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3/13(火)木嶋真優 ヴァイオリン・リサイタル/終始アグレッシブな演奏で聴衆を魅了

2012年03月16日 00時22分31秒 | クラシックコンサート
木嶋真優 ヴァイオリン・リサイタル

2012年3月13日(火)19:00~ 紀尾井ホール S席 1階 1列 11番 4,500円
ヴァイオリン: 木嶋真優
ピアノ: 江口 玲
【曲目】
ロカテッリ/イザイ編:ヴァイオリン・ソナタ ヘ短調作品.6-7「トンボー」
ストラヴィンスキー:ディヴェルティメント
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第9番 イ長調 作品47「クロイツェル」
チャイコフスキー:ワルツスケルツォ 作品34
《アンコール》
 吉松 隆: 「平清盛」(NHK大河ドラマ)より「夢詠み…紀行」
 ファリャ/クライスラー編: スペイン舞曲 第1番
 フォーレ: 夢のあとに

 ヴァイオリンの木嶋真優さんは以前から注目していた演奏家ではあるが、これまでスケジュールがかみ合わず、聴く機会が持てなかった。2008年リリースされたソロ・デビューCD「シャコンヌ」は既に聴いているし、NHK-BSでの放送を観ている。さらに今年は、NHK大河ドラマ『平清盛』で最後の「紀行」のテーマを演奏しているのも話題だ。今日のリサイタルはやっとナマで聴けるので、早くから最前列を確保して、非常に楽しみにしていたものである。
 木嶋さんは1986年生まれの25歳。偶然だが、先週聴いた有希マヌエラ・ヤンケさんや神尾真由子さんと同い年。若手の演奏家としては、一番イキの良い年代ではないだろうか。昨年のチャイコフスキー国際コンクールば残念な結果になってしまったが、すでに演奏家としての活動をされているのであるし、コンクールが演奏家の価値をすべて決めるわけでもないので、また別のアプローチの仕方があるのではなかろうかと、演奏を聴いていてふと思った。ピアノ伴奏は、デビューCDでも協演している、お馴染みの江口玲さん。

 今日のリサイタル自体はとても素晴らしいものであった。まず曲目を見ても分かるように、非常に多彩なプログラムではあるが、いずれも高度な技巧を要する曲である。
 ロカテッリのヴァイオリン・ソナタ「トンボー」はイザイの編曲によるもの。4つの楽章を通じて、基本的には、通奏低音のピアノ伴奏にヴァイオリンの旋律が乗るカタチだが、イザイの編曲にふさわしく、随所に高度な技巧と柔軟な表現力が求められる。原曲はバロック時代であっても、編曲はロマン的で抒情性に満ちている。このような曲では、演奏自体の技巧的な部分よりは表現力が課題になりそうだ。木嶋さんの演奏はかなり押し出しが強く、楽器もよく鳴っているし、もちろんロマン派指向が強い演奏だ。

 続くストラヴィンスキーの「ディヴェルティメント」は、デビューCDにも収録されているので、ご本人も好きな曲なのだろう。バレエ音楽『妖精の口づけ』から抜粋され管弦楽曲に編曲されたものをさらにヴァイオリンとピアノ用に編曲されたもの。1934年作でストラヴィンスキーの新古典主義時代作品である。元がバレエ音楽ということもあり、全編にわたって非常にリズミカルな曲想だ。木嶋さんのヴァイオリンは非常にリズム感が良く、踊り出せるような躍動感がある。その上に多様な曲想に対して、実に多彩な音色と語り口で、バリエーションに富んだ演奏だった。ここでも全体に押しの強い、アグレッシブな演奏だったように思う。第4楽章のアダージョ部分などは抒情性よりも押しの方が強すぎるような気もしたが…。一方、江口さんのピアノも非常にリズミカルで、出過ぎたところがなく、ヴァイオリンを見事に引き立てていた。

 後半のメイン曲はベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」だ。こちらは冒頭から挑戦的な重音で迫ってくる。初めからかなり強い調子で、速めのテンポで、ガンガン責め立てるような演奏だ。安定した正確な技巧を持っているから、速めのテンポでも揺るぎない推進力で突き進んで行く。これが木嶋さんの演奏スタイルなのだろう。ヴァイオリンを高く掲げて、つよく存在感をアピールするような演奏である。気持ちが前面に出てくるのは良いとしても、若干独りよがり的な部分があるのではないかな…と、聴いている内に感じるようになってきた。ただし、この辺はあくまで好みの問題だと思う。演奏自体は、明瞭でクッキリとしており、技巧も確か、音色も豊富、楽曲の流れにも一貫したリズム感があり、曖昧さが微塵もなく、確信を持って演奏しているところは素晴らしい。

 プログラムの最後に短い曲を持ってきた。チャイコフスキーの「ワルツスケルツォ」。「クロイツェル」という大曲の後に、聴く側もホッとする選曲であるが、短いながらも多彩な旋律に対応した表現力も求められる曲だ。木嶋さんは小技のキレも鋭く、カデンツァ風の独奏部分も鋭い演奏を聴かせる。技巧を見せつけるようなところもある演奏であった。

 アンコールは、大河ドラマ『平清盛』の「夢詠み…紀行」。毎週テレビで見ている、あの曲である。2曲目はCDにも収録されているファリャ/クライスラー編の「スペイン舞曲」。これは完全に超絶技巧曲。アンコールで盛り上げるにはこの手の曲は最高である。アクロバティックな演奏に、会場も大喝采だ。最後はフォーレの「夢のあとに」。冒頭の主題が弱音器を付けたような柔らかな音色が、それまでの強い音と正反対で印象的だった。

 初めてナマで聴いた木嶋さんのヴァイオリンは、強烈なものだった。基本的に押し出しが強く、常にアグレッシブである。音量も大きい。低音から高音まで、鋭く尖った音色という印象であり、深みのある低音とか、絹のように艶やかな高音とかいった演奏とは正反対である。素晴らしい技巧の持ち主で、明確で強い主張があり、その意味では表現力も力強く、抜群の発揮度である。
 ここからは個人的な好みの枠組みに入ると思うが、今日のリサイタルを聴いていて、実は心の琴線に触れるものがあまりなかった。素晴らしい技巧と発揮度の強い演奏には惜しみない拍手を送るものではあるが、…平たく言ってしまうと、感動が薄いのである。素人がこんなことを言ってしまったら演奏家の方には大変失礼に当たるのかもしれないが、音楽の本質がちょっとズレているような、あるいは方角が違っているような、そんな印象なのである。コンクールの審査員に向けて思いをぶつけているような演奏だと、ふと思ったりもした。


 とはいえ、終演後のサイン会にはちゃんと参加して、会場で購入したCDのジャケットの中ページに、木嶋さんと江口さんにサインをいただいた。

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