Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

5/18(月)別府アルゲリッチ音楽祭/東京公演/多彩なメンバーの競演に満席のオペラシティも喝采の渦

2015年05月18日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
第17回 別府アルゲリッチ音楽祭 東京公演
ピノキオコンサート支援チャリティ in 東京
「未来への道」


2015年5月18日(月)19:00 東京オペラシティ・コンサートホール S席 1階 2列 13番 13,000円
ピアノ: マルタ・アルゲリッチ
ピアノ: 伊藤京子
ヴァイオリン: 清水高師
ヴァイオリン: 川久保賜紀
ヴァイオリン: 大宮臨太郎
ヴィオラ: 川本嘉子
ヴィオラ: 小峰航一
チェロ: ユン・ソン
チェロ: 遠藤真理
【曲目】
ラヴェル: ヴァイオリンとチェロのためのソナタ より第1・2・4楽章(川久保/遠藤)
モーツァルト: 2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448(375a)(伊藤/アルゲリッチ)
ショスタコーヴィチ: 2台のピアノのためのコンチェルティーノ イ短調 作品94(アルゲリッチ/伊藤)
イザイ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ短調 作品27-2(清水)
J.S.バッハ: シャコンヌ ト短調(川本)
シューマン: ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44(アルゲリッチ/清水/大宮/小峰/ソン)

 マルタ・アルゲリッチという名は、私がクラシック音楽を聴き始めた頃にはすでに大スターで、世界一の女流ピアニストあった。エキセントリックな超絶技巧の持ち主で、レコードもたくさん出ていた。
 あれから40年・・・・。本当に久しぶりにアルゲリッチさんを聴くことになった。
 アルゲリッチさんは1941年生まれというからもう74歳になる。1998年から始まった「別府アルゲリッチ音楽祭」のために毎年来日しているが、さすがに別府は遠く、聴きに行こうという発想すらなかった。昨年2014年の開催では、大好きな川久保賜紀さんも参加されていたので、チラリとは考えたが、やはり別府はあまりにも遠かった。ところが今年は、チャリティの「ピノキオコンサート」が東京で開催されることになり、今年の別府には参加されなかった賜紀さんや遠藤真理さんも東京公演には出演するという。わずかなゲスト出演ではあるが、こういう機会を逃す手はないし、アルゲリッチさんの演奏も聴けるわけだから、チャリティ参加の意味も込めて、少々高額だが聴きに行くことにしたのである。

 会場となっている東京オペラシティコンサートホールに行ってみると・・・・人・人・人!! 完全完売の公演となり、1632席のホールがほとんど満席状態であったこの日、開演前のロビー、ホワイエが人でいっぱいであった。オペラシティが満席になるとこんなにも人が溢れるものかと驚きである(要するに普段はほとんど満席になることはない??)。
 出演者と演奏曲目は上記の通り。メンバーは音楽祭の常連さん達である。内容を見れば分かるように、音楽祭の主要メンバーによるガラ・コンサートといった趣きとなっている。

 1曲目は、ラヴェルの「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」より第1・2・4楽章が賜紀さんと遠藤さんのデュオで演奏された。どうせなら・・・・第3楽章も演奏して曲を完成させて欲しかった。今年2015年の2月に「第5回 チェロの日」のコンサートでもお二人の演奏で聴いたが、その時は第1・2楽章のみだった。全曲を聴いたのは2013年7月の秦野市でのコンサートの時2010年のトリオのコンサートの時。ヴァイオリンとチェロのデュオでは欠かせない曲目ということになる。こうしてみるとお二人はこの曲をかなりの回数演奏しているし、私生活でも仲良しのお二人なので、息はぴったり合う。
 やや難解なところがある曲だけに、今日の聴衆の中では今ひとつウケなかったようである。第1楽章は複雑な和声と多声的な構成を手慣れた感じに演奏していたが、少々バタついたところも合ったような。第2楽章はピツィカートの応酬が、パンチがあって面白かった。第3楽章は音楽自体が多彩な展開をしてより現代的になり、難解さを増す。高度かつ多種多彩な演奏技法がヴァイオリンにもチェロにも満載で、腕の見せ所だが(実際に高難度の技巧の応酬である)、不協和音の多い現代的な曲相は、あまり一般ウケはしないようであった。お二人の演奏は多彩な音色がを次々と繰り出し、同時にリズム感にもメリハリを効かせていて、躍動的で押し出しの強いものであった。

 2曲目は、モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ ニ長調」。のだめと千秋が出会って間もなく弾いた例の曲である。2台のピアノが向き合って置かれ、反対向きに置かれる第2ピアノは当然蓋を外してある。アルゲリッチさんの登場にホールは沸いたが、伊藤京子さんが第1ピアノの方に座ると、会場がザワついた。ピアノを2台、二人のピアニストが必要なため、実際に演奏会で聴くことはあまりない曲ではあるが、かといってソロではなく、あえてデュオ曲を選んだあたりには、室内楽へのこだわりがあるのだろう。
 演奏の方は・・・・といってもこの曲で大きな感度を呼び起こすことは難しそうだ。実際には息のあったお二人の演奏は、とても華やかで楽しげに聞こえた。


 3曲目はショスタコーヴィチの「2台のピアノのためのコンチェルティーノ イ短調」。今度はアルゲリッチさんが第1ピアノを弾いた。コンチェルティーノ(小協奏曲)のいわばオーケストラに相当する部分を第2ピアノが受け持ち、第1ピアノはソリストに相当。単一楽章の曲である。主部は華やかで陽気な諧謔性に満ちているが序奏やコーダなどし暗い影が宿る。2第を向き合って配置すると第1ビアノと第2ピアノの音が一体になって聞こえてくるので、どちらがどこを弾いているのが分からなくなるが、お二人の技巧的なせめぎ合いには緊張感が漲っていて、終盤に向けての盛り上がりなどはアルゲリッチさんらしい。

 4曲目は 清水高師さんのソロで、イザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番」。オフィシャルの公演プログラムには掲載されていなかったので、急遽追加されたのだろう。グレゴリオ聖歌の「怒りの日」が動機として4つの楽章を貫くソナタである。清水さんの演奏を聴くのは初めてだが、ヴィルトゥオーゾ的な弾き方で、鋭くアタックを効かせ、強烈に押し出して来る。技巧的で発揮度の高い演奏である。ただし、その強烈な押し出しのために少々荒っぽく感じられる所があり、テクニックを前面に見せつけるようなタイプの演奏は個人的にはあまり好きではないので、ほとんど感銘は受けなかった。

 後半はまず、川本嘉子さんのヴィオラのソロで「J.S.バッハの「シャコンヌ ト短調」。有名な「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 ニ短調」をそのまま5度下げてト短調にしてヴィオラでの演奏である。わずか5日前の5月13日に「東京文化会館モーニングコンサート」で若手の田原綾子さんの演奏を聴いたばかりなので、どうしても比べてしまう。田原さんは楽曲を素直に演奏して清廉なイメージを創り上げていたのに対して、川本さんはいかにもベテランらしく、アクの強い演奏で、ねっとりと濃厚でメリハリを効かせ、主旋律をたっぷりと歌わせたり装飾的なパッセージを敢えて高速に弾き技を見せたりもする。押し出しも強く、自己主張の強い演奏であった。私には、ちょっと脂っこいかなぁ、という印象。

 最後は、シューマンの「ピアノ五重奏曲 変ホ長調」。急-緩-舞-急の4楽章形式で、30分近い大曲である。アルゲリッチさんのピアノ、第1ヴァイオリンは清水さん、第2ヴァイオリンが大宮大宮臨太郎さん、ヴィオラが小峰航一さん、チェロがユン・ソンさんというメンバーだ。第1楽章はソナタ形式で、第2主題が殊の外美しく、ロマン派の王道を行く感じ。第2楽章は緩徐楽章。短調で葬送行進曲風。第3楽章はスケルツォ。快活で躍動的である。第4楽章は再び短調に転じるが、曲想は暗くはない。コーダは躍動的で大きく盛り上がる。演奏の方はもう何も言うことはない。このクラスの人たちの室内楽は、圧倒的に質感が高く、5名の個性も随所に現れてくるし、全体のアンサンブルも見事。音楽がとても豊穣で活き活きとした生命力に満ちている。演奏している人たちも楽しそうだし、聴いている私たちも幸せ名気分になってくる。そんな素晴らしい演奏であった。
 会場は大喝采。Bravo!が派手に飛び交い、出演者全員が登壇してのカーテンコールがいつまでも続いた。
 
 「別府アルゲリッチ音楽祭」が実際にどのような雰囲気で開催されているのか、行ったことがないので知る由もない。今日の東京公演は、やはり東京の人を対象にしているので雰囲気は異なるだろうと思う。それでも内容はバラエティに富んだガラ・コンサートであったし、個性的な出演者達の演奏も楽しめた。地方での音楽祭が色々と趣向を凝らしていて面白そうなものがたくさんある。なかなか地方にまで行けないので、などと言うと「毎日コンサートがあちこちで開かれている東京にいて何をいうか」と叱られそうだが、東京の音楽界もマンネリといえばかなりマンネリ化しているので、地方の個性的な音楽祭が素敵に見えるのであろう。旅行嫌いの私はなかなか地方にまで足を伸ばすことがないので、せめて今回のような東京公演のある時くらいは、また聴きに行くことにしようと思う。

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