オータムリーフの部屋

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揺らぐアメリカはどこへ―NHKスペシャル

2016-11-07 | 国際

今回のアメリカ大統領選は史上最悪のトランプ氏が支持を集めている。
反民主主義的、差別的、政策のないトランプ氏が熱狂的に支持されている不思議。そこにはアメリカの中産階級の崩壊、超格差社会による白人労働者の困窮がある。
大越キャスターが各地を取材した。
経済の規制緩和、グローバル企業の巨大化により、格差が拡大すると、かつての中間層が貧困層に転落し、富裕層が政治を動かす。少数の特権階級に有利な政策だけが採用され、民主主義が機能しなくなる。大多数の貧困層の不満や怒りは弱者(移民など)へ向かい、差別主義が横行する。
トランプ氏の過激な言動は白人労働者を代弁していると見なされ、共感を得る反面、クリントン氏は「特権階級の代弁者」と見なされる。

オバマ氏が訴えた「change」という言葉は結局何も変化しないで終わった。
オハイオ州ヤングタウンは伝統的に民主党優勢の州だが、今回は共和党支持者が急増している。

かつては鉄の産地として栄えていた白人労働者の多い地域だが、グローバル化により安い輸入品が中国から入り、工場は閉鎖された。工場で働いていた60代の白人男性は仕事に誇りを持っていたが、工場が閉鎖されると、生活が苦しくなり妻とも離婚、3人の子供は故郷を離れた。グローバル化により仕事だけでなく、生活の全てを失われたという彼の絶望感は悲壮だ。
「仕事ってのはお金を稼ぐだけのものじゃないんだ。家族を養い、友情を育み、困っている人を助けるためのものなんだ。私はみんなが幸せになるよう祈っていたのに」
リーマンショック前と比べると、アメリカの製造業の労働者のうち1/3が失業した。所得の上位1%の平均所得は残り90%の平均所得の3倍になる。ヤングタウンでは、失業者の増加に伴い麻薬使用者も増えている。検死のための遺体収容所では、1日7人以上収容することもあるという。検死官は「働きはじめてからこんなひどい状態は初めてだ。この町には絶望感が漂っている」と言う。

 工場労働者の男性の妹の夫は失業後、アル中になり亡くなった。彼女自身も幻聴に悩まされている。

「中間層はもういない、今は富裕層と貧困層しか存在しない。アメリカにはchangeが必要だ。失うものは何もない。トランプなら昔のよき時代を取り戻してくれる」


トランプ陣営は、有権者の詳細なデータ、住所、家族構成、過去の投票行動などを分析し、敢えて投票に行ったことがあまりない層を狙った。生活が苦しい人が多く、格差を無くすというトランプ氏の主張に共感してくれるという。政治に無関心だった貧困層を洗脳して取りこむ、そんな戦略だったのかもしれない。

 一方、トランプ氏の対立候補であるクリントン氏は若者にも貧困層にも支持されていない。

トランプ氏は「特権階級の資本主義」と呼び、クリントン氏をその象徴としている。
 確かに、クリントン氏の応援演説をしているのは著名な資産家のウォーレン・バフェット氏など富裕層だ。e-mail問題もあり、「信用できない」というイメージが付きまとう。

 一方、そのクリントン氏と民主党内で争ったサンダース氏は若者に人気があった。

「お金を持っていない人でも、よい教育を受けることができる。それが格差を縮める」という主張が支持された。イリノイ州シカゴ、サンダース氏の支持が多かった町だ。若者たちが集まり、学費高騰へ抗議する集会が開かれた。クリントン氏は学校の授業料を下げるなどの政策を打ち出しているが、若者には信用されていない。「クリントンは若者の意見を代弁していない。クリントンは将来を大胆には変えられない」
 リーマンショックのあと、高学歴者でも低所得の仕事にしか就けないケースが増えている。名門大学に進学しながら、親が職を失い、授業料を払えなくなり大学を中退した男性は、仕事を掛け持ちし、生活費を切り詰めるため親戚の家を転々としながら暮らしている。
 「借金すれば大学を卒業できるけど、借金だらけの人生になる。それでは社会の階段を上っていけない。こうして特権階級のシステムは巧妙に俺たちを押さえつけるんだ。」
 若者の間には、今のシステムではどう頑張っても上には上がれない、チャンスすら回ってこないという絶望感が広がっている。「アメリカンドリームなんて、愛国者に仕立てあげるためのプロパガンダに過ぎない。何年も何も変わっていない、むしろ悪くなっている」
 大統領候補者同士の討論会の日、若者たちが集会を開いた。司会はコメディアン。どうせ変わらない政治なら笑いにしてやろう。
 クリントン氏とトランプ氏の討論会では若者の未来についてはほんの少ししか触れられていなかった。
 「保育園を増やし借金しなくても大学に行けるようにしましょう」(クリントン氏)
 「どうせ二人は俺たちのことなんか真剣に考えていない。いい余興だったよ」(若者)
 
 サンダース支持層もトランプ支持層も「ビッグマネーによる民主主義の崩壊」に危機感を持ち、「資本主義はエリートのためたけのもの」と主張している。これからは「保守」対「リベラル」とか「小さな政府」対「大きな政府」ではなく、「反特権階級」という軸ができるのかもしれない。

 しかし、今のシステムでは生活を変えられないという不満は移民排除に向かう。イギリスのEU離脱でもそうだった。移民を排除すれば、自分達の生活がよくなると思っている。

 確かにオバマ氏が移民寛容政策をとった結果、メキシコ移民が増えた。しかし、移民が増えなければ、企業は安い労働力を求めて海外に工場をつくる。産業の空洞化が進むばかりだ。新自由主義で経済の発展を願う限り、産業を国内にとどめておこうと考える限り、安い労働力として移民を受け入れるしかない。国民の貧困化、超格差社会を受け入れるしかない。

「私たちの税金の5分の1が移民に使われているのは納得行かない。白人の子供が逆に差別されている現実がある。移民はアメリカのお荷物だ」トランプ氏支持者が言う。トランプ氏の発言に刺激され、白人至上主義者がヒスパニック人に暴行を働く事件も起きた。トランプ氏が「メキシコ人は犯罪者」という演説をしたあとに起きたという。

 排外的な考え方は、アメリカだけでなく世界に広まっている。世の中を変えようとする気すら沸いてこない絶望感は深刻だ。特権階級のための資本主義という不信感は深刻だ。民主主義では世の中を変えられないという無力感は深刻だ。
 「貧困になるのは努力していないからだ。」という意見や「格差が広がっても優秀な人間が活躍する方が社会全体は良くなる」と考える人も多い。

 日本の高度成長期、一億総中流という意識を皆が持っていた時代が一番安定し、国民も希望に燃えて勤労意欲も高まった時代だったと思う。グロ-バル企業が国を訴えて莫大な賠償金を奪う世の中だ。歴史の歯車は逆回転しない。巨大企業国家が実際の国家を破たんさせてしまう時代がやってくる。誰もそれを止めることができないのだろうか?


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