(添付写真は、側弯症の状態を観察する目的で行われる側屈 Bendingベンディング
のレントゲン写真です)
この記事は2001年と2007年に専門誌(SPINE)に掲載された文献をもとに
記述しています。Step by stepのなかで、私august03は特発性側弯症の治療方針の基本は「装具療法」ということを中心に書き進めてきています。その基本は変わることはありません。しかし、いろいろと文献を読みますと、装具の効果が女子と
男子では「差」がある。という発表があることから、ここに参考として掲載したい
と思います。
専門誌 Spine. 2001 Sep
タイトル Effectiveness of bracing in male patients with idiopathic
scoliosis.
思春期特発性側弯症の男子患者における装具の効果
研究デザイン :臨床結果のレビュー
目的 :思春期特発性側弯症の男子に対する装具療法の効果を評価し、その結果を
女子の効果と比較すること。
背景 : これまでにも男子における装具効果の調査はあったが、患者数が少なく
また装具に特化した研究はなかった。
方法 : 装具療法を指示された10歳以上の患者112名を経過観察した。
コブ角とリッサーサインはレントゲン写真にて計測した。装具の開始と終了時期、
そして最終観察を記録した。装具療法中にコブ角が6度以上進行した場合を「進行」と定義した。50度以上に進行した場合を「手術を必要」と定義した。装具開始時の平均年齢は13.9歳。66%でリッサーサインはゼロであった。装具期間の平均は3.1年開始時のカーブ平均は33.1度であった。装具終了後の平均1.2年間は観察を継続した
結果 : 74%の患者で、6度以上の進行が見られた。46%は「手術を要する進行」に
まだ至った。カーブ進行は、リッサーサインの程度の相関があったが、年齢や
カーブの大きさとは相関していなかった。手術を要するまでの進行は、リッサー
サインの未成熟段階と発見時のカーブの大きさと相関していた。30度以上のカーブの患者の 50%が手術を必要とした。装具着用のコンプライアンスはわずか38%であった。
結論 : 特発性側弯症の男子に対する装具療法は効果的とはいえない。30度を超えるカーブの場合は手術を必要とするまでに進行しやすい。特にリッサーサインの未成熟な患者でその傾向が強かった。
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専門誌 : Eur Spine J. 2007 Mar
タイトル: Results of brace treatment of adolescent idiopathic scoliosis in
boys compared with girls: a retrospective study of 102 patients treated
with the Boston brace. 思春期特発性側弯症の男子に対する装具療法の結果を
女子の結果と比較 : 102名の患者に対する治療
この研究の目的は男子患者に対する装具効果と、その男子の年齢やカーブ等に
マッチした女子患者における装具効果とを比較することである。1987年から1995年における51名の連続した男子患者をボストンブレースで治療した。患者には一日23時間の装着が指導された。コブ角とリッサーサインを装着前、装着期間中、装着終了後のそれぞれで計測した。これら51名の男子患者と年齢、コブ角、リッサーサイン、装具期間等々においてマッチした女子患者を選択し、その結果を比較した。
14名は夜間のみ、あるいはときおりにしか装着しておらず、これらの患者はコンプライアンス不可と判定した。この調査では、コンプライアンスが良好で装具を1年以上装着し、また装具終了後も1年間観察できた場合のみを調査対象とした。
51名のうち、33名のみがこの条件に合致した。
もし5度以上の進行があったり、手術となっていた場合は「装具効果なし」と判定
することとした。
最終観察時において、5度以上進行していたのは 男子では16/51(31.4%)、女子では11/51(21.6%)であった。コンプライアンスのある男子で5度以上進行していたのは6/33、女子では9/33であった。男子と女子とを比較すると、男子のほうが効果は不良であった。この要因のひとつとしては、男子の場合は装具装着をきちんと守るというコンプライアンスに欠けていることが考えられた。
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(august03より)
これらの文献によりますと、装具の効果が男子のほうが女子に比べて劣ることの
原因としては、
1. 装着時間を遵守しない傾向が高い
2. 女子に比べて 脊柱が硬く (Bending testの写真参照) 装具による戻りの
効果が弱い
というようなことが述べられています。
これらの報告から男子に装具が利かないと結論するのは早計すぎます。
特に、装着を遵守しないことが進行を停められない原因になっていることは大きな
要因として考えられます。
思春期の女子の場合も、装具装着を嫌がる話はしばしば耳にしますが、その傾向は男子の場合のほうが強いのかもしれません。
もちろん、装具装着で完全に矯正ができるという保証もないわけですから、患者さん自身にとっも、ご両親にとってもどうすることが良いのか? と悩まれることに
なります。
いまという時代を生きる「10代の男子」がどういう選択をするのか、私にはわかりませんが、装具を選択するにしても、最初から手術を選択するにしても、ご両親が暖かく見守って支えてあげることが、そのこどもたちの成長には欠かせない大きな愛情だと思います。
小学生のころより定期検診を続け、14歳を目前にした昨年の夏、34度で装具生活を始めました。毎日休むことなく、ほぼ24時間着けていたにもかかわらず、半年後の検診では進行していました。
身長も4センチ伸び装具も見るからに小さく、半年で作り替えです。それでも装具効果は50%、男の子は長くかかると言われています。
本人にとって心身ともに大変な装具生活に、この先意味がある事を願ってやみません。