レポートの表現がすごい。「飴と鞭を持って、棍棒を持って穏やかに話する術、外圧の行使を躊躇すべきではない。」日本市場を開放してアメリカと一体化させる意図はそのときから既にあったのだ。小泉内閣の構造改革はアメリカのこの方針に忠実に従うものだった。核の傘ならぬ経済の傘と言う表現がされている。「国際法上かなり問題のある条項を短期的個別的な貿易問題に限定してしまうと、日本は猛反対する。そうさせないために包括的な長期取り決めを締結し日本の歴史的遺産を守ろうとする日本の姿勢をそらすことができる」と実に明快に書いてある。「交渉のトピックは医薬品、会計基準、小売流通、税制、投資、政府調達、専門家の認定制度、試験制度などの国内規制が含まれることになる。」この戦略を受け入れさせるためには「日本企業をたたくのではなく、広範囲な企業、労働組合、消費者、環境保護団体を取り込む必要がある。特に規制を行う官僚に対しては政治家のトップが直接的に関与する体制を構築して強く当たるべきである」と内政干渉に当たる戦略まで考えている。「東京に対して、この構想を真剣に実施しないと安全保障上の代価が大きいことを理解させ、同時にオセアニア、シンガポール、韓国との間で構想を実施すべきである。これらの国と構想を実現していけば日本も参加するようになるだろう」とレポートは告げる。表向きは共和党が発議したものとされるがロックフェラーが共同議長を勤めている。アメリカの金融資本の戦略なのである。そして小泉内閣がこの通りのことを実践して大成功?を収めたのである。
ここまで読むと、こういう長年のアメリカの経済戦略がTPPと言う形に結実し、日本はアメリカの思惑通りその手中に落ちたと言わざるを得ない。
アメリカの最大の目的は投資と医療、保険の分野だろう。
投資については「海外からの対日投資の促進、外国企業が日本経済に実質的影響を与えるために会社法の改正を行う、国内外の投資を容易にし、M&Aを行いにくくしている規制を取り除く」と2002年「日米投資イニシアティブ報告書」で明確に記述されている。韓国は1998年外資の100%出資を認める規制緩和を行い、敵対的M&Aを自由化した。1992―2002年の間に日本政府も19項目の外資規制緩和を行った。
医療では外資参入を実現させるべく、混合診療の解禁を既に2004年に求めている。患者の中にも混合診療解禁を求める声がある。混合診療を認めれば、保険外の高額診療を受けつつ、保険内で行える診療も同時に受けることができる。患者のメリットは大きいように見える。しかし、混合診療のシステムを作ってしまうと、今でも財政が逼迫している日本の保険制度ではどんどん保険外の診療が増えていき、今なら当たり前の保険診療も保険外高額診療となる可能性が大きい。アメリカでは病気になると、全財産を失ってしまう例は決して少なくない。現在、富裕層は高額診療を保険外で受けることができる。これを一般にまで拡大する混合診療は金の切れ目が命の切れ目と言う状態を拡大することになる。
アメリカからすれば、高額の認可されていない新薬を自己負担で使いやすくなる混合診療を認めさせれば、米国製の薬が日本で売れる。それが当面の狙いだ。
米国の医療費は一人当たり60万、日本は31万で、WHOの医療制度に対する評価は日本が1位、アメリカは15位である。
日本の医療システムを健康保険後進国のアメリカ並みのシステムに変容させようとするアメリカの狙いに日本の官僚は屈しようとしている。
そして実に、神戸に医療特区を設けて、ベクテルという巨大コングロマリットが都市再生プロジェクトを進めていると言う。
保険も外資系が参入してきて、日本の保険会社が苦しい闘いを強いられているのは周知の事実だ。製造業の空洞化と言う言葉が定着して久しいが、外資系の参入に日本人は鈍感に見える。外資系は土足で乱入、日本政府に規制緩和を迫り、効率優先、利潤追求のスタンスで日本社会そのものを変容させていく。
USTRの報告書によると「日本に参入するのは米国保険会社の権利であり、第3分野(がん、医療、傷害保険)を外資に提供し、日本大手の参入を阻止するのが日本政府の任務であり、そうした流れを作ったうえで新種の自動車保険などを米国の会社に提供すべきである。」
これは規制緩和どころではない。自国の企業の業態の拡張を妨害してまで米国企業を参入させる日本の政治指導者は売国奴でしかない。こうした背景があって、日本の第3分野の保険は完全に外資系に席巻されているのである。
アメリカの究極の目的は日本の医療と保険の巨大市場であることは明白だ。