Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

『NOVA1』トークイベントatオリオン書房立川ノルテ店

2009年12月21日 | SF・FT
オリオン書房立川ノルテ店で行われた「NOVA1トークイベント」に行ってきました。



思えばここは『蒸気駆動の少年』トークイベントで伊藤計劃氏を見かけた場所。
同じ場所で伊藤氏も載ってるアンソロジーのイベントを見るのは、何か複雑な気分です。
今回の出演は責任編集の大森望氏、収録作家の円城塔氏、そして未収録作家(笑)の
新城カズマ氏(さらに後半では津原泰水氏も参加)。

新城氏が『NOVA1』の原稿落とした話はトーク内でもえんえんとネタにされてましたが、
来年7月ごろに出る『NOVA2』にはちゃんと書く、と本人からの決意表明がありました。
今回の件で心を入れ替え、2010年は新人作家(!)としてSF再デビューを図るとか。
あと、刊行中の『15/24』は、後半に向けてどんどんSF度が上がっていくそうです。

さて、トーク冒頭では『NOVA1』誕生の経緯について、大森氏から説明がありました。
概略は本の解説でも書かれてますが、国産プロパーSFの短編を発表する場が少ないので
それを提供しようというのが発端であること、企画が持ち上がったのは今年の2月ごろだけど、
その時はSFマガジン50周年記念で日本作家特集が出ることを全然予想してなかったこと
(そのため、重複作家が多くなってしまった)などを話してました。
ちなみに円城氏によると、早川書房からは50周年企画について3月ごろまで何のビジョンも
示されなかったということで「たぶんその時は何も決まってなかったのでは」との話。

本邦初の企画ということで、今回のラインナップは大森氏とつきあいの深い方で、なおかつ
「原稿をボツにしても大丈夫そうな人」を基準に選んだそうです。
そして大森氏からはさらに、こんな裏事情も明かされました。

「この企画を通すにあたっては大物執筆者の名前が必要だったので、伊坂幸太郎や
 宮部みゆき、恩田陸あたりの“書いてくれそうな人”をバンバン出しました」

その後ウヤムヤのうちにこの3人には執筆依頼をしてあるそうですが、締切を守る宮部さんは
ともかくとして、仕事を請けすぎてる恩田さんは原稿を取れるかが非常に問題とか。
さらに山田正紀氏や神林長平氏にも書いてもらう予定ですが、山田氏の『イリュミナシオン』に
かなり厳しい評価をした大森さんとしては、その後に原稿を頼むのが不安だとも言ってました。

作品の並びは大森氏が決め、扉のキャッチフレーズは河出の伊藤さんが書いたそうです。
大森氏が京フェスでの紹介用に作ったキャッチフレーズもあったそうですが、『NOVA1』の
出版に際し、伊藤さんのほうで全部リリカルな調子に書き直してしまったとか。
特に「Beaver Weaver」に関しては、大森氏いわく「オレにはあの文章は書けない」(笑)。

そして表紙の猫は、何もないと寂しいということで西島大介氏が描いてくれた「NOVA猫」。
尻尾の先の黒丸は、どうやらノヴァを意味するようです。
ちなみに河出の伊藤さんは西島氏の現担当で『魔法なんて信じない。でも君は信じる。』
登場した“切れ者編集者”ご本人らしい。

アンソロジーの後半に同傾向の作品が並んでいることについては、円城氏から

「これはさすがにいかんなと思った。今後のSFはもっと違う方向を目指さないと」

との感想が漏れて、これには場内大爆笑。
周りから即座に「円城さんがそれを言いますか」と厳しくツッこまれてました。

その円城氏の「Beaver Weaver」については、作中に出てくる車が(『少女革命ウテナ』の)
暁生カーみたいだ」との声があり、続けて“円城ウテナ”という名言まで飛び出す始末。
しかしあの作品から円城ウテナというネタが産まれるとは、さすがに予想できなかった(^^;。
そして円城氏は「もし言ってくれてたら、ちゃんとボンネットに乗せてたんですけどねぇ」と
ウテナを見た人にしかわからない(笑)絶妙な切り返しをしてました。

ところで円城氏は他のイベントでも拝見してますが、気配り・進行・ツッコミ・ボケに加えて
さらにイジラれ方が上手と、着々とトーク職人の境地を極めつつある気がします。
横で話を振られるのを待ってるのが惜しい芸風なので、今後はぜひ本人が進行を勤める
トーク企画などにも期待しています。

そしてトーク中でなにかと話題になったのは、田中啓文氏の「ガラスの地球を救え!」。
新城氏は「目配りが優しいです」、円城氏は「こういうのを書いてもいいんだと思った」
後ほど登場した津原泰水氏からも「SFにブランクがあって何を書くか不安だったけど、
これを読んで安心しました」と同業者に大好評。
ただし円城氏は「今後こういうのを目指そうよ」と周囲に振られて「いやいやいや~」と
必死に固辞してましたが・・・。

さらに新城氏は「新しい円城作品の方向性をみんなで決めよう、お題を三つ出そう!」と
かなりむちゃくちゃな提案。
なんだかんだで「婚活・陰陽師・父」のテーマを決められてしまった円城氏本人からは

「みんなで私の芸風をどうしようっていうんですか!!」

というナイスリアクションをいただきました。さすがは業界屈指のトーク職人です(^^)。

後半では『NOVA2』への収録が予定されている(というか、このトークの最中にいきなり
原稿依頼をされていた)津原泰水氏に加えて、お客さんに混じっていた「ゴルコンダ」の
斉藤直子氏、今月末に新作『魂追い』が出るホラー作家の田辺青蛙氏も紹介されました。
津原氏は終了後のサイン会にも出るという流れから、そのままトークへと参加することに。

ちなみに斉藤さんは「ゴルコンダ」に出てくる梓さんみたいに可愛らしい方です。
私の見たところ、まわりにはキラキラと輝く妖精の粉が見えました。
“花びら大回転”は各所で大反響らしく、どこぞの書店POPでも大書されていたとか(笑)。

田辺さんは一見すると物静かな風貌の才媛タイプですが、帰宅してネットで検索してみたら
いきなりプラグスーツ姿の写真が出てきてビックリしました。
アレを着てトークに参加してくれれば、それだけで十分SFだったのに(笑)。
大森氏いわく「彼女はまだSFのなんたるかがわかってないので、NOVAに載せられない」
とのことですが、2人の田中先生の作品がOKなんだから、田辺さんもあとひとガンバリで
立派なSF(?)になれますよ、たぶん。

津原氏の登場後は『超弦領域』収録の短編や『バレエ・メカニック』についての話が出ましたが、
ここで判明したのが「早川の《創造力の文学》シリーズは、恐ろしいほど売れてない」という事実。
このままいくと《夢の図書館》の二の舞になりそうで、予定されている円城氏の長編が出る前に
《創造力の文学》そのものが無くなりそうだという話でした。
《創造力の文学》シリーズを続けて欲しい方、あるいは無くなる前に本を押さえておきたい方は、
どちらにしろ今すぐ購入に走るようオススメしておきます。

そんな《創造力の文学》の中でも、まだ売れている部類に入る『バレエ・メカニック』ですが
大森氏・円城氏とも、国産SFの年間ナンバーワンと太鼓判を押してました。
さらに柳下毅一郎氏も読書メーターで絶賛の本書ですが、大森氏によればAXNミステリーの
「闘うベストテン」の中で、日本代表として『フロム・ヘル』と激突したとか。
ということで、ムーアファンも敵に塩を送るつもりで(笑)『バレエ・メカニック』買いましょう!

今回は『NOVA1』のためのイベントでしたが、思いがけなく日本SF界の裏事情や
今後の展望についても聞くことができて、とてもためになる内容でした。
作家さんも執筆以外にトークまでやらされて大変とは思いますが、SFの未来について
現場からの声を直接聞ける場は、これからも随時設けて欲しいと思います。

トーク終了後はサイン会。津原氏が万年筆でサインしてる姿が、特にカッコよかったです。
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