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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/20(木)日本フィル杉並公会堂/三ツ橋敬子+松本紘佳でフレッシュなベートーヴェン

2012年09月22日 02時24分57秒 | クラシックコンサート
日本フィルハーモニー交響楽団 杉並公会堂シリーズ 第3回

2012年9月20日(木)19:00~ 杉並公会堂・大ホール S席 1階 4列 8番(実質2列目)5,000円
指 揮: 三ツ橋敬子
ヴァイオリン: 松本紘佳
管弦楽: 日本フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
ベートーヴェン: 《プロメテウスの創造物》序曲(作品43)
ベートーヴェン: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
ベートーヴェン: 交響曲 第5番ハ短調 作品67「運命」
《アンコール》
 ベートーヴェン:「12のコントルダンス」から第8番 ハ長調

 1994年以来、東京都杉並区と提携関係にある日本フィルハーモニー交響楽団の杉並公会堂シリーズに足を運んだ。杉並公会堂は、自宅からは少々遠いイメージがあるので、特別のことがない限りはあまり行く機会はなかった。ご承知のように現在の杉並公会堂は、古くからあった旧公会堂を建て替えたもので、2006年にリニューアルした。1,000名ちょっとのシューボックス型ホールで、残響可変装置など最新の音響環境を誇る。小粒でピリリ、というタイプの素敵なホールだ。
 一方、日本フィルの最近の演奏の素晴らしさは何度も報告してきた通りだが、今日の指揮者はいろいろなオーケストラから引っ張りだこの三ツ橋敬子さん。この人についても、もう説明の必要はないだろう。私は昨年2011年6月に東京フィルでベートーヴェンの「皇帝」(ピアノ独奏は横山幸雄さん)と「英雄」を、最近では今年の7月に新日本フィルでチャイコフスキーの「眠りの森の美女」と「悲愴」を聴いた。いずれもキレ味の鋭いリズム感と、メリハリの効いたダイナミックな演奏を聴かせてくれた。山田和樹さんと並んで、若手では人気・実力を兼ね備えた(そして見た目にも知的で美しい)素敵な指揮者だ。
 また、ヴァイオリンの松本紘佳さんは、1995年生まれの高校生だが、すでに内外でのヴァイオリニストとしてのキャリアをスタートさせている天才少女で、この秋からウィーンに留学するのだという。これまで聴く機会がなかったのが不思議なくらいだが、今日はベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲という大曲に挑むということで、杉並公会堂まで足を伸ばす理由になったのである。

 1曲目は「プロメテウスの創造物」序曲。1801年初演のバレエ音楽で、現在はほとんど上演されることはなく、もっぱら序曲だけが演奏会で採り上げられている。ベートーヴェンが難聴に犯され苦悩の日々の中で作曲されてはいるが、楽想は明るく、形式はウィーン古典派のハイドンやモーツァルトの影響がまだ一部に感じられるが、ベートーヴェンらしい躍動感や劇的な要素も見られる。
 演奏の方は、冒頭の全合奏の和音が明瞭にホールによく響き、ソナタ形式の本体部分はテンポを上げて、三ツ橋さんのカッチリとしたリズム感で、気持ちよく音楽が流れていく。活き活きとした躍動感もうまく表現されている。第2主題などを演奏する際の木管群も軽快だ。弦楽はややウォームアップ不足(?)な感じで、やや濁り気味に感じた。

 2曲目はヴァイオリン協奏曲。松本さんは白とピンクのフワフワしたお姫様風の衣装で登場。とくに上がっている様子もないし緊張しているようにも見えない。三ツ橋さんのタクトで曲が始まると、オーケストラの音に耳を傾けている様子だ。第1楽章の長い主題提示部を経て、ヴァイオリンが上昇するフレーズで入ってくる。ヴァイオリンの音色は、やや線の細い感じのするキレイな音で、ひとつひとつの音符を正確に弾いているといった印象だ。低音域から中音域は音量も豊富で、豊かに鳴っている感じだだが、高音域がやや音量不足に聞こえた。もっともこれは聴いている席の位置も関係しているかもしれない(今日は2列目の左ブロックだったのでソリストを横から見るような位置だ)。まあそれは些細なことに過ぎず、全体としてはしっかりとした構成感を持った、正統派の演奏であった。高校生という年齢を考えると、落ち着いた、堂々たる演奏だ。三ツ橋さんもこの曲に関してはやや遅めのテンポを取り、ソリストが丁寧に正確に演奏できるようにサポートしていた。オーケストラだけの部分はややテンポを上げて、メリハリを効かせてダイナミックに押し出すが、独奏ヴァイオリンのある部分はオーケストラを抑え気味な抑制して、ソロを際立たせている。松本さんのヴァイオリンもオーケストラのないカデンツァ部分の方が、自由度が高く伸び伸びとして天才ぶりを発揮していた。
 第2楽章はロマンティックな楽想の緩徐楽章だが、ヴァイオリンが入る前のホルンが弱音をコントロールしきれず、ポワンと出てしまったが、松本さんの方は動じることもなく静かにヴァイオリンを歌わせる。演奏は上手いし、オーケストラともアンサンブルも見事だ。純音楽としては素晴らしい演奏だと思うが、ひとつ何かを足す必要があるとしたら、それは「表情」かもしれない。言い換えれば、喜怒哀楽だ。感情の起伏のようなものが湧き起こってくると、音楽がもう少しねちっこく潤ってくるような気がするのだが。
 第3楽章に入ると、松本さんの演奏にもダイナミックな変化が出てきた。元気に跳ね回ったり、悲しげな表情を見せたり、音楽に内なる感性が表出している。低音部の力感もグッと増し、全体の音量も大きく、ダイナミックレンジも拡がってきて、ロンドの展開に従って多彩な音色が飛び出してくる。カデンツァのキレ味も強く、フィニッシュに向かっての推進力もオーケストラに負けない存在感を押し出していた。
 初めて聴かせていただいた松本紘佳さんの演奏は、全体としては、ベートーヴェンの大曲を堂々と演奏しきった、といった印象だ。第1楽章と第2楽章はどちらかといえば単調に感じもしたが、それは第3楽章の躍動への流れだったのかもしれない。演奏の技巧に関しては既に一定以上の水準を超えているし、細やかなフレーズの描き方も上手い。楽曲全体の構造的なとらえ方も非常にしっかりしている。そんな素晴らしい演奏に会場も大喝采であった。しかしそうした中にまだまだ「未完」の要素はたくさん含まれていた。どこがどうだということは敢えて言わないが、むしろその「未完」の部分が、現在の松本さんの演奏の最大の魅力だと思う。つまり、「完成」に向けて、今後、演奏するたびに進化していくのを聴くことができる、という意味である。

 後半は、「運命」。三ツ橋さんの指揮では、過去に東京フィルの「英雄」を聴いているので、何となく想像はつく。素晴らしい演奏が期待できそうだ。
 第1楽章、冒頭の動機の提示から早めのテンポを刻む。フェルマータも短い。怒濤のような推進力で、曲がグイグイと押し進められていく。キレの良いリズム感と広いダイナミックレンジだ。日本フィルも緻密なアンサンブルで三ツ橋さんの指揮に応えている。終盤に向けてややテンポは遅くなっていったような気がするが、最後まで留まるところのない推進力で、構造感も打ち出していた。
 第2楽章も基本的に早めのテンポで押し通した。その切れの良いスピード感の中で、時折旋律を大きく歌わせるのが三ツ橋流だ。その際の緩急のタイミングの取り方が絶妙で、音楽をけっして単調にしないのである。
 第3楽章のスケルツォも、抜群のリズム感で押していく。トリオ部分のフガートも低弦から始まるアンサンブルをしっかりとまとめた。
 続く第4楽章では、トロンボーンを含めた金管が晴れやか咆哮し、歓喜の音楽を描き出していく。ここでもテンポは速めで、しかも揺らがない。三ツ橋さんの自信に満ちたタクトで、突っ走っていく。フィニッシュまで緊張感を緩めることなく、テンポ良く押していくのだが、よくよく聴いてみると、そこには三ツ橋さん特有のスイング感があって、一本調子に陥ることなく、快調なテンポで虚飾のない音楽を作っているのだ。
 そう、三ツ橋さんの音楽の良さは、この独特のスイング感ではないだろうか。拍子を正確に刻んでいるようで、微妙にスイングしている。だからこそ、早めのテンポ、躍動的なリズム感、その中で旋律をしっかりと描く、という方法論に独特の色合いの陽菜ものが生まれるのだと思う。そんなことを発見させてくれた、今日の「運命」であった。
 アンコールはベートーヴェンの「12のコントルダンス」から第8番 ハ長調。…初めて聴いた…。

 今日はアンコールも含めて、オール・ベートーヴェン。三ツ橋さんの音楽は、聴いていて気持ちが良い。スッキリと明快で、迷いがないような気がする。いま出来ることを精一杯やっている、という感じがして、気持ちが良いのだ。これからも三ツ橋さんを聴く機会は増えていくに違いない。松本紘佳さんも今後も注目していきたいところだが、ウィーンに留学されてしまうので、次はいつになるやら。でも、協奏曲でもリサイタルでもいいから、次回も必ず聴いてみたいと感じている。

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