「もののあはれ」の物語

古き世のうたびとたちへ寄せる思いと折に触れての雑感です。

春風に誘われて

2009年02月06日 | 絵とやきもの

 暖かな春の日差しに誘われて、年明けから開催されている“イタリア美術とナポレオン”の特別展をみに北九州市立美術館に行ってきました。
 日本で初めて特別公開されると宣伝されているボッティチェッリの「聖母子と天使」に会うためです。このルネッサンスの巨匠の20代前半、独立して描いた最初の作品といわれるもので、フェシュ美術館の至宝です。
 フェッシュ美術館は、ナポレオン1世の母方の叔父であるジョゼフ・フェッシュ枢機卿(1763-1839)個人のコレクションを基礎としてコルシか島に設立されたもので、最盛時には16000点を超えるといわれるほどの質・量ともに最大級のコレクションだったのだそうです。その後、一族の崩壊とともに散逸しましたが、残されたイタリア絵画コレクションだけでも、フランスのルーブル美術館に次ぐ規模といわれています。(展覧会チラシ解説より抜粋)

 ボッティチェッリの「聖母子と天使」には、後の「春」や「ヴィーナスの誕生」に通う優美なものが、三人をつつむ穏やかな光などにすでに存在しているのをみました。





 80点ほどの作品中の珠玉はもう一つ、ジョバンニ・ベッリーニの「聖母子」です。
 宗教絵画は、聖書への理解が浅い私には十分には受け止めることができないのが残念ですが、それでも、これらの作品が持つ瞑想的な優しさにあふれた世界の、清々しく、そしてどこかほのかに持つ哀愁の気分は、救いを求める人間の、聖なるものへの憧憬といったものが漂うのを受け止めることはできます。

 17世紀・18世紀のバロックからロココにいたる作品が中心で、華麗な美術史の展覧会です。
 4部門で構成されていて、第1章が「光りと闇のドラマ―17世紀宗教画の世界」で、ここに目当ての2作品が展示されています。
 第2章は「日常の生活を見つめて―17世紀風俗画の世界」で、王侯貴族の肖像画が中心でした。邸宅を飾った静物画風景画も混じっています。
 第3章は18世紀ロココ時代の優しいやわらかな絵画が中心で、「軽やかに流麗に―18世紀イタリア絵画の世界」と名づけられています。その中に“死んだ鶏“と題された絵は若冲を思わせ、あざやかな色彩で一種不気味な味わいの中に細やかに1匹のハエが描き込まれていました。
 第4章は「ナポレオンとボナバルト一族」ナポレオン1世の戴冠式の衣装をまとって王座の前に立つ若き日の姿が223×144㎝という大きな肖像画に留められています。大理石やブロンズの像、ナポレオンのデスマスク、愛用の品々といった資料まで多彩です。

 この特別展に併せて版画展示室では「聖なるものへ―ルドンとルオーの世界」と題して聖書の主題を基に、ルドンの「ヨハネ黙示録」石版と、ルオーの「ミセレーレ」「受難」銅版の中から30点ほど展示されていました。ここは祈りが聞こえるような静かな空間となっていました。

詳細をお知りになりたい方は、北九州市立美術館のホームページでご覧ください。

 追記
 三階の常設展は「冬のコレクション」の展示でした。その中から、印象に残った作品を2点UPします。



坂本繁二郎 1914年 71,0×116,8㎝ 「海岸の牛」
堂々とした風格のある牛が朝日の中の立っていました。第1回仁科会に出品した作品。




東山魁夷 1977年 175,0×118,0㎝ 「凍池」
色彩を押さえ、清楚な青ですでに氷結した部分、まさに氷結せんとする部分、まだ氷結していない部分と3つの水の姿を的確に表現しています。大胆な分割が清々しく感じられます。
 




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4 コメント

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南風に誘われて (香hill)
2009-02-11 21:55:56
春風に誘われて美術館へお出かけですか、
宗教絵画はともかく、坂本画伯の絵は良いですね。

因みに、小生は
春風ではなく南風に誘われて旅に出ました。

岡山から高知への特急”南風”を初めて利用しました。
高知駅前のビジネスホテルに4連泊、夕食は連日繁華街にでかけ”カツオのたたき”。さすが本場の味。
語るに落ちる・・とはこういう事でしたか?失礼。
its コメントをサボった理由。

先日のアップに紀貫之ありましたね。土佐日記では旅の日数が55日だったか、
本日のJRでは5時間でした。これでは日記も書けません。
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春風の旅 (boa!)
2009-02-12 13:43:24
春風に誘われての旅で、土佐にお出かけでしたか。
四万十川が、最後の清流と喧伝されるコピーに乗せられて、出かけたことがあります。
期待はずれでしたが、鰹のたたきは、地酒に好くあって確かに一味も二味も違っていました。

足摺岬の灯台や、丘の上に坂本竜馬の像が建つ桂浜を歩いたのが印象に残っているくらいです。
特急”南風”はやはりハエと呼ぶのでしょうか。

土佐日記のころの時間の観念がときに羨ましくさえ思えますね。「今日で何日経った。」と指が痛くなるほど数える旅の日々は退屈との戦いでもあったでしょうが、風任せ、日より次第の旅というのも現代では贅沢なものでしょう。


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先週の迷宮美術館 (Artistyle)
2009-02-14 23:12:07
坂本繁二郎さんの特集でした。とても淡い色づかいで素敵ですよね。
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淡い色 (boa !)
2009-02-15 07:42:36
はじめまして。
同県人ですから、拝見する機会が多いのですが、いつも淡い色のやわらかな雰囲気の中で、主題がしっかり主張を持っているのに感心しています。
牛を敬愛した繁二郎の思いが明快な画面から伝わりますね。UPした画像は少し色が鮮やかすぎになっています。

迷宮美術館という番組があるのですね。今度見つけて観賞してみます。
ありがとうございました。
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