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6.商体
GF(p)上のどの多項式g(x)も g(x)h(x) = xn - 1 となる n, h(x) が存在します.
これらを GF(3)上の g(x) = x2 + x + 2 の場合について実際に求めてみましょう.
1/g(x) を GF(3)上の除算で求めると
1 2 2 0 2 1 1 0
+---------------------
1 1 2 ) 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0
1 1 2
---------
2 1 0
2 2 1
---------
2 2 0
2 2 1
---------
0 2 0
0 0 0
---------
2 0 0
2 2 1
---------
1 2 0
1 1 2
---------
1 1 0
1 1 2
-------
1
になり,これから
g(x)h(x) = x8 - 1
h(x) = x6 + 2 x5 + 2 x4 + 2 x2 + x + 1
であることが分かります.除算の途中で現れる剰余はGF(3)上の1次の多項式なので有限回の減算で必ず1に戻ります(途中で割り切れたと仮定すると,xk = g(x)h0(x) となり,g(0) ≠ 0 だから h0(0) = 0, したがって h0(x) = x h11(x), xk-1 = g(x)h1(x) ・・・ ).
g(x)h(x) = x8 - 1 であるということは, x8 - 1 ∈ [0] を意味します.したがって,
x8+k + [0] = xk + [0]
が成立し,0 でない元 xk + [0] (0 ≦ k < 8) は(乗法の)逆元 x8-k + [0] を持つので,この剰余環は体になっています.和を求めるときは,次のように剰余多項式で計算します.
(x6 + x7) + [0] = ((x + 2) + (x + 1)) + [0] = 2 x + [0] = x5 + [0]
g(x) = x2 + 1 もGF(3)上の既約多項式です.この場合は
g(x)(x2 + 1) = x44 - 1, x4+k + [0] = xk + [0]
であり,剰余類は [0], 1 + [0], x + [0], 2 + [0], 2 x + [0] の5個しかありません.α2 + α + 2 = 0, β = α2 とすると β2 + 1 = α4 + 1 = 2 + 1 = 0 ですから,βは x2 + 1 = 0 の根になっています.また,g(x) = x2 + 2 は既約多項式でないので (x + 1) + [0] ≠ [0], (x + 2) + [0] ≠ [0], (x + 1)(x + 2) + [0] = [0] になってしまいます(a が体の元で,a b = 0, a ≠ 0 のときは a-1 a b = b = 0 となりますが,環では a-1 の存在が保証されません).
7.むすび
GF(pm)(p > 2)では原始根を 21/4, 21/13, 41/12 のように表せますが,GF(2m)のときは GF(2)の元が 0, 1 しかないため,このような形で表現できません.GF(2m) の原始根をαとおいて各元をαのままの式で表わすと,対応する剰余類の多項式表現と区別しにくいのですが,逆に言えば,巡回符号を学んでこのような表現に慣れている人は,剰余類との対応で環の元としての存在を保証されているという基礎事項を実感していると言えます.なお,数学書では「g([α]) = [0]」の意味で「g(α) = 0」と書くことも多いようですが,「g(α) = 0」をGF(p)に属さない数αが満足する式と解釈し,剰余類と数を (P(x) + [0] と P(α) のように) つねに表記上でも区別する方が分かり易いと思います.
謝辞: 有益なご助言を頂いた林彬先生(元 金沢工大),中島匠一先生(学習院大)に感謝します.