Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/15(日)東京フィルオーチャード定期/菊池洋子の絶品モーツァルトとエッティンガー入魂のマーラー5番

2015年02月15日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
東京フィルハーモニー交響楽団 第858回オーチャード定期演奏会

2015年2月15日(日)15:00~ オーチャードホール S席 1階 9列(実質4列目) 19番 6,930円
指揮 : ダン・エッティンガー*
ピアノ: 菊池洋子**
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
モーツァルト: ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調 K.466**
《アンコール》
 シューベルト: 軍隊行進曲 作品51(連弾)* **
マーラー: 交響曲第5番 嬰ハ短調

 東京フィルハーモニー交響楽団では定期会員向けのサービスの1つとして、定期演奏会の公開リハーサルを年に数回行っている。今シーズン(2014/2015)も4回くらいあったかと思うが、内容やスケジュールとの関係で、2回だけ申し込んだ。いずれかの定期シリーズの年間会員であることが条件で、所定の時期に申込みさえしておけば、入場証となるハガキが送られてくるので、それを持って行けば無料で1回につき2名が参加できる。自分が会員にはなっていないシリーズのリハーサルにも無料で参加できるが、本番の公演はもちろん有料でチケットを取らなければ聴くことはできない。
 私は東京オペラシティ定期シリーズの会員になっているので、この資格を得て、前回は東京オペラシティの2014年10月24日の公演の時に参加した。今回はオーチャード定期なので、別途チケットを取っておいたのである。

 さて、東京フィルのオーチャード定期は休日の午後3時からなので、リハーサルは午前11からであった。しかも参加する会員向けにプレトークまである(何と朝の10時15分から)。今回は指揮者の団・エッティンガーさん自らが、集まった私たちの目の前で、本日の演目、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番とマーラーの交響曲第5番について語ってくれた。エッティンガーさんはモーツァルトが24時間演奏し続けられるくらい好きなのだそうだ。そのモーツァルトが古典派の中からロマンティックな音楽の先駆けとなり、その集大成に当たるのがマーラーというわけで、今日のプログラムになったとか。
 リハーサルは、オーチャードホール1階の中央通路より後方、つまり20列より後方の席が私たち参加者に開放されて自由に席に着くことができた。私は早くから並んでいたので、20列のセンター鍵盤側で聴かせていただくことができた。リハーサルはモーツァルトのピアノ協奏曲、マーラーの交響曲第5番の順で、間に休憩を挟みながら、ほぼノンストップ、ほんの数回、演奏を止めて細かな確認を行う程度で、完全なゲネプロである。前半分に聴衆のまったくいないホールはクリアで快適な響きに満ちていて、ものすごく贅沢な一時を過ごすことができた。11時から始まったリハーサルが終了したのは午後1時半頃。その後一旦ホールから退出し、食事などを済ませてから、改めて2時30分に開場となった。

 さて本番の演奏。前半はモーツァルトである。聴くのは本日2回目となるわけだが、今度は4列目のセンター、指揮者の真後ろという位置だ。オーチャードホールはステージが高めなので、ちょうど視線の高さがステージの床面と同じになる。従ってやや見上げる感じになる。オーケストラは、ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置で、第1ヴァイオリン側にチェロとコントラバスがいる。スラリと背の高い菊池さんが真っ赤なドレスで登場(画像は昨年10月の「せんくら2014」の時のもの)。エッティンガーさんの襟を立てた黒いコートのようないつもの衣装で現れた。
 第1楽章。エッティンガーさんの音楽作りは、なるほどロマン派の香りがする。造形は古典的でも優雅さよりはダイナミズムや抒情性が前に出てくるし、東京フィルにもロマン派っぽい濃厚な音色を出させている。菊池さんのピアノが入って来ると、一瞬ハッとするような静寂に包まれ、クリアなサウンドが広がっていく。菊池さんも古典的というよりは濃厚なロマンティシズムを漂わせる演奏だ。オーケストラは軽快なリズム感と流れるようなレガートが美しく、ピアノはシャンデリアのような煌めきを見せる。確かに、このように演奏すると、モーツァルトはロマン派の入口に聞こえてくる。そして今日のカデンツァはベートーヴェンの作曲によるもの。ますます殻から飛び出してくるような音楽になる。菊池さんの揺るぎない技巧と、パッションの込められた演奏も、確かにロマン的であった。
 第2楽章の有名な主題は、やや古典に戻り、モーツァルトの緩徐楽章らしい、弦楽の澄んだアンサンブルと、そこに絡むピアノの音が丸く、典雅な装いを見せている。弾いている時の菊池さんの表情も優しく、穏やかな微笑みさえ浮かべ、気持ちよさそうに演奏していた。
 第3楽章はロンド。ピアノの軽快にロンド主題に誘われて、オーケストラがシンフォニックな推進力を見せる。そこから先はピアノとオーケストラが対話するように絡み合っていく。菊池さんのピアノはここでもロマン的な香りを撒き散らしながら、リズムに乗った流れの良い音楽を創り出している。また、エッティンガーさんがドライブする東京フィルの奥行きのある濃厚なサウンドが、確かにこの曲を古典派の枠組みからはみ出させるイメージを描き出す。カデンツァはゴージャスな響きに満たされていた。これは素晴らしい演奏だといっていいだろう。まずは菊池さんにBrava!!を送りたい。
 菊池さんのアンコールは・・・・・と思ったら、エッティンガーさんとの連弾!! これは珍しい。曲はシューベルトの「軍隊行進曲」。初めは高音パートを菊池さんが弾いていたが、途中からするりと席を移って菊池さんは低音パートに変わる。菊池さんがアイコンタクトで合図しながら二人で弾いている様子を見ると、まるで恋人同士のように・・・は見えず、優しいピアノのお姉さん先生がいたずら坊主に教えているピアノ教室のようで、とても微笑ましい光景だった。とはいえそこから聞こえてくる演奏は、あくまで一級品である。Bravi!!

 後半は、マーラーの交響曲第5番。この長大な作品を1日に2度聴くというのも・・・・、ところが、どういうわけか、東京フィルの公開リハーサルで2012年1月の東京オペラシティ定期シリーズの時も、外山雄三さんの指揮でマーラーの5番だった。いやはや聴く方も大変だが、演奏する人たちも疲れてしまわないものなのだろうか。
 第1楽章は、かなり遅めのテンポで始まり、悠然と、かつダイナミックに、オーケストラがうなりを上げる。トランペットの咆哮に始まる金管群の濃厚な色彩感がとくに素晴らしい。ティンパニを中心とした打楽器群のリズム感も重厚で、底辺から劇的に盛り上げて行く感じだ。エッティンガーさんは主題の旋律に独特の節回しを付けて、オーケストラをしなやかに回していく。この辺の感性は、若いのにしたたかというか、ご自身の世界観を描き出すことには余念がない。旋律を歌わせることに対してはかなり細かく全身を使って指示を出している。その結果、かなり濃厚なマーラーとなった。東京フィルのサウンド特性をしっかり把握した上でのことだろう。見事なものである。
 第2楽章は、こちらが本来の第1楽章に相当するソナタ形式のAllegro楽章になる。激しく攻撃的な第1主題と、穏やかで抒情性たっぷりの第2楽章の対比が鮮やかである。それにしても金管群の光沢のある音色と透明感がありながら濃厚な音色と芯のハッキリとした弦楽アンサンブルの見事なことといったら。かなり音量を落とした弱音部の静寂感から、全合奏の爆発的なエネルギーまで、ダイナミックレンジが非常に大きく、各パートのバランスも極めて良い。展開部の後に唐突に現れる金管のコラールの壮麗な美しさ、高品質な響きは、何とドラマティックなことか。
 第3楽章はスケルツォ。今度はホルンが艶やかな音色でノリの良い演奏を聴かせる。カノン風に展開していくのも、各楽器の濃厚な色彩感が、曲全体の質感をグッと深みのあるものにしている。第1・第2楽章に比べると抑制的な楽章だが、質感の高さではこちらの方が素晴らしかったかも。何といっても、ホルンが素晴らしい!!
 そしてハープの分散和音が誘い出す「アダージェット」。ppのヴァイオリンが美しく・・・ひたすら美しい音色で、天国的な音楽を奏でていく。アダージェットなのだから遅いのは当たり前だが、今日はとくにテンポを落としての演奏なのに間の抜けたようなところは微塵もない。ひとつひとつのフレーズ毎にゆったりとした抑揚を与え、ギリギリにまで絞り込んだ弱音の持つ美しさと同時に、心地よい緊張感があり、得も言われぬ音楽空間に身を委ねさせてくれる。至福の時だ。
 第5楽章はロンド・フィナーレ。またまたホルンが大活躍。そしてフーガが次々と繰り出されてくるのも特徴だ。ホルンを中心とした金管群の鮮やかな音色と、弦楽の澄んだアンサンブル、木管群の自然を感じさせる空気感、全身を揺さぶるような打楽器群・・・・。次々と現れては消えていく楽想の豊かさ、そしてそれを極めて高品質に描き出していく東京フィルの演奏の素晴らしさ。エッティンガーさんが創り出す音楽は、活き活きとしていて生命力に満ちている。優れた才能と若さの持つエネルギーが融合した、見事な演奏であった。これはもう、Bravo!!間違いなしである。

 今日は朝の6時に起床し、普段の通勤と同じような時間帯に電車に乗り、9時半にオーチャートホールの来た。エッティンガーさんによるプレトーク、公開ゲネプロ、そして本番のコンサート。すべて終わったのま午後5時半くらい。丸1日仕事をしたような、長時間にわたる音楽会であった。若干疲れたが、それでもこれほど充実した1日というのも滅多にないことである。2時間にぎっしり凝縮されたコンサートも良いが、たまにはこうして1日かけてどっぷりと浸かり、音楽が出来上がっていく様を体験するのも面白い。しかもその演奏が今日のように極上のものであれば、この上ない幸せである。

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【お勧めCDのご紹介】
 今日素晴らしい演奏を聴かせてくれた菊池洋子さんのCDアルバム。モーツァルトの「ピアノ協奏曲第20番&第21番」です。第20番は井上道義さんの指揮、第21番は沼尻竜典さんの指揮で、管弦楽はオーケストラ・アンサンブル金沢です。録音は2005年/2006年と10年近く前のものですので、現在の演奏とは違っているとは思いますが、菊池さんの瑞々しいモーツァルトを堪能できます。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番&第21番
avex CLASSICS
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