「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.259 ★ 中国が禁輸した「日本の魚」が、意外な国でビジネスチャンスを広げているワケ

2024年04月14日 | 日記

DIAMOND online (姫田小夏:ジャーナリスト)

2024年4月12日

食べることに目がないマレーシア人。日本からの水産物のシフトが歓迎されている(著者撮影)

「中国による禁輸」の功罪が見えてきた。昨年8月から始まった福島第一原子力発電所にたまる処理水の海洋放出で、中国は日本の水産物の輸入を停止。あれから約8カ月がたったが、中国市場に依存してきた日本の水産物の一部は、マレーシアをはじめとする東南アジアで活路を見いだしている。これも結果的には「サプライチェーンの脱中国」を促すことになったようだ。(ジャーナリスト 姫田小夏)

マレーシアで「日本食」のポテンシャルが高まる

 23年8月24日に東京電力が開始した「処理水の海洋放出」で、中国は即座に日本産の水産物に対する禁輸措置を講じた。そのため、日本の農林水産物・食品の輸出額は減少し、輸出先の転換や多角化は焦眉の課題となっている。

 一方、日本産の水産物に「禁輸措置」を講じなかった国もある。マレーシアもその一つだ。海洋放出が行われた翌日、モハマド・サブ農業食糧安全相は「日本からの水産物の輸入禁止を実施するかは決定していない」と伝えた。

 昨年10月初旬、宮下一郎農林水産相(当時)はマレーシアを訪問し、日本産水産物の安全性をアピールした。複数の現地メディアがこれを取り上げ、マレーシアのサバ州沖で実施しているモニタリングでは、この時点で放射性物質の検出はなかったことを報じた。

 もとより「海洋放出」以前から東南アジアでは、日本食の消費地として関心が高まっていたが、水産物見本市への積極的な参加や新たなホタテの加工基地の開設など、さらなる日本の水産物の市場開拓が進んでいる。

 同時に、日本食レストランにも期待が集まっている。

 日本貿易振興機構(JETRO)によれば、人口3350万人のマレーシアにおける日本食レストランの数は、22年5月時点で約1700店舗、クアラルンプール首都圏には約900店舗あるという。マレーシアは、1人当たりGDPが1万1109ドル(21年)と日本の4分の1程度。それだけにポテンシャルがあり、日本食レストランの発展も見込まれている。

 時々刻々と変化する日本食を巡るマーケットだが、クアラルンプールでは、今、“中国の禁輸”とともにある変化が起こっている。

「OMAKASE」を頼むことが一つのステータスに

「上等の食材がマレーシアに入るようになりましたよ」――クアラルンプールの高級日本料理店で包丁を握る田中敏行さんはこう語る。マレーシアに8年、日本食を取り巻く環境の変化を、コロナ禍以前からつぶさに見つめてきた。

 今マレーシアで起こっているのは、中国が日本の水産物を禁輸することで進む新たなサプライチェーンの構築だ。水産物のみならず、加工食品や調味料など、それに付随する日本の食の産業の南下が始まり、現地では、さまざまなイベントやプロモーション活動が行われている。

 振り返れば、20年のコロナ禍で、マレーシアも人々の行動が大きく制限された。飲食業界も苦戦が続いたが、一方で別の動きも見られた。地元の富裕層にとって、習慣化していた海外渡航ができなくなった分、その予算を「食」に投じるようになったのである。

「コロナを前後して『おまかせコース』を提供する高級店が増えました」と田中さんは話す。

「おまかせ」は、すし屋用語の一つだが、東アジアや東南アジアでは、高級志向の高まりを受け、「OMAKASE」を頼むことが一つのステータスになった。クアラルンプールの高級日本食を扱う店でも、キャビアやウニ、金粉でトッピングしたぜいたくな日本食が振る舞われるようになった。

 コロナ禍がもたらした“新市場”は予期せぬ出来事でもあったが、さらに「食のサプライチェーンの南下」も予期せぬ展開だった。中国による日本産水産物の禁輸が、回り回ってマレーシアの高級日本食市場に“福音”をもたらしているという側面もあるのだ。

 ちなみに、マレーシアに強いシフトがあることについて、隣国タイの高級すし割烹の店主は「首都バンコクではすでに日本料理店が飽和となっているためではないか」とコメントしている。

これまでマレーシアは中国に買い負けていた

 中国による日本産水産物の禁輸は、確かに日本の一部の水産業界に痛手を与えた。しかし、別の角度から見ると、「功罪」の「功」の部分も浮き彫りになる。田中さんはこう語る。

「今までマレーシアに“いい食材”が入りにくかったのは、中国に買い負けていたからでした。10年ほど前から、中国の業者が『いくらでも構わないから』と言って買い付けていったのが、日本産の水産物でした。その結果、仕入れ値が上昇してしまい、日本産水産物は手に入りにくい食材になってしまったのです」

 マグロ一尾まるごと欲しい、いくらでもいい、一番いいのを譲ってくれ…、こうした中国の業者の求めに応じ、高級食材は中国に流れ、日本は競り負けるという一面が潜在していた。ノドグロや金目鯛なども、今では日本国民の台所からはすっかり遠のいてしまっている。

 田中さんによると、日本の魚河岸で競りが行われると「最もいい魚介類はまず香港に行った」と言う。日本産の水産物は、香港の食の高級市場にがっちりと組み込まれていたというわけだ。しかし、香港も「海洋放出」を機に日本の10都県からの水産物の輸入禁止措置を講じている。

 その影響は香港の消費者にとっても小さくはないはずだが、田中さんは「今では、中国の地元で取れるいい魚を食べているんです」と語る。

中国の水産業界で進む日本産抜きの高級化?

 この状況から見えてくるのは、中国の水産物の一大変革だ。

 2000年代初期、上海でさえも冷蔵設備は不十分で、市場の水産物は発泡スチロール箱に入れて売られていた。コールドチェーン(冷蔵・冷凍に保ったまま流通させる手法)は未発達で、鮮度管理が必須の刺し身などの消費は、極めて限定的だった。

 しかし2005年を前後して、日系商社の取り組みの下で超低温物流などが整備され、中国の水産業界全体が徐々に底上げされていった。こうした黎明期を経て、中国は今、近海・遠洋漁業のみならず、養殖、加工、貿易や流通にも乗り出し、水産業の大規模化、国際化、エコロジー化を目指している。

 昨年11月には、中国屈指の水産拠点であるアモイ市で、当局の主催で水産物の国際会議が開かれたが、高級輸入水産市場の拡大に焦点を当てたフォーラムには、英国、アルゼンチン、ノルウェー、米国、ペルー、カナダ、ベトナムなどの大使館や業界団体の代表が参加した。

 こうした報道からは、日本の不在の下でも、中国における高級水産物市場の形成が進んでいる一端が垣間見られる。

 筆者はクアラルンプールでの取材中、「日本への出張から戻ったばかりだ」と話すマレーシア人の仲買人と出会った。日本の錦鯉と金魚の売買が彼の生業であり、数週間で日本の養殖地を数カ所巡ったという。

「今、日本の錦鯉も金魚も中国に直接輸出できないので、取引の一部はマレーシア経由で行っている」とこの仲買人はほのめかした。両腕に金魚のタトゥーのある40代と思しき彼の話からは、中国の水産物禁輸がマレーシアにもたらす商機が見て取れた。

 この十数年間、世界は中国の独り勝ちを許してきたが、それが意味するものは巨額の資金を惜しみなく投じた“独り占め”でもあった。水産物もまたその一つだった。

 しかし、中国による禁輸は、皮肉にも“オウンゴール”となり、日本にとっては新たなマーケティングの機会を、マレーシアにとっては従来手に入りにくかった高級水産物の供給をもたらしている。

 中国との結び付きが薄れることで逆に軌道を取り戻す…そんな“玉突き現象”はマレーシア以外にもあるのかもしれない。

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No.258 ★ 中国ネット文学、進む海外進出 多くのファンを獲得

2024年04月14日 | 日記

36Kr Japan

2024413

中国のネット文学は近年、無形文化遺産や民間伝説、歴史故事などを多く取り上げ、伝統文化の多様な題材との融合を図っている。伝統文化を反映した「国潮」作品が流行する一方で海外でも文化背景の異なるユーザーを多く獲得。ストーリーの続きを待ちわびるなど人も多いという。
 
中国社会科学院文学研究所が2月に発表した「2023中国ネット文学発展研究報告」によると、中国のネット文学作家は23年末時点で2405万人、作品数は3620万本。利用者は5億3700万人と前年から9%増加した。中国インターネット情報センター(CNNIC)が23年8月に公表した第52回「中国インターネット発展状況統計報告」による中国のネット利用者数は10億7900万人なので約半数がネット文学利用者ということになる。
 
「国潮」文化が若者の支持を集める中、ネット文学にも同様の傾向が見られ、「唐人的餐卓」は伝統料理に焦点を当て、「洞庭茶師」は茶文化を背景に現代の起業物語を描写。「我本無意成仙」(仮訳:仙人になる気はなかった)は評書(講談)や木彫、溶かした鉄を空にまく伝統行事「打鉄花」など無形文化遺産の要素を取り入れている。
 
23年の中国ネット文学のもう一つの特徴はグローバル化で、「研究報告」によると海外の市場規模は40億元(1元=約21円)を超え、閲覧者は約2億3千万人、200カ国・地域余りに広がった。人工知能(AI)による翻訳やIP(知的財産権)の世界的な相互作用などの好材料に支えられ、小説や映画・ドラマ、ゲームなどに代表される「中国語IP」は徐々に世界的視野を持つようになり、ネット文学作家の横掃天涯さんが書いたファンタジー小説「天道図書館」のように英語やフランス語、スペイン語などに翻訳され、海外からの閲覧数が1億8千万回を超える作品も現れた。ロシアで人気が高い翻訳サイト「Rulate」では「修羅武神」「全職法師」などの閲覧数がいずれも2千万回を超えている。
 
海外のソーシャルネットワークサービス(SNS)では「仙侠や道教のファンタジーが好き」「中国のネット文学はやみつきになる爽快感がある。つねにハラハラし、心が揺さぶられる」など中国ネット文学への称賛が多く見られる。
 
ネット文学の海外進出では映画やテレビ・ラジオドラマ、寸劇動画など派生作品の影響力もますます高まっている。現代の記憶を持ったまま過去に転生した若者が活躍する歴史ドラマ「慶余年~麒麟児、現る~」のシーズン2は、中国ドラマでネットの視聴予約が初めて1千万を超え、海外の独占配信権はディズニーが獲得。宋の時代の農村にタイムスリップした女子大生のラブコメディー「田耕紀~田園ロマンス~」は中国の動画配信サービス「愛奇芸」のタイ版、日本版の人気ランキングでトップとなり、中国電子書籍大手の閲文集団(チャイナ・リテラチャー)が初めて海外配信した小説「蒼穹の剣」はオンラインゲーム化されてマレーシアとインドネシア、タイで配信された。
 
中国ネット文学の他文化への広がりは国や地域により方向性やスピードが異なり、現在は主に北米と東南アジア市場に集中している。女性向けネット文学サイト「晋江文学城」の劉旭東総裁は今後の国際化について「さまざまな国・地域の読者のネット文学に対する好みを理解することで初めて市場開拓・運営の狙いを定めることができる」と指摘した。
 
閲文集団の責任者は「ネット文学は東西文化モデルの交流を実現し、世界で中国文化の代名詞になりつつある。IPの多元的な発展は、優れた作品に世代を超えて愛されるグローバルなIPになるチャンスをもたらす」と語った。

(新華社北京)

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