、心理戦、技術偵察などを担当し、解放軍のすべての戦略情報戦部隊を統制する。

 この集約化は、解放軍のサイバースパイ活動部門とサイバー攻撃部門の間の作戦調整上の課題に対処するためだ。

  • 解放軍は、サイバー戦および電子戦任務を統合した「統合ネットワーク電子戦」という戦略に基づき、新たな全軍体制を構築している。

 戦略支援部隊の創設は、解放軍の「統合ネットワーク電子戦」という長年の目標を制度化するものだ。

  • 戦略支援部隊は、情報を戦争における戦略的資源として捉える中国の軍事思想の進化を体現しており、情報システムへの依存から生じる軍隊の能力強化と脆弱性の両方に対し果たす役割を認識している。
  • 戦略支援部隊は、戦区などの統合部隊の情報作戦を支援するために、サイバースパイ活動とサイバー攻撃を統合する。

 さらに情報作戦の計画と戦力開発を密接に連携させ、情報作戦に関する指揮・統制の責任を統合することにより、情報作戦の遂行能力を向上させている。

ネットワークシステム部が担当するサイバー戦

 戦略支援部隊のサイバー任務は、ネットワークシステム部に与えられている。

 ネットワークシステム部の指揮下部隊は「サイバー部隊(網军)」または「サイバー空間作戦部隊(網络空间作战部队)」と呼ばれている。

 その名称にもかかわらず、ネットワークシステム部とその下部組織はサイバー戦のみならず、電子戦、そして潜在的には三戦(輿論戦、心理戦、法律戦)を含む任務を担当し、より広範な情報戦を遂行しているから複雑だ。

 中国の戦略的サイバースパイ部隊の大半は、ネットワークシステム部に大量に移されている。

図4「解放軍の軍事情報システム」

出典:China’s Strategic Support Force: A Force for a New Era

 サイバー任務は、主に技術偵察局の12個の局(図4参照)が担当し、サイバースパイ活動と信号情報活動を担当している。

 例えば上海所在の第2局には北米を担当する有名な61398部隊、青島所在で日本と韓国を担当する第4局(61419部隊)、北京でロシアに関係する活動をしているとみられる第5局(61565部隊)、武漢所在で台湾・南アジア担当する第6局(61726部隊)から、上海所在で宇宙衛星の通信情報を傍受する第12局(61486部隊)まで計12の主要部局がある。

 なお、これらの部隊には、サイバー戦の専任部隊のみならずC4ISR(Command Control Communications Computers Intelligence Surveilance Reconnaissance)を担当する部隊も含まれている。

3 戦略支援部隊解体:実験は失敗した?

 以上みてきたように、戦略支援部隊は非常に複雑な組織だ。

 理念的には現代戦に必須な情報戦、サイバー戦、電子戦、宇宙戦を一つの組織に担当させるのは理にかなっているところはある。

 しかし、実際の作戦を理念通りに行うのは簡単なことではない。将来的にはAIを駆使して戦略支援部隊の作戦を円滑に実施できるかもしれない。

 しかし、人間の指揮官が戦略支援部隊に与えられたミッションを円滑に行うのは至難の業だ。

 また、今回の解体の背景には汚職等の腐敗の問題があったのかもしれない。

 今回の改編では、戦略支援部隊を解体して新たに3部隊を設け、4軍種(陸軍、海軍、空軍、ロケット軍)・4部隊(情報支援部隊、サイバー空間部隊、軍事宇宙部隊、統合兵站部隊)の体制になる。

 新たな「サイバー空間部隊」は戦略支援部隊のネットワークシステム部を母体として編成するのであろう。

 新たな「軍事宇宙部隊」は宇宙システム部を母体として編成されるのであろう。

 新たな「情報支援部隊」はネットワークシステム部に存在する情報部隊を母体に編成するのだろう。しかし、詳しい情報はまだ明らかにされていない。

 今回の戦略支援部隊の解体は、昔の体制に戻ることを意味するが、その決定は現実的で実際的なものかもしれない。

 ただ、2015年の解放軍改革でも大きな混乱があったが、それをまた元の体制に戻す今回の改編にも大きな混乱が予想される。新組織が機能するまでには相当な時間が必要だろう。

 習近平主席の解放軍改革は平坦なものではなく試行錯誤を繰り返している。今後とも紆余曲折が予想されるが、そこには多くの教訓がある。

 筆者としてはクールにその状況を分析していきたい。

渡部 悦和

ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー、前・陸上自衛隊東部方面総監

1978年 東京大学卒業、陸上自衛隊入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。2013年退職

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