Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

ヒロシマをめざしてのそのそと(前編)

2011年03月06日 | SF・FT
SFマガジン2011年3月号に載った海外作品のうち、まだ読んでなかったジェイムズ・モロウの
「ヒロシマをめざしてのそのそと」を読了したので、感想を書きました。

実はこの作品、思いっきりタイトルを読み違えて「ヒロシマをめざしての“そのそと”」と思ってました。
“そのそと”ってなんだろう?と思ってたら、正解は「ヒロシマをめざして“のそのそと”」(笑)
せめて「ヒロシマめざして、のそのそと」とかにしてくれればよかったのに・・・。
まあ、読み違えたこっちが悪いんですけどね。

お話の舞台は第二次世界大戦末期のアメリカ。米軍は日本への決戦兵器として、原子力を利用した超爆弾と
トカゲ型の巨大生物兵器を開発していた。
しかし爆弾の開発はウラン精製の問題で遅れに遅れる一方、巨大生物兵器のほうはすでに3頭が完成ずみ。
米軍はこの巨大トカゲを日本に上陸させて降伏を受諾させようと図るものの、その凶暴さゆえに未曾有の
大惨事を生むことを危惧し、人道的見地から作戦を凍結。
代案として、日本側に人間サイズのトカゲ兵器による実演を見せ、戦意をくじく計画が立案されていた。

しかし小型版のトカゲ兵器は巨大版と違い、なぜかいたって温厚、かつ人なつっこい性格だった。
これでは日本をビビらせられないと考えた軍部は、トカゲ兵器にそっくりの着ぐるみを製作して、
こいつに日本人の前で大暴れをさせようと考える。
そして「中の人」として、ハリウッドでモンスター役者として鳴らす主人公に白羽の矢を立てたのだ。

最初はしぶしぶ参加を決めた主人公だが、見事なセットと業界有数のスタッフを見て、だんだんと
ノリノリになっていく。
そして何よりも彼の心を最もとらえたのは、ゴルガンティスと名づけられた怪獣の着ぐるみだった。
光る目玉に鋭い鉤爪、全身を覆うウロコと巨大な尾、そして炎を吐く口と、震え上がるような咆哮!
その完成度の高さが、モンスター俳優としての主人公の役者魂に火をつけたのだ。

個人用爬虫類装備(つまり怪獣の着ぐるみ)を身にまとい、見事な「のそのそ歩き」を披露する主人公。
これなら絶対に「中の人」がいるとは思われない!きっと日本は震え上がって降伏するだろう!
かくして前代未聞のプロジェクト「フォーチュンクッキー作戦」は、その幕を上げた・・・。


って、二本足で歩く巨大トカゲ怪獣ときたら「ゴジラ」しか思い浮ばないですよね(^^;

あらすじだけ見ればバカバカしいことこの上ないんですが、初代ゴジラの設定が水爆実験の産物であり、
また核兵器への警鐘として製作された意図も考えれば、「原爆の代わりにゴジラが開発されたら?」
という発想には、なかなか興味深いものがあります。
作中でも「核時代」をもじって「トカゲ時代」という言葉が出てくるあたり、作者もそのへんの背景を
十分わかったうえで書いてるはず。
また全編にあふれる映画、特に特撮モノへの深い愛情も、ユーモアの中に誠実さを感じさせるものがあり、
決して笑いだけを狙って書かれた作品でないと思いました。

そして何よりも泣かせるのが、フォーチュンクッキー作戦の監督を努める人物として登場するのが、
「フランケンシュタイン」を撮ったジェイムズ・ホエールというくだり。
世界で最も有名なモンスター映画を撮った監督が、もう一体の世界的モンスターを監督したら・・・
円谷英二監督には申し訳ないけど、この夢の組み合わせはやっぱり見たい!

これを国辱SFとか、ゴジラを馬鹿にしてると批判することは簡単ですが、むしろ「原爆」と「映画」という
極めてアメリカ的な文化に対する切り口として、日本が誇る大怪獣を持ってきた大胆さを評価して欲しい。
特に「ダイナメーションならもっとうまく撮れる」とハリウッド特撮マンに言わせておきながら、その意見を
わざわざ却下する一節に、作者の強烈な「着ぐるみ愛」が出ていると思います(笑)。
日本に関する描写にいくつも間違いが見られるのも、逆にリアリティを狙ったものではないでしょうか。
(とか書いておいて、実はモロウさんが全然ゴジラファンじゃなかった・・・なんてオチだけはイヤだなぁ。)

こんな感じで、先がとても気になる「ヒロシマをめざして“のそのそと”」ですが、今回は3回分載のうちの
まだ1回目。ふだんSFマガジンを買わない私にとって、あと2冊買うのはちょっとしんどいです(^^;。

単行本の発売が確実なら、そっちを待つんだけど。
でもモロウって、SFマガジンの掲載後は埋もれがちなんですよね・・・今度こそ書籍化なるか?
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