Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/19(木)N響Bプロ定期/パーヴォ・ヤルヴィの放つ圧倒的な質感とダイナミズムの「英雄の生涯」

2015年02月19日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
NHK交響楽団 第1804回定期公演《Bプログラム 2日目》

2015年2月19日(木)19:00~ サントリーホール B席 2階 LA4列 18番 4,800円
指 揮: パーヴォ・ヤルヴィ
ピアノ: ピョートル・アンデルジェフスキ*
管弦楽: NHK交響楽団
コンサートマスター: 篠崎史紀
【曲目】
リヒャルト・シュトラウス: 交響詩「ドン・フアン」作品20
モーツァルト: ピアノ協奏曲 第25番 ハ長調 K.503*
《アンコール》
 バルトーク: チーク地方の3つのハンガリー民謡から*
リヒャルト・シュトラウス: 交響詩「英雄の生涯」作品40

 今年の9月から首席指揮者に就任するパーヴォ・ヤルヴィさんを迎えてのNHK交響楽団の定期公演・Bプログラムを聴く。すでにAプロとCプロは終わっていて、Bプロの2日目なので東京での演奏会は今日が最後となる(この後、本日と同プログラムで、2月21日に横浜公演、22日に名古屋公演がある)。パーヴォさんの登場は、クラシック音楽ファンには熱狂的に支持されているようで、Aプロ・Cプロともに評判はすこぶる良いようだ。私も先日のCプロを聴くことができたので、その状況はよく分かった。おそらくはN響側からもヤルヴィさんはかなり好意的な期待をもって受け入れられているようで、素晴らしい演奏を聴かせてくれたものである。
 そしてN響の中でも最も人気の高いBプロ定期。ピョートル・アンデルジェフスキさんをゲストに迎えてのモーツァルトのビアノ協奏曲第25番と、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ドン・フアン」と「英雄の生涯」という、対極的な組み合わせのプログラムは、かなり意欲的なものを感じる。Aプロでは、エルガーのチェロ協奏曲(ソリストはアリサ・ワイラースタインさん)とマーラーの交響曲第1番「巨人」。Cプロでは、シベリウスのヴァイオリン協奏曲(ソリストは庄司紗矢香さん)とショスタコーヴィチの交響曲第5番。こうしてみると、すべての曲目が作曲家と出身国が異なっている。そしてパーヴォさんはエストニア出身だ。今回のプログラムは、パーヴォさんの幅広いレパートリーと国際性を強く打ち出しているようで、ある意味で(私たち日本の聴衆に対して)挑戦的だともいえそうだ。それだけ強い意気込みでN響に取り組んでいただけるとなると、聴く側の期待もますます高まっていくのである。

 前半はまずシュトラウスの「ドン・フアン」から。この次がモーツァルトだから、「ドン・フアン」をいわば序曲扱いにして、大編成で一発ぶちかます。演出効果も抜群の選曲・曲順である。金管が派手に吠えて、打楽器がパンチのある音を叩き出す。LAブロックで聴いていると、管楽器と打楽器がすべて間近に見えるので、その直接音がかなりリアルに聴けるわけだが、今日はさすがにN響、極めてハイクオリティのサウンドが、パーヴォさんのキレ味の鋭い音楽作りら見事に適応している。ヴァイオリンが少々弱めに聞こえるのは、席位置のせいなので気にしないことにしよう。1階席で聴いていれば、間違いなく、最良のバランスになっているはずである。パーヴォさんはロマン派後期の爛熟した音楽を、彼一流のスッキリした、それでいてメリハリの明瞭な演奏で、贅肉を削ぎ落としたように鋭く描く。しかもそれはスポーツで鍛えたような力感としなやかさを併せ持っていて、生命力に満ちている感じがする。N響がいっぺんに20歳も若返ったようだいといったら失礼だろうか。いずれにしても、瑞々しくダイナミックで、ドラマティックな描き方も、交響詩というジャンルを考えるとこの上なく素晴らしいものだといえよう。

 2曲目はアンデルジェフスキさんによるモーツァルトのピアノ協奏曲第25番。シュトラウスと比べれば、オーケストラの編成は半分以下。フルート1、オーボエ1、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ1に10型の弦楽5部。見るからに小編成だが・・・・・曲が始まるとこれがビックリするほどの厚いサウンドが飛び出してきた。そう、あのドイツ・カンマーフィルのイメージに似ている。今日のN響も、小編成でも驚くべきダイナミックレンジを持ち、キレの良いリズム感で、非常に引き締まっていながらパンチのある演奏なのである。アンデルジェフスキさんにのピアノに関しては、正直に言えば2階のLAブロックでは方角が良くない(?)。
 第1楽章は、オーケストラ側のシンフォニックな演奏に耳を奪われてしまった。アンデルジェフスキさんには申し訳ないが、やはり近いオーケストラの方が音圧が高くなってしまう。ピアノの演奏そのものは、音の粒立ちが良く、コロコロと転がるような軽快さ・・・・までは分かるのだが、音がこちらに向かって来ていないのか、音量が不足気味で目の前のオーケストラのサウンドに埋没しがちであった。オーケストラ全体としては非常にバランス良く聞こえたし、カデンツァのようにソロの時も音がもわ~っとしてスッキリしなかったので、やはり聴く位置の方角の問題だと思う。
 第2楽章は緩徐楽章のためか、オーケストラの方も抑制的になるので、その分だけピアノが浮き上がって来た。そうなるとピアノの良さが出てくる。古典的な佇まいを崩さず、端正で気品のあるピアノ。やはり音の粒立ちは素敵で、あくまで抑制的ではあるがキラキラとした光彩を放っていたように思う。演奏にも気負いがなく、精神が安定しているようなイメージであった。
 第3楽章は。Allegrettoのロンド。ここでもピアノの音量が足りないのが残念だったが、若々しく跳ねるようなロンド主題や、早い装飾的なパッセージなどの転がるような軽快さは、聴いていても気持ちのよい演奏である。アンデルジェフスキさんのピアノは、精神的にも極めて抑制的であり、正統派の楽曲解釈に基づき、作曲家の意図を端的に描き出すように、集中した演奏であると思われた。演奏は素晴らしいと思えるのだが、やはり協奏曲こそは聴く席位置によってだいぶ印象が変わってしまうことを痛感した。オーケストラの演奏が良かっただけに、その思いもなおさらである。

 アンデルジェフスキさんのソロ・アンコールは、バルトークの「チーク地方の3つのハンガリー民謡から」ということで、おそらく多くの人が初めて来た曲ではないだろうか。何とも形容しがたいが、モーツァルトよりは明らかに自由度が高く、抒情的な演奏であった。

 後半は、シュトラウスの「英雄の生涯」。今度は4管編成に加えてホルン8、8種類の打楽器、ハープ、弦楽は18型という大編成で、サントリーホールのステージは文字通り人と楽器でいっぱいの状態になった。とにかく後期ロマン派の肥大したオーケストレーションの最大級のものがここにある。もちろん、ただ人数がいれば良いというものではないが、今日のN響の充実した演奏から繰り出される圧倒的に豊麗なサウンドは、ロマン派音楽の醍醐味であるといえる。
 演奏の方は、もちろんパーヴォ節ともいうべきものを遺憾なく発揮した。キレ味の鋭いリズム感としなやかな節回し、高い緊張感を保ちつつオーケストラの持ち味を最大限に引き出すような自由度の高さも併せ持つ。そしてこの大編成がもたらす究極のダイナミックレンジ。ステージ上手上方至近距離のLAブロックならではの直接音の奔流を全身で受け止める快感に浸りきった45分間であった。
 「英雄」では冒頭はまだまだ抑制的で、各楽器が挨拶をするように交代で出てくる。各パートが競うように質の高い音色を出して来て、まったく隙を見せない。最初のクラマックスに向けて盛り上がり、ティンパニの連打が爆発的に加わっても、弦楽をはじめ各パートの音は明瞭で負けていないところが、スゴイ。
 「英雄の敵」に入るといよいよドラマが展開するように、音楽が写実的になっていく。「敵」であるフルートやオーボエによるイヤらしい描き方も上手い。
 「英雄の伴侶」は何といってもヴァイオリンのソロが肝心なところだが、コンサートマスターの“まろ”様こと篠崎史紀さんのソロは、さすがに協奏曲のようには聞こえては来なかったが、徐々にテンションが上がっていき、かなり「聴かせる」演奏をしてくれた。これは1階で聴きたかった場面である。この場面がオーケストラに拡大していく「愛の場面」は、まさにロマン派、というよりは『ばらの騎士』でも観ているような濃厚で艶っぽい音楽を、N響が澄んだ音色を厚く重ねて描き出していた。
 「英雄の戦い」では、ステージから抜け出してトランペット奏者が、下手の扉を開けてバンダのファンファーレ。遠くから響いてくる感じがとても良かった。LAで聴いていてラッキーであった。続く「戦い」のシーンは雄壮なスペクタクル。シュトラウスのドラマ的な表現力の見事さには、聴く度にあきれる思いである。「戦いに勝利」した後の、晴れやかな金管群のアンサンブルと豊かに響く和声。このドラマティックな音楽を豊穣な演奏で描ききるN響も見事だし、パーヴォさんのオーケストラ・ドライブも見事である。
 「英雄の業績」は一旦沈静化して淡々と描かれる。弱音の部分にも芯の強さが残っていて、このあたりが広いダイナミックレンジを創り出す根源になっているのだ。
 「英雄の引退と死」では、全体を覆う暗い色調に変化する。N響の色彩感がガラリと変わるのも面白い。コールアングレが牧歌的な旋律を歌い、オーケストラが最後に抵抗を試みる「英雄」の葛藤を描き、ヴァイオリンによる「伴侶」が慰めると「英雄」は穏やかな気持ちになって死を迎える。演奏全体が見事に「カタチ」になっていて素晴らしかったのだが、部分的にみれば、ホルンとソロ・ヴァイオリンが良かった。

 全体を通してみても、これはもう世界のトップクラスのオーケストラの演奏といっても問題はないだろう。個々のパートの演奏能力、全体のアンサンブル能力、指揮者への対応力、音色の質感、色彩感・・・・そして何よりは、音楽に生命力が宿っていたことだ。N響の演奏会は、演奏は上手いのだが、いつもどこか空虚感が漂い、何故か感動が薄かったりするのだが、今日の演奏に関しては、そんな過去の印象がまるでウソのようで、薄い靄がかかっていたのがようやく晴れて、太陽の光が燦然と輝くのを見た思いである。今日のパーヴォさんとN響の皆さんに、Bravo!!を送ろう。

 今日はBプロの2日目なので、テレビ収録やFMの生中継はなかったが、録音はしていた。今後、パーヴォさんの指揮で録音作業が進められ、CD化されていくらしい。私が思うには、編集されてCDという枠組みの中に圧縮されてしまう音楽は、まったく別物だと考えている。とくに今日感じたのは、この大編成のN響が本気モードで鳴らしたダイナミックレンジの広い音のエネルギーが、CDには収まらないのではないだろうか、ということである。やはりライブのコンサートに勝るものはない・・・・。

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