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田中悟の片道旅団

大阪で芝居と弾き語りをしています。

あのときの神様 3

2011年04月18日 | 日記
歩道橋の上で音楽プロデューサーを名乗るおじさんと遭遇してから、あっと言う間に春が過ぎ、夏もそろそろ終わりに近づいたある日のこと。僕は川沿いにある人気のない公園のベンチに腰掛け、ギターをポロンと弾きながら、相変わらずボソボソと歌を歌っていた。

公園に場所を移しての路上ライブ?

いいえ、練習です。何の練習かって?ライブの練習っすよ。と言うことは路上からライブハウスへと活動拠点を移したのか?いいえ、違います。これから例のコンテストに出場するのです。

はい、僕はきっちりとコンテストに応募していたのだった。そして、おじさんとの確約どおりテープ審査をすっ飛ばして予選ライブに出ることになったのである。

「う~ん、緊張する。」

あの路上ライブから数ヶ月。一度も人前で歌っていないし、たいして練習もしていない。ぶっつけ本番のライブ当日、会場に向かう途中で立ち寄った公園での練習だった。

「しかし、ほんまにコンテスト開催されてたんやな。俺みたいな非経験者にまで声を掛けるってことは、よっぽど人が集まってないんやろな。第1回目って書いてたし。」

練習に集中出来ずに、ついよそ事を考えてしまう。

「でもラッキーやんな。一念発起して生まれて初めて路上ライブをして、一曲歌っただけでコンテストに誘って貰えてんから・・うん、これは物凄い幸運なことやで。もしかして、これは神様がくれた奇跡かも知れんへんな。」

なんてことも考えたりして。

「あかん!・・・集中出来へん。そもそも上手に弾き語りが出来へん!もうええわ!」

半ば投げ出す様に練習を終わらせると、僕はギターを担いで自転車にまたがりコンテスト会場に向かった。

とある商店街の中にある小さな集会場。そこがコンテスト会場だった。
「え、こんなとこでやるの?」少々肩透かしではあったが、内心ほっとしている自分がいた。大きな会場で本格的にやられたら、それこそびびって何も出来ないだろうし。
会場は他にも数箇所あって、予選は複数日に渡って行われていた。実は結構大きな催しだったのである。僕が行った会場にも20組以上の出場者が終結していた。
「誰を見ても、自分より上手そうに見えてしまう・・・」とゆう、ありがちな不安はまったくなく、そのかわりに「ここにいる全員が絶対に自分よりも上手いに違いない。」とゆう確固たるネガティブな自信だけがあった。

流れ作業の様な音響チェックを終えると、いよいよ予選ライブのスタート。ステージ裏が狭くて出演者全員がスタンバイ出来ないので、前半は客席にて人のライブを鑑賞。1人終え、2人終え、徐々に自分の順番が近づいて来る。
ほどなくして僕は客席からステージ裏へと移動した。緊張の針が大きく触れ始める。

「う~ん、嫌だ。無理。帰りたいよ~帰りたい。帰って温かい布団で眠りたい。」

でも僕は舞台人だ。そこに舞台がある限り、後戻りはしないONE WAY TRIPなのである。


つづく。
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