オータムリーフの部屋

残された人生で一番若い今日を生きる。

超格差社会の新語ープア充

2013-12-08 | 社会

正規の職に就ける若者が減り、非正規労働が増えるなど深刻化する現代日本の「格差」。自身も極貧のアルバイト生活に甘んじた経験がある、芥川賞作家の中村文則さん(36)は、格差の拡大を「お金の価値を殺してしまうこと」と表現する。 (東京新聞 聞き手・林勝)
 十年ほど前まで、小説家を目指しながら、東京でフリーターをやっていた。当時も超就職氷河期。時給八百五十円のコンビニのアルバイトの面接に行くと、採用枠一人に応募が八人だった。僕がそこで働けたのは、たまたま大学時代にその経験があったから、という理由だった。
 バイトだけでは十分な生活が送れないので、一食二百円と決めていた。当然、コンビニの弁当は買えない。でもバイトの仕事となると、消費期限が来たらそれを廃棄しなければならない。「自分に買えないものを、お金をもらうために捨てていく」という矛盾にずいぶん悩まされた。当時の経験から、僕はお金の価値を考えるようになった。同じ一万円でも、年収の多い人と少ない人では、受け取ったときの喜びは全然違う。社会で格差が広がっているというが、それでより必要とする人にお金が回らなくなるのなら、せっかくのお金の価値を殺してしまっていることにならないか。 不景気になると、新入社員の採用が減るなど、若者にしわ寄せが来てしまう。こういう話をすると、「若者が仕事を選ぶからだ」と言われる。でも、二十代の貴重な時間を、自分のやりたい仕事のスキルアップに使いたいと思うのが、人間じゃないのか。「仕事がないから、我慢して何でもやれ」というのは、お金や力を持っている側の論理だ。
 一方で「プア充」という言葉が若者の間に広がっている。お金がなくても、それなりに充実した生活が送れればいいという言い分だ。しかし、それは本当に自分で導き出した結論なのか、問い掛けたい。誰かが意図的に投げ込んできたメッセージに同調し、「お金なんて価値はない」という意見が、拡散しているだけではないのかと。 「貧しくてもいい」という若者が増えるほど、社会は収束していく。そうすると今度は「社会は収束していい」という発想が出てくるのだろう。若者がそういう価値観にとらわれ、社会の中で行動せず、発言しようとしなくなれば、国を動かしている人にとっても、お金を持っている一部の人にとってもきっと都合が良い。いつの間にか、将来世代に負担させる国の借金は一千兆円を超えている。そうした現実から逃げたつもりになっても、実際には逃げ切れない。世の中はしつこいから。 若者が、自分のお金で成長につながる自己投資ができる社会であってほしい。この国を背負っていくのは結局は若者なのだから。僕は貧しかったときも、本を読むという比較的お金のかからない自己投資を欠かさなかった。それは、いまもずっと続けている。好きだからというのもあるけど、作家としてもっと成長したいので。

「ワーキング・プア」や「リア充」という言葉が生まれて久しいが、今度は「プア充」という新ワードが登場した。
「プア充」とは、高収入や出世を望まず、限られた収入の中で自分の生活を充実させている人のこと。宗教学者の島田裕巳氏が著書『プア充 -高収入は、要らない-』で提唱している。
たとえ正社員で働いていても昇給・出世するにはプライベートの時間を削り、身を粉にして働くことが求められる。また、出世したとしても仕事量が増えるばかりで、仕事がラクになるわけではない。ところが、周りを見渡せば100円ショップや格安ネット通販がそろっており、買い物には事欠かない。安い牛丼屋もファミレスもあるし、格安ワインや第3のビールで“宅飲み”することもできる。ならばあえて高収入を目指さず、年収300万円ほどでもプライベートを大切にしながら幸せに暮らそうではないか…というのがプア充の考え方だ。
プア充なんて言っても、正社員で会社勤めして年収300~400万は稼いでいるわけで貧しいと言える立場ではない。非正規雇用者は常にクビの不安におびえながら、深夜まで働いている。いつまで働けるかわからないような毎日で、充実した生活が送れるはずもない。

厚生労働省の所得再分配調査(調査時点2011年、3年ごとの調査)によると、世帯の平均当初所得は404万7千円で前回調査から9.1%も減少した。12月4日付の東京新聞が報じるところによると、とくに50万円未満の世帯数割合が約25%(前回23%)に達するなど、250万円未満の世帯数割合が前回に比べ、増加した。所得が低い世帯の増加などが影響し、不平等度を測るジニ係数は0.5536と過去最悪となった。
 所得の順に世帯数を均等に五つのグループに分け、全所得に占める割合を見てみると、最高所得グループの占有比率は、全所得の55・3%になった。 これに対し、最低所得グループは端数処理の関係で前回調査に続き0%。最高所得グループと最低所得グループの所得に占める割合の格差(倍率)は、前回に続き計算できない状況だ。当初所得での格差は、非正規労働問題の拡大や高齢化、単身世帯の増加を受け、拡大している。当初所得の格差が拡大したため、社会保障による所得再分配効果も過去最大になった。社会保障給付を加えた再分配所得のジニ係数は0・3791になり、改善度は31・5%になった。社会保障に比べ、税での格差改善は進んでいない。これは、高額所得者の所得税率が抑えられ、一方、一四年四月から消費税率の引き上げが予定されている。消費税率は低所得者に負担が重くなる逆進性があり、当初所得での格差がさらに広がると予想される。
 ジニ係数の範囲は0から1で値が0に近いほど格差が少ない状態であり、1に近いほど格差が大きい状態を意味する。値が0.4を超えてくると「社会騒乱多発の警戒ライン」突破とされるが、最高所得グループの所得でもって全所得の大半を占めるようになりつつある係数値0.5536の今の日本の状態こそ、「一握りの創造的な社員が多数の単純作業に携わる非正規労働者を引っ張って」いる、竹中氏が理想とした状態というわけだ。その状態が実現された今、私たちは幸せになったのだろうか。グローバル大企業の正社員であれば難なく手に入れることができる持ち家・海外旅行や高度な教育。大多数の「引っ張られる側の大衆」は、“プア充”という言葉で自分を慰めることになる。さらに安っぽいナショナリズムで「同じ日本人」なんていう一体感で洗脳されたら、プア層は富裕層を守るために命まで差し出す事態になりかねない。

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