Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/20(土)「情念」南 紫音 ヴァイオリン・リサイタル in 市川

2010年03月20日 23時25分36秒 | クラシックコンサート
「南 紫音 ヴァイオリン・リサイタル~江口 玲のショパンとともに~」

3月20日(土)15:00~ 市川市文化会館・小ホール 全席指定 2,500円
ヴァイオリン : 南 紫音
ピアノ : 江口 玲*

【曲目】
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 変ホ長調 作品12-3
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ短調 作品105
ショパン:ノクターン 作品62-1*
ショパン:ワルツ 作品64-2*、64-1(子犬のワルツ)*

ラヴェル:ハバネラ形式の小品
チャイコフスキー:ワルツ・スケルツォ 作品34
リヒャルト・シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 作品18

《アンコール》
ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女
ドビュッシー:美しい夕暮れ

 今日の南紫音さんのリサイタルは、昨年の11月28日に紀尾井ホールで開かれたリサイタルと同じ内容のもの。3月10日に発売された新しいアルバムの内容に合わせたプログラムになっていて、各地でリサイタルを開いている。違う点はピアノの江口玲さんのソロが3曲追加されていることで、曲目は増えているのに半分の値段で聴くことができるから、地方のコンサートはお得である(といっても東京から電車で30分!!)。
 さて、市川市文化会館はJR総武線の本八幡駅から徒歩10分くらいのところにある。小ホールは、わずか442席のこぢんまりしたホールで、音響は……あまり良いとはいえないようだった。今日の入りは6~7割くらいか。

 南さんはすっかり春めいた今日の陽気にぴったりの桜色のドレスで爽やかに登場。お嬢様キャラが板に付いてきて江口さんは保護者同伴というよりはお付きの運転手的なポジション(失礼)。それにしても美しく成長したものです。
 曲目は前回の紀尾井ホールの時と全く同じ。1曲目のベートーヴェンのソナタ第3番はさらりと弾いた印象で音がやや小さく感じられた。
 2曲目のシューマンになると急に音色が変わった。力強さというよりはむしろ激しい息づかい。なぜか「情念」という言葉が頭に浮かんだ。ある種の激しい感情と不安が入り交じって現れるような、この曲に込められたシューマンの情念が、南さんを突き動かしているのか。ご自身の感情のうねりが噴出してくるような、強い意志を感じさせる演奏だ。よく弾き込んできているので、技術的には申し分なし。曲に生命力が宿った素晴らしい演奏だったと思う。

 休憩を挟んで、江口さんのショパンを3曲。この二人のコンサート・ツアーではここ市川会場だけ、江口さんのソロがプログラムされていたのだが、オマケで聴くにはもったいないようなショパンだった。江口さんのピアノの素晴らしさについては何度か触れているが、ソロで聴くのは初めてだ。玉を転がすような音色が美しいばかりかキラキラ輝いて、ワルツの2曲などはまさに「珠玉」のショパンであった。ちなみに曲目の変更があって、予定されていたノクターン2曲のうち1曲をワルツ2曲に変更されていた。
 南さんの3曲目はラヴェル。新しいアルバムにも取り上げられている。彼女の演奏は、最近はとくに色彩感が増してきて、このような近代の曲にもよく合っている。
 続くチャイコフスキーのワルツ・スケルツォは打って変わって、激しい「情念」が吹き出すようなアグレッシブな演奏。
 さて最後はメイン・プログラムのリヒャルト・シュトラウス。作品18という若いときの作品(23歳)であり、青春のロマンティシズムや躍動感、時折現れる悲哀など、3楽章の古典的な形式を採りつつもロマン派の豊かな曲想が美しい曲だ。紀尾井ホールの時も完璧に弾きこなしていたから、その後、各地のリサイタルでも弾いてきたはずで、技術、表現とも申し分のない演奏である。アグレッシブに感情がほとばしるものの、幾分角が取れて軟らかくなった分、旋律が大きく歌うようになった。左手の指先を見つめる厳しい表情、時折見せる会心の微笑み、演奏を楽しんでいる心情がそのまま現れている。彼女は今、この曲が大好きなんだろうなと感じた。弾き終わった後の満足げな表情が印象的。そんな彼女にBrava!!
 アンコールは新しいアルバムにも収められているドビュッシーを2曲弾いてくれた。ミュートを付けた柔らかで繊細な音色が夢幻の空間に誘うようだった。

 さて、前回も書いたと思うが、やはり江口さんのピアノに触れておきたい。今日改めて気がついたのだが、プログラムのソナタは3曲とも、ピアノの役割が大きく、ヴァイオリンと同等ともいえるほど。ヴァイオリンとピアノが協奏的に演奏されるほど、曲の深く幅広い表現が可能になってくる。「伴奏」になってしまってもダメだし、前に出すぎても(ヴァイオリンより上手かったりすると)いけない。そういう意味でも、江口さんのピアノは輝きを放ってヴァイオリンと対話している。とくにシュトラウスの煌びやかな演奏は素晴らしかった。その上で、後ろからヴァイオリニストの弓使いを見ながら絶妙のタイミングでサポートしているのだ。江口さんでなければ、南さんのヴァイオリンもこれほどの輝きを放てないのではないかと思う。江口さんにBravo! を送ろう。

 彼女の演奏を聴くたびに感じることがある。回を重ねる毎に、良くなっていくことだ。紀尾井ホールのリサイタルから4ヶ月しかたっていないが、今日はまた一歩前進していたような気がする。本当に成長途上なのだ。
 残念なことに、協奏曲ではこれまでそれほど素晴らしい演奏に出会ったことはあまりないが、リサイタルは、おそらくご自身の表現したいことが自由にできるからだろうが、感情を全面に出す演奏ができるようになってきている。フランスものや近代ものがお好きなようだし、演奏も音色も合っているように思う。今度はぜひ、フランクのヴァイオリン・ソナタを聴かせて欲しい。もちろん江口さんのピアノで。

 終演後、当然のごとくサイン会。新しいアルバム「ブルーム」のジャケットにサインをいただいた。お疲れの所ご苦労様です。
 今日は聴いていてずっと気になっていたので、彼女に楽器は何を使ったのかお尋ねしたところ、ご自身の楽器で『サント・セラフィン』とのこと。やっぱり楽器が違っていたのだ。グァルネリ・デル・ジェスよりも軟らかく、透明感のある音色だったような気がする。サント・セラフィンは世界の三大ヴァイオリンといわれるアマティ派のニコロ・アマティの弟子にあたる製作者でベニスで活躍したのが18世紀の前半とか。いずれにしても世界の名器のひとつです。

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