オータムリーフの部屋

残された人生で一番若い今日を生きる。

高齢者は自分の預金を下ろすことが許されない?

2018-01-20 | 社会
「高齢者は自由にお金を使えない?」というのは、もう常識になりつつある。頭脳明晰な77歳男性が、孫の大学入学金として使うために自分の預金を下ろそうとして、銀行員に疑念を抱かれ、警官までやってきて根掘り葉掘り尋問されたという。本人はとうとう怒り出してしまった。その話を聞いた時は、これだけオレオレ詐欺が横行しているのだから、犯罪に引っかからないようにするには仕方がない、日本の警察官ってなんて親切なんだろうと思っただけだった。銀行員から身分証証明書の提示を求められるのは当然、お金の使い道を根掘り葉掘り聞かれるのは煩わしいが、これも親切心からのこと、さすがに警察官に尋問されるのは行き過ぎだと思ったが、近くの郵便局で同じようにして犯罪を未然に防いだという話も聞いていたので、もうちょっと、スマ-トにできないものかとは思ったが、そのまま忘れてしまった。
しかし、今回自分の家族が銀行で1時間近く、同じように根掘り葉掘り聞かれて、高齢者サイドの迷惑はかなり甚だしいと思った次第である。
ことの発端は、義理の息子が独立して事務所を開設する祝い金として、本人たちに秘密で新札で100万円用意しようとしたのである。私自身は財布に入らないようなお金を持ち歩きたくなかったので、まだ若々しいと本人も私も勝手に思っていた夫に銀行で預金を下ろして新札を用意するように頼んだのである。今般の事情を知らない夫は何のためらいもなく、新札で受け取ろうと窓口に出向いたのである。
それから約1時間、本人の言っていることが事実かどうか確証を得るための事情聴取が始まった。
娘さんに事情を確認したいという。
娘は働いているうえに、秘密に用意しようとしているお金である。確認はできない。
奥さんに連絡して確認したいという。
奥さんはジムで運動中で電話には出ない。
それから、延々と質問され、見た目の善良さや穏やかさではかえって騙されているという確証を与えるばかりなのか、まるで放免してくれない。それでも怒り出さず、嫌な顔もせずに対応したらしいから、さすが普段から妻の尋問に耐えている夫の面目躍如と言うところか。(笑)
娘が週末訪問することを証明すればいいと思いついて、LINEの会話を銀行員に見せて、やっと無罪放免となったのである。
 
多くの金融機関で行われている引き出し制限
このような水際対策を最初に採用したのは静岡県のようだ。2013年12月より県内に本支店をおく全金融機関で、75歳以上の顧客が300万円以上の現金を引き出す場合は原則引き出しに応じず、利用使途を確認したうえで振込を勧める。顧客が振込を断った場合には、記名式の線引預金小切手の利用を促す。記名式の線引預金小切手であれば、支払先が明確になり、現金化までに数日を要するため、その間に口座を凍結すれば被害を防げるからだ。それでも顧客が現金での払出しを希望する場合には、銀行が警察に連絡する。
その後、この方式は徐々に全国の銀行に拡がっているが、引き下ろし限度額をはじめとする対応ルールも地方や銀行でバラバラであるらしい。何よりも引き出し制限の高齢者に対する周知が不徹底であることが混乱を招く原因であると思う。
 
自分の預金の引き下ろし制限が行われる法律的根拠は、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(平成二八年六月三日改正)にある。この法律によれば、「犯罪による収益が組織的な犯罪を助長するために使用される」ことが、「健全な経済活動に重大な悪影響を与える」ことから、「特定事業者」による顧客の本人特定事項の確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置を講ずることで、犯罪による収益の移転防止を図るものとされている。ここで問題となってくるのは「疑わしい取引」の定義。何を持って、その取引を疑わしいと判断したのか。認知症の疑いがあるなど一定の理由があれば納得いくものの、後見人が必要とされない高齢者に対して、一律に引き出し制限を行う行為が金融機関に法的に認められるものなのかどうか。一律に年齢基準で引き出しを禁止するのは年齢差別、高齢者差別行為にあたる可能性もある。
口座の引き出し制限は、最近はキャッシュカードの振り込み制限まで拡がっている。静岡銀行では2017年5月22日より70歳以上で、かつ過去1年ATMでキャッシュカードの振り込み実績のない客について、振り込み停止としている。同じく過去1~3年振り込み実績のない客に対し、振り込み限度額を10~30万以下にするという措置が多くの銀行で採用されている。
警察庁の報道発表「平成28年の特殊詐欺認知・検挙状況等」によると、高齢者(65歳以上)被害の特殊詐欺の件数は約1万1千件と特殊詐欺全体の8割を占めている。
 
一定の効果が上がっているらしい水際作戦を否定するつもりはないが、実行に移す前に、せめて広報活動を行って、高齢者が預金口座から現金を下ろす方法の標準化、手続きの詳細を顧客に送付するぐらいはやってほしいものだ。

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