《あらすじ》
ゴヌクは眠ってしまった。
ジェインはそっと彼に寄り添い、傷跡をそっと撫でてやる。
いつか、本当のことを話してほしい。信じているから。
ゴヌクは、ソニョンの遺品を燃やした。
テソンの部屋から持って来た衣類、
自室の金庫にしまってあった、アメリカへ届いたエアメイル。
優しかった姉。自分を拾ってくれたのは、彼女だ。
本当の姉と弟のようだった。ふたりは、家族だった。
クァク刑事は納骨堂を調べに来て、燃やされた灰の中から手書きの文字を見つけた。
「ゴヌク……ごめんね。テソンさんなしじゃ生きていけない」
それはソニョンの死が、自殺だったという仮説を裏付けていた。
そして、自分がその男なら家族を守るはずだ、といったゴヌクの言葉を思い返していた。
会社にモネが乗り込んできた。
姉とゴヌクの関係をはっきり問いただすためだ。
偶然一緒になったふたりを見て、嫉妬にかられるモネ。
「何があったの!」
ゴヌクは言った。揺れたのは自分なのだと。
知り合いに似ていた。偽るうちに自分の本心を見失った人。
正直に生きるよう、忠告しただけだ。
「それだけ?じゃあ過ちって何?信じていいの?」
「どうせ信じないんだろ?なぜここへ来た。帰れ」
ゴヌクは冷たく背を向けた。
株価操作疑惑で逮捕されそうなテギュンは、
父の命令でアメリカへ行くことになった。
カン・ユンチョルの裏切りのせいだ。
彼の事務所で、シム・ゴヌクの名刺を拾い、キム秘書室長に調査を命ずる。
その名前に気付いたのは、室長だけだった。
そもそもテギュンの失脚は、テソンの計略ではないのか?
モネにつきまとう男もあやしい。
シン夫人に疑惑のタネを植え付けられたテギュンは、テソンの理事室に乗り込む。
「お前のしわざだろ!」
「俺だって兄貴を負かしたい。でも正直兄貴が失脚しようが何しようが興味ないよ」
そもそもテソンは、何もしらないのだ。
「素性もわからん奴が偉そうに。二度と兄貴と呼ぶな!」
出ていこうとするテギュンに、わざと声をかけた。
「兄貴ぃ!兄貴!……元気でな。兄貴よぉ!」
ゴヌクは、へたりこんだテソンを助けおこした。
「大丈夫ですか?」
「これで兄貴と呼べなくなったな。
俺に優しくするな。慣れてないから」
それでもテソンは部屋を出る前に、ゴヌクに礼を言った。
もし、あいつと俺の立場が逆だったらどうなっていただろう?
でも俺の人生にもしもはない。
わずかな運と、ありあまる不運だけだ……。
モネはゴヌクに謝って、人形を渡す。
「私には何も話してくれないけど、話し相手は必要でしょ?
私以外の人と話してほしくないから、かわりにこれ」
少女らしい幼いモネに、ゴヌクは遠回しに留学をすすめた。
「準備しているんだろ?俺と同じ大学に通ってくれたらうれしいな」
「……本気で言ってる?」
ゴヌクの態度に、寂しげな様子のモネだったが、自家用車で帰っていった。
クァク刑事が会社にやってきて、ふたりでいたテソンとゴヌクに声をかけた。
「ホン・テソンさん!」
ソヒョンの残したメモを手渡し、彼女の事件は自殺だったとはっきり告げる刑事。
ゴヌクは物問いたげに、刑事を見た。
「ゴヌクさん、食事に行きませんか?」
「娘がいる。ソニョンさんとふたつ違いだ。だからどうしても気になってね。
現場で彼女の声が聞こえた。助けて、と。
刑事生活20年でわかったことがある。
怒り、憤怒、それらを捨てれば、人は幸福に生きられる。
他人に向けた憤怒は必ず、自分に返ってくる。
だから、すべて忘れて許すんだ」
クァク刑事の心からの忠告に、ゴヌクは言い返す。
「許す?自分の過ちにも気づかない奴らを許せと?」
「チェ・テソンさん、
わたしは彼女の言葉を聞き間違えた。助けてではなくて、止めて、だ。
どうか止めて、と。私の弟、大切なゴヌク、テソンという子を、必ず止めて、と」
権力者は大きな力を持ち、庶民はその力の前には無力だ。
刑事という職業は因果なもので、事件が起こることを止めることはできない。
クァク刑事は、自分の思いをゴヌクに語った。
店の奥で、ゴヌクのスタント仲間が笑っている。
「俺もいつか、あんな風に笑えますよね」
そう言って、ゴヌクは寂しそうに笑った。
テソンはひとり、ソニョンのメモを見つめている。
車でジェインの家の前まで行くと、ジェインと妹、その母親が歩いているのが見えた。
重そうな荷物を抱えたジェインの母と、楽しそうな姉妹。
「乗っていきませんか?」
テソンの申し出をジェインは迷惑そうに断るが、母がさっそく乗り込んでしまった。
結局家で、一緒に食卓を囲むことになる。
テソンがヘシンの息子だと知って、大喜びの母親。
ジェインは、苦虫をかみつぶしたような顔である。
しかし、テソンはなんだか楽しかった。
ゴヌクは、ジェインに会おうと家の近くまで来ていた。
ジェインは、テソンを通りまで送っていくところだ。
クァク刑事から電話がきて、ゴヌクは事件と無関係だったと知った。
ふと思い出したジェインは、ソニョンの死について、テソンに慰めの言葉をかける。
「あなたは悪くないわ。彼女だって、望んでいなかったはずよ。
あなたが苦しめば、ソニョンさんも安らかに眠れないわ。
彼女のことは知らないけれど、あなたが苦しんでいるのはわかる」
「苦しいさ……」
その様子を見ていたゴヌクは、思わず叫んでいた。
「黙れ!」
ジェインは慌ててゴヌクに駆け寄る。
「ゴヌク、急にどうしたのよ?」
「まだ懲りないのか?お前は何をした?」
「関係ないだろ?」
「お前のせいでひとりの女が死んだ。忘れたか?
次はムン・ジェインか?」
テソンは傷をえぐられ、ゴヌクを殴ってしまう。
ジェインは、向かって行こうとするゴヌクを止め、厳しく言った。
「目に見えない傷もあるの。
あなたとは違う形で彼だって苦しんでいるのよ、わからない?
苦しくて、叫んでいるの」
ゴヌクは、信じられない思いでいる。
「正気か?」
「謝って。悪いにはあなたよ。恋人が死んだのよ。ひどいわ、なにも知らないくせに」
「何も知らない?この俺が?」
「勝手なこと言わないで」
黙っていたテソンが言った。
「俺が悪いんだ」
「違うわ。ゴヌク、テソンさんを傷つけないで」
ジェインはテソンに寄り添った。
「ありがとう。……それと、ごちそうさま」
テソンは去って行った。
ジェインは、呆然と立っているゴヌクの横を黙ってすり抜けていく。
ゴヌクは、やりきれない思いで苛立ちながら走り出した。
誰にも、わかってもらえるはずがない。
その夜、ゴヌクはうなされて目が覚めた。
誰かが、女が、子どもの頃の自分の首を絞めている。
必死で抵抗していた自分……。
「あの子の死体は確認した?自分の目で?」
シン夫人は、キム秘書室長に確認していた。
「いいえ、報告を受けただけですので」
「もしあの子が生きているとしたら、危険だわ」
「なぜですか?手違いで養子にきただけです。考えすぎですよ」
それでも、シン夫人の懸念は去らなかった。
ジェインは、以前ゴヌクが眠っていた場所に、ふと座ってみた。
目を閉じて、壁に頭をもたせかけてみる。
と、そこへ当のゴヌクがやってきて、
親しげに彼女にもたれかかり、頭を預けてきた。
ついでにジェインの持っていたトマトジュースを取り上げて、全部飲んでしまう。
「この前はゴメン。
テソンさんは恋人をなくしたのに、あんな言い方するから……」
「わかった、もういい」
「言ってなかったけど、警察から連絡があったわ。
テソンさんの恋人とあんたは何の関係も無いそうよ。
わかってたけど、安心した……」
ゴヌクはたずねた。
「ジェイン、俺たちの関係は?」
ジェインは、少し間を置いて答えた。
「モネとはどう?」
「お前、ホン・テソンとは?」
ゴヌクの携帯に連絡が入って、彼は行ってしまった。
その後ろ姿を見て、ジェインはつぶやく。
「背が高いのね。
頭も小さいわ。
でも肩幅は広い。
素敵な後ろ姿ね。ゴヌク、わたしたちの関係って?」
テギュンは失脚しアメリカに。モネも留学する。
ヘシンの相手は、テラとテソンのみだ。
いまのところ、テラの持ち株の方がテソンよりも多い。
「ホン・テラか……」
ゴヌクは駐車場に急に現れて、テラを食事に誘う。
すると偶然、テラの夫が車から降りてきた。
妻を食事に誘おうと思ってのことだ。
なにしろ、冷たくケンカをしたばかりだったから。
「誰だい?」
「モネの恋人よ」
ゴヌクのことをそう説明したテラだが、後ろめたい気持ちでいっぱいだ。
「彼も一緒にどうだい?」
「もう帰るそうよ」
まさか、夫とゴヌクと同席しての食事など出来るはずもない。
テラの携帯が鳴った。
「……何ですって?」
ふらっと倒れそうになったテラを、とっさに支えるゴヌク。
その様子を見て、何かを感じる夫。
しかし、一瞬の違和感は、テラの発した凶事によって吹き飛ばされてしまった。
「テギュンが死んだ……」
泥酔して運転中に正面衝突。
同乗していた女性は無事。
あまりに突然の死だった。
「事故死など想定外です。驚きました」
「計画というものは思い通りにいかないものだ」
ゴヌクの復讐計画を助けていた青年は、
テギュンの裏切りによって死を選んだ兄の復讐を望んでいたのだった。
「彼の死を望まなかった?」
「法の裁きを受けさせたいと思っていました。
兄が自殺した直後は、死を望んだこともありましたが、一時的なことです。
シム・ゴヌクさんは?」
「俺は望んだ。ヘシングループすべての人間の死を願った。
幼い頃の俺は、彼らを激しく憎んだ。
でも今は、憎しみも刃もない。ただ、彼らに迫り来る不幸を見守るだけだ」
突然の不幸に、悲しみにくれるヘシンの家族。
父はテソンに、長男の役割を果たすよう叱咤する。
シン夫人は、錯乱し叫び出す。
「あなたのせいでテギュンは死んだのよ!」
テソンに「母さん」と呼ばれ、逆上したシン夫人は、口汚くテソンをののしる。
「私があんたの魂胆を必ずあばいてやるわ!ヘシンには指一本触れさせない!」
テギュンの死は、会長にも大きな打撃となっていた。
株取引の件をリークしたのは誰なのか?
必ず見つけ出して、息子と同じ目に合わせてやる!と、会長は憤怒したが、
衝撃に身体が弱っているのは確かだった。
テラは、孤独だった。
なぜ泣かないのか、弟に聞かれた。
自分が泣くわけにはいかない。
ここで弱みを見せて泣き濡れていたら、ヘシンは共倒れだ。
社員たちの生活が、自分の肩にはかかっている。
グループの長女として、責任がある。
弟には、わかってもらえなかった。
重荷を分かち合える人間はおらず、彼女は、孤独だった。
ゴヌクの視線から逃れるように、テラは離れへ行って、ひとり泣いた。
誰にも見られないところで、涙を流すしかなかった。
ゴヌクはそっと入っていき、声をかける。
「泣いていい」
テラは、立ち去ろうとしたが、ゴヌクに引き寄せられた。
「大丈夫だ、泣いていいよ」
彼の肩をかりて、涙を流す。
そっと背中を叩いてもらって、ただ、泣いた。
「大丈夫だ。俺を見て。
外に出たら、いつもの毅然としたホン常務に戻れ。できるね?」
ゴヌクの言葉にうなずく。
「わたしのそばにいて」
額に、目に、唇に、キスをする。
その様子を、弔電を届けに来ていたジェインと、
彼女を姿を見つけてついてきたモネが、見ていた。
(つづく)
その、なんだ。
いろいろ書きたいこともあるのですが、
まずは声を大にして言いたい。
あんたら、なんでそこでキスなんかな?
ゴヌガ!そこはおでこへのチューで留めておくべきだろ!
ここは情欲とは関係ないだろ!
愛は必ずチューに至るのかよ!
お前の手練手管はそこに帰結するのかよ!
チューばっかスンナ!
そういうことだから目撃されちゃうんですよ~。
そこでびっくりしたって無駄無駄無駄ァァァァですよ。
モネに見られたことより、ジェインに見られた方がショックだった?ゴヌク?
そんな気がするねぇ。
でもテラ姉さんには、同情しているっぽいゴヌク。
まず自殺したソニョンさんがいろいろ悪い、というのは大前提ですが、
遺書まがいのメモを残していた、と。
これが刑事の心象と合わせて、決定的な証拠になりましたね。
ひねくれ者だとわかっていてテソンを愛したはずのソニョンさんでしたが、
さすがに別の女を連れ込まれては、ショックだったんでしょうね……。
それにしたって、死んではいけない。
それも、ゴヌクが近づいたから、足を滑らした、手を離したから、落ちていった、みたいな
残った人間に最悪の負債を背負わせてはいけません。
復讐に燃えるゴヌクを止めなきゃだめだ、という使命感はなかったのか?
ゴヌクの悲劇は、幼い頃に受けられなかった愛情だけではなく、
この、姉からの愛情を受けられなかったことだと思います。
いっちばん肝心な時に、姉は男への愛情のために死んだ。
弟への愛情など、男への愛情とは比べものにはならなかった。
男への愛のために死に、弟への愛のために生きることを選ばなかったスニョン。
愛する家族を死に追いやったヘシン。
父母に続き姉までも……って気持ちかも知れないけど、どうかな~。
本当はさ、「恨み」じゃないんじゃね?
ゴヌクの「嫉妬」じゃね?って気がするんですよね。
父さん母さんが、無事に彼を迎えに来てくれていたら、
こんな復讐劇はあり得なかったでしょう。
再び、あふれんばかりの愛情を注いでくれる父母と一緒になれていたら……。
しかしそれはかなわなかった。
彼の行動の根底には、「満たされなかった愛情欲求」があると思いますね。
彼と成り代わったテソン自身も、非常に愛に飢えているんですけど、
スニョンの無償の愛が得られたのに、それを拒絶してしまった。
「彼女を守ってやれない……」というヘタレ全開の言い訳で。
スニョンは守ってもらいたかったんじゃなくて、
テソンを守ってあげたかっただけなんですけどね~。
男のくだらないプライドが邪魔をした面もあるし、
どうしても家族の愛情をあきらめきれなかったという面もある。
姉貴のありあまる愛情を受けていたくせに!という嫉妬、
自分の存在は、姉が死を思いとどまる理由にならなかった、という悔しさ、
そのうえ、今は心の拠り所としているジェインまで奴の肩を持つという裏切られた感。
もうゴヌク君爆発です。
こんなヘタレのために姉は死んだのかと思うと、怒りもひとしおですね。
ジェインが、「見えない傷もある。彼も苦しんでいる」というのは本当で、
ここでの彼女は平等だと思う。
ゴヌクの生い立ちまでは知らないからね。
「俺が何も知らないって?」とゴヌクは言いますが、
さすがにすべての秘密を明かすわけにはいかない葛藤。
全部話せば、ジェインも味方してくれるかもしれないんだけどねぇ。
まったく人生はうまくいかないことがいっぱいだよ。
思わず叫んじゃう。んがー!
マザコンのテソンとシスコンのゴヌクのケンカ……。
そういっちゃうと身も蓋もないですが、
おまえらもっとしゃんとせえよ!
テソンがもっとタフな子だったら、テラもあんなに孤独じゃなかったわけで。
まったく思春期をこじらした子は周りを巻き込んで不幸になっちゃいますね。
ジェインのお母さんのように、
教養はないかもしれないけど、がはは!と笑って生きられる明るい人が必要だったのにね。
それでも!
それでも翌日にはジェインを許すんだよな~、ゴヌクは。
自分がいろいろ内緒にしてるからしょうがない、とは思っているんでしょう。
本当にこのふたりの関係というのは、
絶妙なバランスで、すごく好きです。
なんだかんだいってジェインに甘えるゴヌクがかわいすぎる。
ふたりの馴れ合いシーンがやっぱり好きだ。なんですか、この足の長さは。
とうとうジェインも気付いたみたいですが、
ほんとに彼は背広姿が似合うのよ~。
背広というか、あの三つ揃えのベストを着込んでる時が一番かっこいいですね。
眼福眼福。
さて、予告映像の中で、キム秘書室長が不穏なセリフを吐いています。
「ご両親の死の真相を知りたくありませんか?」
なぬー?!
そんな秘密が隠されていたんですか?!
幼いゴヌクの首を絞めてたのはシン夫人っぽいしねぇ。
終盤が近づき、また新たな展開がありそうですね。
どうでもいいけど、うなされてるゴヌクがまたいいのだ。
運動神経の発達した人は、うなされていてもわりとよく動くのかしら。
私がよく見るうなされる人は、こんなにアクティブじゃないです。
うなされて起きる姿がまたよい。かわいそうだけど……。
ゴヌクは眠ってしまった。
ジェインはそっと彼に寄り添い、傷跡をそっと撫でてやる。
いつか、本当のことを話してほしい。信じているから。
ゴヌクは、ソニョンの遺品を燃やした。
テソンの部屋から持って来た衣類、
自室の金庫にしまってあった、アメリカへ届いたエアメイル。
優しかった姉。自分を拾ってくれたのは、彼女だ。
本当の姉と弟のようだった。ふたりは、家族だった。
クァク刑事は納骨堂を調べに来て、燃やされた灰の中から手書きの文字を見つけた。
「ゴヌク……ごめんね。テソンさんなしじゃ生きていけない」
それはソニョンの死が、自殺だったという仮説を裏付けていた。
そして、自分がその男なら家族を守るはずだ、といったゴヌクの言葉を思い返していた。
会社にモネが乗り込んできた。
姉とゴヌクの関係をはっきり問いただすためだ。
偶然一緒になったふたりを見て、嫉妬にかられるモネ。
「何があったの!」
ゴヌクは言った。揺れたのは自分なのだと。
知り合いに似ていた。偽るうちに自分の本心を見失った人。
正直に生きるよう、忠告しただけだ。
「それだけ?じゃあ過ちって何?信じていいの?」
「どうせ信じないんだろ?なぜここへ来た。帰れ」
ゴヌクは冷たく背を向けた。
株価操作疑惑で逮捕されそうなテギュンは、
父の命令でアメリカへ行くことになった。
カン・ユンチョルの裏切りのせいだ。
彼の事務所で、シム・ゴヌクの名刺を拾い、キム秘書室長に調査を命ずる。
その名前に気付いたのは、室長だけだった。
そもそもテギュンの失脚は、テソンの計略ではないのか?
モネにつきまとう男もあやしい。
シン夫人に疑惑のタネを植え付けられたテギュンは、テソンの理事室に乗り込む。
「お前のしわざだろ!」
「俺だって兄貴を負かしたい。でも正直兄貴が失脚しようが何しようが興味ないよ」
そもそもテソンは、何もしらないのだ。
「素性もわからん奴が偉そうに。二度と兄貴と呼ぶな!」
出ていこうとするテギュンに、わざと声をかけた。
「兄貴ぃ!兄貴!……元気でな。兄貴よぉ!」
ゴヌクは、へたりこんだテソンを助けおこした。
「大丈夫ですか?」
「これで兄貴と呼べなくなったな。
俺に優しくするな。慣れてないから」
それでもテソンは部屋を出る前に、ゴヌクに礼を言った。
もし、あいつと俺の立場が逆だったらどうなっていただろう?
でも俺の人生にもしもはない。
わずかな運と、ありあまる不運だけだ……。
モネはゴヌクに謝って、人形を渡す。
「私には何も話してくれないけど、話し相手は必要でしょ?
私以外の人と話してほしくないから、かわりにこれ」
少女らしい幼いモネに、ゴヌクは遠回しに留学をすすめた。
「準備しているんだろ?俺と同じ大学に通ってくれたらうれしいな」
「……本気で言ってる?」
ゴヌクの態度に、寂しげな様子のモネだったが、自家用車で帰っていった。
クァク刑事が会社にやってきて、ふたりでいたテソンとゴヌクに声をかけた。
「ホン・テソンさん!」
ソヒョンの残したメモを手渡し、彼女の事件は自殺だったとはっきり告げる刑事。
ゴヌクは物問いたげに、刑事を見た。
「ゴヌクさん、食事に行きませんか?」
「娘がいる。ソニョンさんとふたつ違いだ。だからどうしても気になってね。
現場で彼女の声が聞こえた。助けて、と。
刑事生活20年でわかったことがある。
怒り、憤怒、それらを捨てれば、人は幸福に生きられる。
他人に向けた憤怒は必ず、自分に返ってくる。
だから、すべて忘れて許すんだ」
クァク刑事の心からの忠告に、ゴヌクは言い返す。
「許す?自分の過ちにも気づかない奴らを許せと?」
「チェ・テソンさん、
わたしは彼女の言葉を聞き間違えた。助けてではなくて、止めて、だ。
どうか止めて、と。私の弟、大切なゴヌク、テソンという子を、必ず止めて、と」
権力者は大きな力を持ち、庶民はその力の前には無力だ。
刑事という職業は因果なもので、事件が起こることを止めることはできない。
クァク刑事は、自分の思いをゴヌクに語った。
店の奥で、ゴヌクのスタント仲間が笑っている。
「俺もいつか、あんな風に笑えますよね」
そう言って、ゴヌクは寂しそうに笑った。
テソンはひとり、ソニョンのメモを見つめている。
車でジェインの家の前まで行くと、ジェインと妹、その母親が歩いているのが見えた。
重そうな荷物を抱えたジェインの母と、楽しそうな姉妹。
「乗っていきませんか?」
テソンの申し出をジェインは迷惑そうに断るが、母がさっそく乗り込んでしまった。
結局家で、一緒に食卓を囲むことになる。
テソンがヘシンの息子だと知って、大喜びの母親。
ジェインは、苦虫をかみつぶしたような顔である。
しかし、テソンはなんだか楽しかった。
ゴヌクは、ジェインに会おうと家の近くまで来ていた。
ジェインは、テソンを通りまで送っていくところだ。
クァク刑事から電話がきて、ゴヌクは事件と無関係だったと知った。
ふと思い出したジェインは、ソニョンの死について、テソンに慰めの言葉をかける。
「あなたは悪くないわ。彼女だって、望んでいなかったはずよ。
あなたが苦しめば、ソニョンさんも安らかに眠れないわ。
彼女のことは知らないけれど、あなたが苦しんでいるのはわかる」
「苦しいさ……」
その様子を見ていたゴヌクは、思わず叫んでいた。
「黙れ!」
ジェインは慌ててゴヌクに駆け寄る。
「ゴヌク、急にどうしたのよ?」
「まだ懲りないのか?お前は何をした?」
「関係ないだろ?」
「お前のせいでひとりの女が死んだ。忘れたか?
次はムン・ジェインか?」
テソンは傷をえぐられ、ゴヌクを殴ってしまう。
ジェインは、向かって行こうとするゴヌクを止め、厳しく言った。
「目に見えない傷もあるの。
あなたとは違う形で彼だって苦しんでいるのよ、わからない?
苦しくて、叫んでいるの」
ゴヌクは、信じられない思いでいる。
「正気か?」
「謝って。悪いにはあなたよ。恋人が死んだのよ。ひどいわ、なにも知らないくせに」
「何も知らない?この俺が?」
「勝手なこと言わないで」
黙っていたテソンが言った。
「俺が悪いんだ」
「違うわ。ゴヌク、テソンさんを傷つけないで」
ジェインはテソンに寄り添った。
「ありがとう。……それと、ごちそうさま」
テソンは去って行った。
ジェインは、呆然と立っているゴヌクの横を黙ってすり抜けていく。
ゴヌクは、やりきれない思いで苛立ちながら走り出した。
誰にも、わかってもらえるはずがない。
その夜、ゴヌクはうなされて目が覚めた。
誰かが、女が、子どもの頃の自分の首を絞めている。
必死で抵抗していた自分……。
「あの子の死体は確認した?自分の目で?」
シン夫人は、キム秘書室長に確認していた。
「いいえ、報告を受けただけですので」
「もしあの子が生きているとしたら、危険だわ」
「なぜですか?手違いで養子にきただけです。考えすぎですよ」
それでも、シン夫人の懸念は去らなかった。
ジェインは、以前ゴヌクが眠っていた場所に、ふと座ってみた。
目を閉じて、壁に頭をもたせかけてみる。
と、そこへ当のゴヌクがやってきて、
親しげに彼女にもたれかかり、頭を預けてきた。
ついでにジェインの持っていたトマトジュースを取り上げて、全部飲んでしまう。
「この前はゴメン。
テソンさんは恋人をなくしたのに、あんな言い方するから……」
「わかった、もういい」
「言ってなかったけど、警察から連絡があったわ。
テソンさんの恋人とあんたは何の関係も無いそうよ。
わかってたけど、安心した……」
ゴヌクはたずねた。
「ジェイン、俺たちの関係は?」
ジェインは、少し間を置いて答えた。
「モネとはどう?」
「お前、ホン・テソンとは?」
ゴヌクの携帯に連絡が入って、彼は行ってしまった。
その後ろ姿を見て、ジェインはつぶやく。
「背が高いのね。
頭も小さいわ。
でも肩幅は広い。
素敵な後ろ姿ね。ゴヌク、わたしたちの関係って?」
テギュンは失脚しアメリカに。モネも留学する。
ヘシンの相手は、テラとテソンのみだ。
いまのところ、テラの持ち株の方がテソンよりも多い。
「ホン・テラか……」
ゴヌクは駐車場に急に現れて、テラを食事に誘う。
すると偶然、テラの夫が車から降りてきた。
妻を食事に誘おうと思ってのことだ。
なにしろ、冷たくケンカをしたばかりだったから。
「誰だい?」
「モネの恋人よ」
ゴヌクのことをそう説明したテラだが、後ろめたい気持ちでいっぱいだ。
「彼も一緒にどうだい?」
「もう帰るそうよ」
まさか、夫とゴヌクと同席しての食事など出来るはずもない。
テラの携帯が鳴った。
「……何ですって?」
ふらっと倒れそうになったテラを、とっさに支えるゴヌク。
その様子を見て、何かを感じる夫。
しかし、一瞬の違和感は、テラの発した凶事によって吹き飛ばされてしまった。
「テギュンが死んだ……」
泥酔して運転中に正面衝突。
同乗していた女性は無事。
あまりに突然の死だった。
「事故死など想定外です。驚きました」
「計画というものは思い通りにいかないものだ」
ゴヌクの復讐計画を助けていた青年は、
テギュンの裏切りによって死を選んだ兄の復讐を望んでいたのだった。
「彼の死を望まなかった?」
「法の裁きを受けさせたいと思っていました。
兄が自殺した直後は、死を望んだこともありましたが、一時的なことです。
シム・ゴヌクさんは?」
「俺は望んだ。ヘシングループすべての人間の死を願った。
幼い頃の俺は、彼らを激しく憎んだ。
でも今は、憎しみも刃もない。ただ、彼らに迫り来る不幸を見守るだけだ」
突然の不幸に、悲しみにくれるヘシンの家族。
父はテソンに、長男の役割を果たすよう叱咤する。
シン夫人は、錯乱し叫び出す。
「あなたのせいでテギュンは死んだのよ!」
テソンに「母さん」と呼ばれ、逆上したシン夫人は、口汚くテソンをののしる。
「私があんたの魂胆を必ずあばいてやるわ!ヘシンには指一本触れさせない!」
テギュンの死は、会長にも大きな打撃となっていた。
株取引の件をリークしたのは誰なのか?
必ず見つけ出して、息子と同じ目に合わせてやる!と、会長は憤怒したが、
衝撃に身体が弱っているのは確かだった。
テラは、孤独だった。
なぜ泣かないのか、弟に聞かれた。
自分が泣くわけにはいかない。
ここで弱みを見せて泣き濡れていたら、ヘシンは共倒れだ。
社員たちの生活が、自分の肩にはかかっている。
グループの長女として、責任がある。
弟には、わかってもらえなかった。
重荷を分かち合える人間はおらず、彼女は、孤独だった。
ゴヌクの視線から逃れるように、テラは離れへ行って、ひとり泣いた。
誰にも見られないところで、涙を流すしかなかった。
ゴヌクはそっと入っていき、声をかける。
「泣いていい」
テラは、立ち去ろうとしたが、ゴヌクに引き寄せられた。
「大丈夫だ、泣いていいよ」
彼の肩をかりて、涙を流す。
そっと背中を叩いてもらって、ただ、泣いた。
「大丈夫だ。俺を見て。
外に出たら、いつもの毅然としたホン常務に戻れ。できるね?」
ゴヌクの言葉にうなずく。
「わたしのそばにいて」
額に、目に、唇に、キスをする。
その様子を、弔電を届けに来ていたジェインと、
彼女を姿を見つけてついてきたモネが、見ていた。
(つづく)
その、なんだ。
いろいろ書きたいこともあるのですが、
まずは声を大にして言いたい。
あんたら、なんでそこでキスなんかな?
ゴヌガ!そこはおでこへのチューで留めておくべきだろ!
ここは情欲とは関係ないだろ!
愛は必ずチューに至るのかよ!
お前の手練手管はそこに帰結するのかよ!
チューばっかスンナ!
そういうことだから目撃されちゃうんですよ~。
そこでびっくりしたって無駄無駄無駄ァァァァですよ。
モネに見られたことより、ジェインに見られた方がショックだった?ゴヌク?
そんな気がするねぇ。
でもテラ姉さんには、同情しているっぽいゴヌク。
まず自殺したソニョンさんがいろいろ悪い、というのは大前提ですが、
遺書まがいのメモを残していた、と。
これが刑事の心象と合わせて、決定的な証拠になりましたね。
ひねくれ者だとわかっていてテソンを愛したはずのソニョンさんでしたが、
さすがに別の女を連れ込まれては、ショックだったんでしょうね……。
それにしたって、死んではいけない。
それも、ゴヌクが近づいたから、足を滑らした、手を離したから、落ちていった、みたいな
残った人間に最悪の負債を背負わせてはいけません。
復讐に燃えるゴヌクを止めなきゃだめだ、という使命感はなかったのか?
ゴヌクの悲劇は、幼い頃に受けられなかった愛情だけではなく、
この、姉からの愛情を受けられなかったことだと思います。
いっちばん肝心な時に、姉は男への愛情のために死んだ。
弟への愛情など、男への愛情とは比べものにはならなかった。
男への愛のために死に、弟への愛のために生きることを選ばなかったスニョン。
愛する家族を死に追いやったヘシン。
父母に続き姉までも……って気持ちかも知れないけど、どうかな~。
本当はさ、「恨み」じゃないんじゃね?
ゴヌクの「嫉妬」じゃね?って気がするんですよね。
父さん母さんが、無事に彼を迎えに来てくれていたら、
こんな復讐劇はあり得なかったでしょう。
再び、あふれんばかりの愛情を注いでくれる父母と一緒になれていたら……。
しかしそれはかなわなかった。
彼の行動の根底には、「満たされなかった愛情欲求」があると思いますね。
彼と成り代わったテソン自身も、非常に愛に飢えているんですけど、
スニョンの無償の愛が得られたのに、それを拒絶してしまった。
「彼女を守ってやれない……」というヘタレ全開の言い訳で。
スニョンは守ってもらいたかったんじゃなくて、
テソンを守ってあげたかっただけなんですけどね~。
男のくだらないプライドが邪魔をした面もあるし、
どうしても家族の愛情をあきらめきれなかったという面もある。
姉貴のありあまる愛情を受けていたくせに!という嫉妬、
自分の存在は、姉が死を思いとどまる理由にならなかった、という悔しさ、
そのうえ、今は心の拠り所としているジェインまで奴の肩を持つという裏切られた感。
もうゴヌク君爆発です。
こんなヘタレのために姉は死んだのかと思うと、怒りもひとしおですね。
ジェインが、「見えない傷もある。彼も苦しんでいる」というのは本当で、
ここでの彼女は平等だと思う。
ゴヌクの生い立ちまでは知らないからね。
「俺が何も知らないって?」とゴヌクは言いますが、
さすがにすべての秘密を明かすわけにはいかない葛藤。
全部話せば、ジェインも味方してくれるかもしれないんだけどねぇ。
まったく人生はうまくいかないことがいっぱいだよ。
思わず叫んじゃう。んがー!
マザコンのテソンとシスコンのゴヌクのケンカ……。
そういっちゃうと身も蓋もないですが、
おまえらもっとしゃんとせえよ!
テソンがもっとタフな子だったら、テラもあんなに孤独じゃなかったわけで。
まったく思春期をこじらした子は周りを巻き込んで不幸になっちゃいますね。
ジェインのお母さんのように、
教養はないかもしれないけど、がはは!と笑って生きられる明るい人が必要だったのにね。
それでも!
それでも翌日にはジェインを許すんだよな~、ゴヌクは。
自分がいろいろ内緒にしてるからしょうがない、とは思っているんでしょう。
本当にこのふたりの関係というのは、
絶妙なバランスで、すごく好きです。
なんだかんだいってジェインに甘えるゴヌクがかわいすぎる。
ふたりの馴れ合いシーンがやっぱり好きだ。なんですか、この足の長さは。
とうとうジェインも気付いたみたいですが、
ほんとに彼は背広姿が似合うのよ~。
背広というか、あの三つ揃えのベストを着込んでる時が一番かっこいいですね。
眼福眼福。
さて、予告映像の中で、キム秘書室長が不穏なセリフを吐いています。
「ご両親の死の真相を知りたくありませんか?」
なぬー?!
そんな秘密が隠されていたんですか?!
幼いゴヌクの首を絞めてたのはシン夫人っぽいしねぇ。
終盤が近づき、また新たな展開がありそうですね。
どうでもいいけど、うなされてるゴヌクがまたいいのだ。
運動神経の発達した人は、うなされていてもわりとよく動くのかしら。
私がよく見るうなされる人は、こんなにアクティブじゃないです。
うなされて起きる姿がまたよい。かわいそうだけど……。
シャンソンづけの日々が、来週で一息つきました。
赤と黒、歌を歌った後見て、昨日見終わりました。あらすじはまだ見終われてないピスコさんですので語ることはしません。
キム、ナムギルさんが絵になる素敵なドラマでした。音楽が素敵でCDをかいました。
善徳女王を又少しずつ始めから見始め、
チュンチュンの演技力の凄さを再認識しました。彼の立ち去る時の立ち姿が凄く上手いと、又改めててゆっくり見て行くと、このドラマの深さ、切なさ、不条理感、書ききれませんが、とにかく
素晴らしいの一言につきます。
舞台、無事終えられたのですね。
成功裡に幕を閉じられたと確信しておりますが、お疲れ様でした。
「赤と黒」ナムギルさんの素敵さに心奪われながらもいまだ視聴終わらずですが、
シンクロできる気分の時期を見計らって最後まで観たいと思っています。
確かに音楽も印象的ですね。
善徳女王は観れば観るほど発見がありそう。
チュンチュ役のスンホ君はまだ若いですが、すでに兵役を終えられて、
これから大活躍が期待される役者さんだそうです。
また素晴らしいドラマに出会えることを期待したいです。