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Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/14(土)N響Cプロ定期/パーヴォ・ヤルヴィ+庄司紗矢香/本気モードの演奏に超満員の大喝采

2015年02月14日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
NHK交響楽団 第1803回定期公演《Cプログラム 2日目》

2015年2月14日(土)15:00~ NHKホール B席 2階 C14列 **番(5,700円)
指 揮: パーヴォ・ヤルヴィ
ヴァイオリン: 庄司紗矢香*
管弦楽: NHK交響楽団
コンサートマスター: 堀 正文
【曲目】
シベリウス: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47*
《アンコール》
 シベリウス: 水滴*
ショスタコーヴィチ: 交響曲 第5番 ニ短調 作品47

 NHK交響楽団の第1803回定期公演を聴く。私としては非常に珍しい「Cプログラム」の定期である。AプロとCプロをほとんど聴かない理由は単純で、NHKホールが遠いから。実際の距離でいえば、横浜のみなとみらいホールやフィリアホールの方がずっと遠いとは思うが、NHKホールの場合は渋谷の駅から遠いのが難点で、やたらに人が多い駅前から坂道を徒歩15分・・・・これがイヤで、というよりは、平日の夜などは開演時間までに辿り着くためには必死の思いをしなければならず、また休日の昼であっても駅前の人混みと騒音にはウンザリしてしまうからである。しかも巨大なホールの音響にもいささか難があるので、基本的には1階の良い席が取れるNHK音楽祭の時などしか行かないのである。
 そんな中、今秋2015年9月から首席指揮者に就任するパーヴォ・ヤルヴィさんが登場する今月は、前々からかなりの話題になっていて、チケットもなかなか手に入らないという。Bプロは定期会員チケットを持っているので、それだけ聴ければ良しとして、後は諦めていたものである。ところが偶然にも、日頃大変お世話になっているAさんからお誘いを受け、この完売公演を聴けることになったのであった。

 現在のところ、N響に関してはサントリーホールの定期公演Bプロと、オーチャード定期の会員になっているが、N響についてあまり話題にしてこなかったのには、別に他意はないのだが、ただ何となく、N響とは肌が合わないような感触があることは確かだ。これはベルリン・フィルをあまり好きになれないのに 似ているかもしれない。とはいうものの、N響が日本で最高レベルのオーケストラであることは厳然たる事実であり誰しもが認めるところ。それについてはまったく異論はない。そのN響にパーヴォさんがやって来る。いよいよこの秋からの首席指揮者就任に先だっての今月の客演では、A・B・Cプロのすべてを振る。すでに開催されたAプロでの好評ぶりが伝わって来ている。そして本日のCプロは庄司紗矢香さんをゲストに招いてのシベリウスのヴァイオリン協奏曲と、ショスタコーヴィチの交響曲第5番という、人気曲を集めた重力級のプログラムである。これは期待も高まるというものだ。

 前半はシベリウスのヴァイオリン協奏曲。さすがにいつも聴いているようなソリスト近くの席ではないし(2階のセンター)、広大なNHKホールでのこと、ソロ・ヴァイオリンの音圧が伝わって来るまでには至らないのはやむを得ないところだ。しかし、音楽の流れていく様子から、キレ味が鋭くダイナミックなオーケストラと緊張感の高い庄司さんのヴァイオリンのイメージは伝わって来る。
 第1楽章。N響の演奏は、恐ろしくキレが良い。キリッと引き締まって、抜群のテンポ感が出ている。やはりパーヴォさんのリズム感はスゴイ。そこに庄司さんのヴァイオリンも、いつもの緊張感の張りつめた音色と高い集中力による演奏には違いないが、実に流れがスムーズで推進力に満ちている。これはパーヴォさんのリズム感に庄司さんが乗せられているのだと思う。2階で聴いた印象から想像するに、近くで聴けばそのテンションの高さがビリビリと迫っていたに違いない。距離が離れているので音量は小さくなってしまうが、かなり大きく鳴らせていたオーケストラに埋没することもなく、はっきりと分離した豊潤な音色は感じ取れていた。
 第2楽章の緩徐楽章では、ソロ・ヴァイオリンが弾く抒情性豊かな主題が、庄司さんによって内なる感情をぐっと抑えたような、それでいてたぎる思いのエネルギーが充満しているような、クールでいながら熱い演奏が見事。緊張感の高い演奏スタイルが、今日は効を奏していて、3,500名の聴衆が固唾を飲んで聴き入ってしまう、そんなチカラを感じさせた。もちろんそれを支えるパーヴォさんのオーケストラ・ドライブが上手い。
 第3楽章は意外にもやや遅めのテンポで、オーケストラが重厚な雰囲気を押し出してきた。それでも鈍重な印象にならないのは、リズム感にキレがあるからで、パーヴォさんならではの持ち味だろう。そこに乗る庄司さんのヴァイオリンは、むしろ遅めのテンポのために弾き急ぎがなく、丁寧に、かなり正確に演奏しているが、リズム感はいつもより良い感じに思えた。広い会場の隅々まで、ヴァイオリンの音をきちんと届けたいという意志が感じられる演奏だったと思う。ここでもたぎる思いが、熱いパッションが、遠くまで届く演奏だったと思う。

 庄司さんのソロ・アンコールは、シベリウスの「水滴」。これはおそらくほとんどの人が聴いたことがない秘曲だろう。ピツィカートだけの曲なので、庄司さんは弓を指揮台の上に置き、ヴァイオリンをギターのように抱えて演奏した。ポロン、ポロンというピツィカートの音が水滴が落ちるようで・・・・といってもさすがに2階まではよく聞こえない。NHKホールでのアンコールにはちょっと適さなかったかも。

 後半はショスタコーヴィチの交響曲第5番。こちらはパーヴォさんの本領発揮ともいうべき演奏で、こういってはナンだが、N響からここまで張り詰めたサウンドとダイナミズムを引き出すとは想像していなかった。
 第1楽章は特徴的な、有名な第1主題は音量を出さずにさりげなく入ってきて、徐々に盛り上げていった。ダイナミックレンジがかなり広く、クライマックスの全合奏では、広大なホールに音が満ち溢れるのに、ppの時の澄んだ弦楽の音色なども見事な対比を見せた。ステージの上手側の端に置いてあったピアノがガガガンと鳴り出し展開部に突入すると、N響が素晴らしい爆発的な演奏を聴かせる。フルートやオーボエなども木管群もさすがはN響! と唸らせる程の質の高い音色とニュアンスを描き出している。本気を出したときのN響はスゴイ。コーダに入って、コンサートマスターの堀正文さんのソロが哀愁を感じさせ切なく響いた。
 第2楽章はスケルツォ。長調なのか短調なのか、曖昧なところがあるがこの曲の中では明るい曲想の方に入る。滑稽でもあり、皮肉でもある。途中、ホルンが馬力があって陽気な味わいを見せたり、ここでも中間部で掘さんのソロが軽妙でちょっぴり哀愁を含んだ演奏を聴かせた。パーヴォさんはメリハリのある演奏、そして明暗のクッキリとした演奏で、この楽章に妙に活き活きとした生命力を与えたように感じた。普通に演奏されるよりも、陽気な要素が諧謔性を高めているように思えたのである。
 第3楽章は緩徐楽章。哀しみ、苦悩、怒り、葛藤、諦め、絶望・・・といった人間精神の「負」の要素が抑圧されて、美しい旋律に閉じ込められているような音楽。まるで静寂のような音楽である。N響の弦楽のアンサンブルが、身の毛がよだつほどの緊張を見せる。途中で一旦見せる盛り上がりに向けての集中は、思わずこぶしを握りしめてしまうような、手に汗握る迫力だ。その後に続くフルートのソロなども、ほとんど音のない音楽が異様な緊張を孕んでいた。もう一度訪れるクライマックスに至っては、聴く者の精神を激しく揺さぶる。恐ろしいまでの緊張であった。
 第4楽章は冒頭から激しい曲想がテンポがめまぐるしく変化していく。パーヴォさんの指揮は基本的にインテンポなのだと思うが、テンポの変化に対して鋭く突っ込んで行くために、常に前のめりのような推進力がある。金管群が激しく咆哮し、派手な行進曲風になり、テンポが落ちてホルンのソロが出てくると急に抒情的になるかと思えば、すぐに弦楽による混沌とした不協和音の世界に落ち込んでいく。焦り、葛藤、迷い、混乱・・・・精神が混乱を起こしている。その中から一筋の光明のように、最初は細く、やがて徐々に大きくなってくチカラが生まれ、クライマックスに突き進んで行く。コーダの盛り上がりの中で、ヴァイオリンが刻み続けるラの音が、妙にクッキリと聞こえて来たのが印象的だった。最後は大太鼓の爆発的な音量が、NHKホールをビリビリと振るわせた。演奏ももちろん上手いが、それ以上に精神性というか、情念というか、単なる器楽的な上手さではない、演奏家たちの感情が1つになって爆発的に燃焼するような、さんな印象の演奏であった。パーヴォさんとN響にBravo!!

 本日の演奏は、N響久々の(失礼)本気モードに思えた。秋からパーヴォさんを迎えるにあたり、お互いに一発、強烈なパンチを見舞わせた結果が、今日の高い緊張を孕んだ素晴らしい演奏につながったのだろう。9月からのN響に目が離せなくなりそうだ。
 そのN響の方も、少々様変わりする。今日の定期公演をもって、長らくコンサートマスターを務めた堀正文さんがご勇退となる。最後のカーテンコールで花束が贈呈された。いつもニコリともしない堀さんだが、今日ばかりは花束を抱えて客席に向かって手を振る場面も・・・・初めて見た。ほかにも第2ヴァイオリン首席の永峰高志さんがご勇退、ヴィオラ次席の小野富士さんが次席を退任(今後もN今日には残る)とのことである。後任のコンサートマスターに誰が就任するのかはアナウンスはないが、N響にも世代交代の風が吹き始めたというところだろうか。いずれにしても、9月以降のN響に注目しよう。

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