葡萄舎だより

海峡の街・下関の、葡萄舎の住人・洒人 (しゃじん) が身の周りの些事片々を書き綴ります。
本人は日記のつもりです。

(今年も)桜の樹の下で

2006年04月07日 19時36分57秒 | 日記 ・ 雑記録
下関に桜の名所は数多い。
葡萄舎から100m、国道2号線~9号線の神戸製鋼に沿った歩道に見事な桜並木があるが、
花見に訪れる人はいない。酒宴を張る人はもちろんいない。
騒音と排気ガスで、とても花(と酒)を愛でる雰囲気ではないから。
私の毎年の花見は、功山寺の境内と決めている。歩いて3700歩。

功山寺は、国宝の仏殿もある古刹だが、高杉晋作の奇兵隊が挙兵した場所、
明治維新胎動の地として有名な寺である。
仏殿の真後ろには我が家の墓もあるが、これは無名である(笑)

ここ二日ばかり雨天だったが、風がなくて助かった。
今日が満開だろう。
粋人に言わせると、八分咲き、これを満開というらしい。
蕾が全て開いた状態、すなわち満開は、一部の花びらが散り始めて見苦しいから、
八分咲きが一番いいのだそうな。
私は、♪嗚呼、玉杯に花受けてェ~ の花びらが散る情景の方が「あはれ」で好きだ‥‥。

本堂と仏殿を見渡すベンチが空くのを待って、今年の花見はその場所で、と決まった。
持参したワインは 
Toscana Rosato 2003 Castello di Ama
他にはヱビスビールが2缶。
アマのロゼは今年で4回目。功山寺での花見も4回目だから、
功山寺・桜、アマのロゼ は定番化してしまった。

私が陣取ったベンチで、隣に座ったのは、80代も半ばを過ぎた品のいい老夫婦。
さりげなく二言三言交わして、ワインに関心がおありのようだから勧めた。
仰るには
「昔は飲んだけど、今は飲まない。飲んじゃいけない。(医師から) とめられている」
「でも、このくらいなら」 とグラスに1/3ほど注ぐ私。

「そうですか」と旦那さん。
隣の奥様は、いつもだったら とんでもない といさめる側だろうが
にこやかに、旦那さんがグラスを口に運ぶのを見つめていらっしゃる。
長い時間をかけて飲み干すまでに、旦那さんはワインへの想いをあれこれと。
飲み干して
「イヤァ~、いいワインだった。これは本物だ。
まさか、今日、ワインをいただくとは思ってもいなかった。
日記というほどの大それたものじゃないが
4月7日。功山寺。桜満開。美味しいロゼワイン。
と書き残しますよ。ありがとう」

旦那さんにとって、最後のワインかもしれない。
旦那さんの寿命を縮めるワインになったかもしれない。
でも、私に罪の意識はない。
これが、私の、ワインの、全てだ。

昨年、功山寺の境内で花見をして、こんなことを書いている。

‥‥‥‥‥‥‥‥
隣に座った幼児連れのお母さんが旦那に一言。
「ビールかワインを持って来ればよかったね」
聞き逃すはずがない。このために、予備のグラス3個を用意しているから。
早速、ロゼと赤を差し上げた。飲みっぷりのいいこと!
(旦那は運転でダメ)
こんな人を私のもとに集めたいのだ。
こんな人たちと、安くて美味いワインを見つけて楽しみたいのだ。
……………………

1年経っても、私はちっとも変わっていないし、成長もしていない。
ワインの素晴らしさも変わっていない。
いい一日だった。