「もののあはれ」の物語

古き世のうたびとたちへ寄せる思いと折に触れての雑感です。

竹の葉

2005年05月18日 | 歌びとたち
 夜来の雨は上がりましたが、風が少し強く吹いています。まだひ弱い夏野菜の苗を心配して畑に下りてみました。後ろの竹の林の騒がしいこと。
 次々に枯れた古葉を空に放って、体をゆすり続けています。この風景は多くの詩人たちがすでに言葉で捕らえています。「竹の秋」とはよくも名付けたものです。

 竹散って風通る道いくすぢも  石田あき子
 
 竹散るやひとさし天を舞ってより  辺見京子

 若竹や鞭の如くに五六本     川端茅舎

 古典の世界にも万葉の昔から、あの有名な大伴家持の「いささむらたけ」の歌がありました。万葉の歌人たちも四期ともなれば、竹に渡る風の気配のかそけさをとらえて歌に詠むと感じ入ったことでした。

 わがやどのいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕べかも   大伴家持

 窓近き竹の葉すさぶ風の音にいとど短きうたたねの夢     式子内親王

 五月原に竹の若葉もたわむまで玉ぬきかくる蜘蛛の糸すぢ   藤原為家
 
 蜘蛛の糸に絡まって、まるでビニールの細工物のようにくるくる回りつづけている葉、玉柘植の上に腰を据えて、鷹揚に揺らぐ葉、しばらく散り敷く竹の葉のさまざまに見とれていました。