5月18日
立川シネマシティで『鉄男II/BODY HAMMER』の〈極上音響上映〉初日。上映前に塚本晋也監督と田口トモロヲさんのトークショーあり。司会は映画評論家の塩田時敏さん。
僕にとって映画をどこで観たかって記憶は結構大切で、そのときの自分自身の状況や、映画館の雰囲気、その空気感、客の入りやロビーの情景込みで覚えていたりする。(シネコンで観るようになってから訳が分からなくなってしまったけれど…)『鉄男』は高校生のとき、山形にあるフォーラムという映画館で観た。レイトショーだった。上映は1週間に満たない限定的なものだったと思う。その何週か前、ロビーに貼ってあるポスターを見て「これは観なきゃ後悔する」と思った。スクリーンに海獣シアターと大映りになったその瞬間から“GAME OVER”まで、ずっと釘付けだった。体の内側を刺されるような衝撃。ある種の不快感を伴いながら、それでも抗うことができず、身悶えしながら凝視していた。17歳のことだ。
『鉄男II』は上京後、21の秋に観た。今は無きシネマライズ渋谷。3回受験に失敗し、そろそろ4度目を迎えようというのに何も掴めずにいた焦燥感の中、気持ちを奮い立たせてもらったように思う。ただ、映画自体はそんなに出来がよくないと思えた。まず発砲するのが嫌だった。裸同然で出てくるマッチョな男たちが嫌だった。一作目にあった接触、強引な繋がりから生まれる垂れ流しのカタルシスを期待していたから。あらためて見直せば、最初のシーンから分かりやすく発砲し「今回はこっちですよ」と説明してくれているのだが。とにかくあの時分「あの『鉄男』の監督だって全部が全部傑作なわけじゃないんだな」と妙に納得し「4回も大学に落ちるわけがない」と思うことができたのだった。意味不明だけど。その気持ちが大事なんだ。そして年が明け、でもやっぱり芸大に落ち、他の美大にどうにか補欠で入学した。。
絵は実質4日で仕上げた。A3サイズのイラストボードにガッシュ。初めて「鉄男」を観てから30年と思うと、未だうだつの上がらぬ我が身が泣けてくるが、それは仕方ない。塚本監督とトモロヲさんが2週に渡り顔を揃えるというこのタイミング、逃すわけにはいかない!1週目にどうにかお願いしてお二人の写真を撮らせてもらうことができた。それから一週間、二人と向き合い、そして仕上げた絵を見てもらう。そこで一緒にニッコリできたら素晴らしい。それだけのことだが、臆病者の自分にとっては、おおごとだ。
上映後、サイン会の列に並ぶ。180席満員札止めの立川シネマシティ・Cスタジオ。そのほぼ全員が並んだと思う。サインする身になれば、握力も気疲れも、さぞや凄いことだろう…と考えるだけで気後れしてしまう自分。絵がなければそのまま帰ってしまうかもしれない。そして後悔するのだ。そうならないために自分は絵を描き、自分自身の背中を自ら押さなきゃならない。言葉にならない思いは、絵で伝えるんだ。多少の迷惑はかけたっていいんだよ、だってお二人がサイン会するって決めて迎えてくれてるんだから… と、そんなことを、待っている間、繰り返し考えていた。そしていよいよ自分の番が近づく。今回、撮影するための助っ人で同行してもらった今泉さんが僕に対しいろいろと小言を言ってくる。「買った物販は手に持ってなきゃ弾かれるぞ」とか「ちょっと口臭が」とか。おい、そりゃ失礼だぞ!そりゃ緊張で唾も出ない中、口ん中カラカラで並んでるんだ。ちょっと臭ったって仕方がないさ!買ったものはカバンに入れたままだよ!だけどもう自分の番、絵を出さなきゃだ!今更どうしようもない…
「…先週、写真だけ撮らせていただいた者です」と言うと「あっ、は〜は〜」と塚本さん、覚えていてくれたみたい。これでちょっとホッとできた。「先週ここで撮った写真を絵にしてきたので見てください」描いた絵を、グイっと渡す。
「写真を撮っててもいいですか」と今泉さん。「いいですよ〜」と言ってもらえて、こういう写真が残せる。一人じゃ撮れない記録。ありがたい。
「これまでずっと、映画を製作する塚本さんの姿勢に勇気をもらってきました。塚本さんの映画、いつも楽しみにしています。その思いを絵に込めました。これから絵を続けていく自分に、何か一言、記してもらえないでしょうか」等々…そう言われても困るとは思うのだが、絵に説得力があれば応えてもらえると信じている。「えっ!ここに書くの?」と塚本さん。「はい。絵の上にドバッとお願いします!』
戸惑いつつも、絵の具が塗っていないところを探して書き込んでくれた言葉 “突き進め〜!”
「あ、あ〜、ありがとうございます!」…泣
そしてトモロヲさんにも見ていただき、サインをしてもらえたら完成となるところ「ぜひ一言、お願いします!」なんて、塚本さんとのやりとりを聞いていないトモロヲさんに向かっても、つい。これは反省しなきゃいけないところだけど、ついつい口に出てしまった。
「一言ってェ!ん〜、じゃあこれかな」と書き込んでくれたのは上映前のトークショーで話題に上った言葉 “鉄男シニアっ!”。そしてサインは “田口鉄ロヲ”、「せっかくだから日付も入れておこうか」と、“2019.5.18.”と!
『愛の“鉄男”』完成!
塚本さん、トモロヲさん、ありがとうございます!オレ、突き進みます!
こんな素敵な企画を立ててくれた立川シネマシティに感謝。館の方にお礼を言うと「ぜひ来週も来て下さい。三作目の音響はもっと凄いことになってますので。きっと、ぶっ飛びますよ」とのこと。
絶対、また来なきゃだ!
色鉛筆、お手元に届きましたでしょうか?