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ヘッドホンの音場作りは科学であり妄想ではない

2020年11月19日 | ヘッドホン、音響関連
スピーカーについてはまた経験が浅いので、本稿はヘッドホンとカナル型イヤホンについて述べる

これからは中学レベルの教育タイムです

http://www.jibika.or.jp/citizens/daihyouteki2/img/mimi_disease_1.jpg
日本耳鼻咽喉科学会ホームページより引用

まず、人類では耳介、外耳道、鼓膜と聴覚神経を経由して、最後に生体パルス信号で脳に伝わり「音」として認識する、これは大前提
オーディオシステムと言えば、鼓膜はマイクのダイヤフラム、聴覚神経が周波数帯の振動を受信するセンサーとADC、脳はDSPで最終処理と補正を行う
そして、人類の聴覚システム2chステレオである、5.1chでも7.1chでもない

では、現実世界ではどうやって音場、つまり音の定位を感じるのか
答えも中学教育で習ったはず、タイミング(位相)です
耳介の複雑な形によって、違う方向と距離から来る音波は耳介に当たって違う方向に反射され
飛び距離が伸びた分鼓膜まで到達する時間はミリ秒単位の差が出ている
そして、脳が視覚感知によって学習した「認知モデル」によって、違う反射材と残響によって脳が感じた「距離感」が違う
だから遠い音、木の床材の音、大ホールの残響、森の中の遠い音
人類が実体験した経験から、音を聞いて「環境」を想定することができる
ここまでは人体の話

では、ヘッドホンとイヤホンではどうやって「音場感」をシミュレーションするのか
ヘッドホンとイヤホンはスピーカーと違って、耳の外か外耳道に装着しないと行けないことから
ここでヘッドホンとイヤホンは少し違う


SONY MDR-EX1000

イヤホンの場合

カナル型イヤホンは外耳道に装着するから、発生した音波は耳介に経由しないで直接に鼓膜に届く
その状態で「純粋な音」、例えばエーコエフェクト等を一切付けないMIDIの曲を流すと音場感は全くなくて単調な音に聞こえる
しかし、録音する時ダミーヘッドを使って耳介と外耳道を経由した音波を物理的に「シミュレーション」すれば
鼓膜が受け取ったイヤホンの音は「耳介と外耳道の位相影響を反映した音」となり、脳はしっかりとした「音場感」を感じる
それは、脳が音波成分を分析して帯域、位相の遅れ、波形の変化(歪み)等々を洗い出し、生体アルゴリズムで「所在環境の形」を構築する
これは決して妄想ではない、人体の構成であり科学的な根拠もある

この論理で言うと全てのイヤホンは同じ音響感、つまり録音の音場要素にほぼ占められているはず
実際はそうではなく、特にダイナミックドライバを使ったイヤホンは録音要素と関係なく「広い音場感」を作り出せる
SONY MDR-EX1000とSennheiser HD800は良い例

後述しますが、こうしたダイナミックドライバを搭載したイヤホンはダイヤフラムから鼓膜まで直接に届く音以外にも
ハウジング(筐体)からの反射、二次反射(残響)を利用して、音響学の設計により「疑似音場感」を構築することが可能


SHURE SE846

バランスドアーマチュア(BA)型イヤホンはその原理から、ハウジングで音の反射を作りだせることが難しく
例としてSHURE SE846では低域の導音管を用いたことで、低域の位相等を調整できる
もしくはネットワークという各BAドライバの担当帯域を調整する回路に
コンデンサーなどを実装することでで意図的にアナログ信号の位相を弄る


Sennheiser HD800

ヘッドホンの場合

ヘッドホンは密閉型、オープンエア型、耳介全体を圧迫しない大型ヘッドホンと強く圧力をかける小型ヘッドホンもあり
条件はそれぞれ違うため一概と言い難い
すくなくとも、耳介の影響はヘッドホンによるが、直接に鼓膜に届くイヤホンと比べると比較的に人体の耳の形の影響を受ける
ここで、前述したダミーヘッド録音は一定の効果を示すが、ヘッドホンの音場感はヘッドホンの筐体による反射も考慮しなければならない
ドライバのサイズ、ハウジングの材質の音の反射経路、空気の流れと逃し方など
きちんとしたメーカーなら音響学的な原理を基づいた設計になることが多い
例えば、Sennheiser HD800のような広大な音場作り
これは音響学による科学的な設計であり聞いた人の妄想なんかではない


SONY MDR-F1

科学は絶対論ではなく、科学的な方法を用いて真相に近づけることが大事

科学は絶対ではなく、常に常識が更新して行く
重要なのは、何ことも決めつけるではなく、
観察した結果である仮説を立てる、そしてその仮説を証明するために評価実験を行い
最後に実験の結果を数学、科学的に分析して結論を導き出す
音響学の評価は人間の聴覚に頼っているので
脳のリアルタイムMRIでも行わない限り、アンケート評価を頼るしかない場面も多い
それでも信憑性のあるアンケート設計と結果分析では、より信頼性のある結果が得られる
下にある参考文献[1]は正に良い例である
この例では、ヘッドホン(実験ではSONY MDR-F1を使用)では対照用のスピーカーよりも広い音場感を感じた被検者が多いと述べた
そして、多くの人は同じ傾向を共感し、アンケートで証言したことは
妄想と決めつける科学者はおそろく、一人もいないでしょう

参考文献:
[1] ヘッドホン再生における音場再生とは, 亀川 徹,JAS Journal, Vol.53, No.6, 2013


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