Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

1/26(日)村治奏一&川久保賜紀/ソロ&デュオ/上品なギターと流麗なヴァイオリンの“響”宴

2014年01月28日 01時53分16秒 | クラシックコンサート
村治奏一&川久保賜紀 “ソロ&デュオ・コンサート”
~ギターとヴァイオリンの華麗なる響宴~


2014年1月26日(日)15:00~ 上野学園 石橋メモリアルホール 指定席 1階 A列 17番 4,000円
ギター: 村治奏一
ヴァイオリン: 川久保賜紀
【曲目】
◆第1部~クラシック・ギターの魅力〈村治奏一・ギター・ソロ〉
藤倉 大: sparks
西村 朗: 玉響(たまゆら)
クープラン: 神秘的なバリケード/森の妖精/手品
ファリャ:『三角帽子』より「粉屋の踊り」
ラヴェル: 亡き王女のためのバヴァーヌ
ピアソラ:『ブエノスアイレスの四季』より「秋」「春」
◆第2部~ギターとヴァイオリンの響宴〈村治奏一&川久保賜紀・デュオ〉
ビアソラ: 『タンゴの歴史』より「ボーデル(酒場)1900」「カフェ1930」「ナイトクラブ1960」
バルトーク: ルーマニア民族舞曲
      1.村の踊り 2.飾り帯の踊り 3.足踏みの踊り
      4.角笛の踊り 5.ルーマニア風ポルカ 6.速い踊り
パガニーニ: 協奏的ソナタ イ長調 作品61
《アンコール》
 武満徹編: オーバー・ザ・レインボウ(ギター・ソロ)
 パガニーニ: カンタービレ(デュオ)

 公益財団法人台東区芸術文化財団の主催によるコンサートということで、地元の台東区出身のギタリスト、村治奏一さんを起用しての文化事業ということらしい。自治体もののコンサートにままあることだが、告知の方法やチケット発売の方法が通常のクラシック音楽の世界の慣例から少しはずれていたりして、完売には至らなかったようである。
 村治さんは2012年9月に東京フィルハーモニー交響楽団の東京オペラシティ定期シリーズに客演して、ロドリーゴのアランフェス協奏曲の演奏を聴いたことがある。都会的に洗練されたイメージの演奏が印象に残っている。
 一方、今日のコンサートでは、後半のみのゲスト出演となる川久保賜紀さんは当ブログではお馴染みである。彼女が東京近郊で演奏される際には最優先で聴きに行く。しかもほとんどが最前列の正面の席という徹底ぶりだ。今日は、昨年10月の「仙台クラシックフェスティバル2013」まで聴きに行って以来。実は11月2日に所沢で東京交響楽団のコンサートにゲスト出演したものがあったが、その時は最前列正面の席を抑えていたのに、仕事の都合でどうしても行けなかったので、非常に悔しい思いをしたものである。今日は久しぶりになるが、後半だけのゲスト出演というのもちょっと残念だ。

 さて前半は、「第1部~クラシック・ギターの魅力」ということで村治さんのギター・ソロである。現代音楽、バロック、近代フランス、そしてラテンという風にバラエティに富んだプログラムの構成になっている。
 1曲目は、藤倉 大さんの「sparks」という曲で、ほとんどがハーモニクス奏法の1分半程度の曲。火花が飛び散るような様を表しているらしい。不規則なハーモニクスの音が繊細な美しさを描き出している。
 続けて演奏されたのは、西村 朗さんの「玉響」という曲。玉響(たまゆら)というのは万葉の時代の古語で、「しばしの間」というような意味。わずかな時の間に周囲のものの色合いや風合いが変化していく様を描いている。こちらは9分くらいの長い曲で、琴のような特徴的なトレモロとハーモニクスを効果的に使っていて、朝霧の中でせせらぎの水が小さな飛沫となって散るような幻想的な雰囲気の曲である。日本的な静寂美といった感じで、もはやギターの持つラテン系のイメージは皆無といってよい。村治さんの演奏は、常に清楚で気品があり、この独特の世界観をうまく描き出していた。
 続いて、クープランの「神秘的なバリケード」「森の妖精」「手品」の3曲。フランスのバロック音楽である。単調な中にもわずかに音色に変化を付けて、あるいはかすかにテンポがゆらぎ、旋律に上品な抑揚を付ける、洒落た演奏であった。
 ファリャの『三角帽子』よりの「粉屋の踊り」は、当初プログラムには載っていなかったが、追加して演奏された。次のラヴェルがスペインのバスク地方の出であることからスペインへの傾倒が強いのはよく知られているが、バロック次代のフランスから近代のラヴェルへの橋渡しの意味で、スペインのこの曲が追加されたという。やはりこの手の舞曲こそはギターのイメージにピッタリで、ラテン系のリズム感が心地よく響いた。
 ラヴェルの「亡き王女のためのバヴァーヌ」はあまりにも有名な曲であるが、元曲のピアノ版と比べても、ギター編曲で聴くとまた違った新鮮な趣がある。和音が出せるギターならではというところだ。村治さんの淡々とした表現の中にも微妙で優しい煌めきを交えた演奏は、とても素敵だった。昔、クラシック・ギターをかじったことがあるので、無性にこの曲を弾いてみたくなった(もちろん技量的にまったく無理だとは思うが)。いつか挑戦してみたい。
 第1部の最後は、ピアソラの『ブエノスアイレスの四季』より「秋」と「春」。アルゼンチン・タンゴともちょっと違う、ピアソラ独特の哀愁に満ちた旋律の美しさがギター編曲ではより一層強調されるようである。村治さんの演奏は、あくまで気品があり、過度な感情表現に走らない。一歩引いた冷静に雰囲気が、秘めたる熱情をかえって感じさせるのかもしれない。素晴らしい演奏であった。

 プログラムの後半は、「第2部~ギターとヴァイオリンの響宴」と題して、川久保さんをゲストに迎えてのデュオ・コンサートに変わる。村治さんもトークの中で彼女のことを賜紀さんと呼んでいたし、終演後のサイン会の時も係の人たちが皆、賜紀さんと呼んでいたので、私もそろそろ賜紀さんと呼ばせていただくことにしよう。なお、後半は音量の大きなヴァイオリンとギターの共演になるので、ギターにはPAが設置されている。
 実は今日の後半のプログラムである、ピアソラ、バルトーク、パガニーニの3曲は、村治さんのお姉さんの佳織さんと賜紀さんのデュオで2回聴いたことがある。ちょうど1年前の昨年2013年1月~2月に、佳織さんと賜紀さんがデュオで全国ツアーを行った際に、千葉県の印西市文化ホール横浜市青葉区のフィリアホールで聴いたものである。姉弟の個性の差も感じられて興味深かった。
 まず初めに、ビアソラの『タンゴの歴史』から「ボーデル(酒場)1900」「カフェ1930」「ナイトクラブ1960」の3曲を。本来はその後に「現代のコンサート」が加わる4つの組曲で、元曲はフルートとギターのための二重奏曲だ。1900年頃の酒場、1930年代のカフェ、1960年代のナイトクラブという時代の移ろいと共に場所を変えてタンゴが演奏されてきた「歴史」を綴った曲である。賜紀さんのヴァイオリンは、「ボーデル1900」ではキリッとした立ち上がりを聴かせるものの角が尖っていない、エレガントでリズミカルな踊りの音楽を描き出す。「カフェ1930」では色気のある大人の女の佇まいを見せ、泣かせるような音楽を聴かせてくれる。「ナイトクラブ1960」では、哀愁と悲哀のロマンティシズムが描き出される。それらの表現力の根底にあるのは、正確な音程の流れるようなレガートや弱音の繊細すぎるほどの美しさによる。確かな技巧の上に成り立っている感受性の強い表現力なのである。もちろん、村治さんのギターも清楚で上品な中にも切ない哀愁を漂わせる素敵な演奏でバックアップしていた。
 次は、バルトークの「ルーマニア民俗舞曲」。元はピアノ曲で、それをヴァイオリンとピアノの二重奏曲に編曲したものを、さらにヴァイオリンとギターで演奏するというカタチになる。「村の踊り」ではヴァイオリンの低音が豊潤な響きを聴かせ、「飾り帯の踊り」では、ギターとのアンサンブルも息がピッタリ。「足踏みの踊り」では賜紀さんがヴァイオリンのフラジオレットの重音という怪しげな音色を抜群のテクニックで聴かせてくれた。「角笛の踊り」になると一転して流麗なヴァイオリンが民俗調の旋律を奏でる。「ルーマニア風ポルカ」と「速い踊り」は続けて演奏され、村人たちが陽気に踊りまくっている様子が目に浮かぶようであった。
 最後は、パガニーニの「協奏的ソナタ」。この曲はヴァイオリンの神様のパガニーニばギターも弾けたということで、ヴァイオリンとギターのために書かれた曲である。第1楽章は、まるでイタリア歌曲のように歌うような美しい旋律の2つの主題を持つソナタ形式。いかにもパガニーニという、明るい曲想である。賜紀さんのヴァイオリンは極めて明るい暖色系の音色で、流れるように旋律を歌わせていく。さりげなく流しているようで速い装飾的なパッセージも正確無比の音程で見事なものである。第2楽章は短調の緩徐楽章。ヴァイオリンの穏やかな旋律に対してギターが動きのある旋律を受け持つ。ギターの音量に合わせて、ヴァイオリンをかなり抑えて弱音で弾いているのが分かるが、安定した美しい音色である。第3楽章は明るく弾むような曲想が楽しい。明るい音色のまま、時折微笑みを交えて賜紀さんの演奏している姿は、とても演奏と同様にエレガントである。

 アンコールは、まず村治さんのソロで武満 徹さんの編曲による映画音楽「オーバー・ザ・レインボウ」。編曲の良さも手伝って、村治さんのギターが情感たっぷりに、美しく不協和音を響かせていた。それにしても、村治さんのギターは本当に気品があって素敵だ。
 アンコールの2曲目はデュオに戻って、パガニーニの「カンタービレ」。賜紀さんのヴァイオリンはまさにカンタービレ。これ以上に美しい音色でしっとりと歌い上げることができる人は他にはいない。もう溜息ものである。Brava!!
 実は、今日は同時刻に横浜みなとみらいホールでサンクトペテルブルク・フィルの来日公演があった。そちらでは巨匠テミルカーノフさんの指揮で庄司紗矢香さんがチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を弾いている。このコンサートもベスト・ポジションのチケットを取っていたのだが諦めて手放し、最優先順位の賜紀さんを選んだという次第。後半だけの出演だったとはいえ、やはりこちらを選んで正解だったと思う。今日はじっくりと腰を据えて聴いたつもりだが、賜紀さんの演奏は、最高水準の技術を持っているにも関わらず、まったくその気配さえ見せないエレガントさで、暖かみのある音色で流麗な音楽を創り上げる。彼女にしか出せない音があり、彼女にしか創り出せない世界がある。


 さて終演後は恒例のサイン会。ところが当初は新譜CDがリリースされたばかりの村治さんだけの予定だったらしい。並んだ人数もさほど多くはなかったが、賜紀さん目当ての人も何人かいることが判明したので、係の人が呼びに行ってくれて、すでに着替えも済ませていた賜紀さんも参加されることになった。
 「アランフェス協奏曲」の入った村治さんのCDを購入し、ジャケットにサインをいただいた。そして色紙には村治さんと賜紀さんにサインしていただく。最後に記念写真を撮らせていただくのも半ば恒例となった。相変わらずエレガントで美しい賜紀さんでした。



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