ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

テオドール・シュトルム【みずうみ・人形つかい】

2013-05-06 | 角川書店

1968年の本です。
古い角川文庫。
角川の文庫を読んだのは偶然です。古本屋さんで105円だったので。
この本には、『みずうみ』のほかに『人形つかい』と『うずしお』が収められています。

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 みずうみ・人形つかい

 著者:シュトルム
 訳者:国松 孝二
 発行:角川書店
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湖をながめるひとりの老人の視線の先には睡蓮の花。
その花影は、幼い恋が成就せぬまま終わり、想いはそれぞれの胸の奥に沈めていくよりほかなく過ぎた日を思いださせるのです。
老人の語られぬ思いとして描かれるのは、時と成り行きに流されていく幼馴染のラインハルトとエリーザベットの姿。
とても短い作品ですが、その短さとはがゆさゆえに美しく記憶に残る物語です。

『みずうみ』というこの物語を初めて読んだのは小学校の頃だと思います。
少女向けの世界文学全集。濃い色の芝桜のような表紙でした。
けれど、こどもの頃に読んだからといっても、読んだことにはならない作品というものがあるわけです。
これはまさにそういう作品でした。
ふたりの恋が終わった理由はただ時の流れだけではなかったことを知るにも、なぜこの物語が消え去らず愛され続けているのかを思うのも、小学生のワタクシには無理というものです。
他にもこの『みずうみ』のようにせつない感じの物語が多く入っていた記憶がありますから。
もしかしたら、こうやって記憶をたどって再読するためにこども時代に読む文学全集があるのかもしれませんね。

今回は角川文庫で読みましたが、手に入りやすいのは岩波文庫の『みずうみ』だろうと思います。
訳者も別の方です。
余談ですが、角川文庫を手にするたび、一番後ろにある『角川文庫発刊に際して』という文章を読んでしまいます。
『第二次世界大戦の敗北は、軍事力の敗北であった以上に、私たちの若い文化力の敗北であった。』という一文から始まる、角川書店創業者・角川源義氏が書いた1949年の文章。
あまりのインパクトに、他の文庫にもついているはずのこういった文章が思いだすことができません。
角川源義氏、「角川天皇」と呼ばれた逸話などもある方ですね。
評伝を読んだらおもしろそうです。




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2 コメント

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みずうみ (風竜胆)
2013-05-21 07:34:02
私は岩波文庫版で読みましたが、角川でも出ていたんですね。
確かに、小学生には難しいでしょうねw
返信する
風竜胆さん、コメントありがとうございます。 (きし)
2013-05-22 23:43:16
小学生にはねぇ…。でも確かに小学生の時だったと思うのです。たぶん「三色すみれ」と一緒に。
岩波文庫では再版され続けているのですよね。角川文庫はもうしょっぱいような色あいです。

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