ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

サラ・スチュアート・テイラー【死者の館に】

2010-11-06 | 東京創元社
 
ひさしぶりに書評コミュニティ 「本が好き!」でいただいた本。
死とその象徴にまつわる芸術史を研究する学者スウィーニーが事件の真相に迫るシリーズ。
 
【死者の館に】clickでAmazonへ。
 死者の館に

 著者:サラ・スチュアート・テイラー
 発行:東京創元社
 Amazonで書評を読む


墓石という生と死のモニュメントがクローズアップされていた第1作目『狡猾なる死神よ』。
主人公のスウィーニーが研究していること自体が物珍しく、かなり興味深く読んだ作品だった。
この第2作では服喪のための装飾品、モーニングジュエリーが取り上げられている。
遺髪を編み込んだ首飾りや、遺髪を収めたブローチ。
遺体を損なわず切り離すことのできる髪が亡き人を忍ぶよすがとされたことはとても自然なことのように思うが、それがアクセサリーという人目に触れるもの、むしろ人目に触れさせるためのものになり、そういったものにも流行り廃りがあったと思うと、多少複雑な気分になる。
人を弔うこと、死にまつわるおおよそすべては生きて遺される人たちのためにあるのだ。

物語にちりばめられた、墓地、墓石や死をモチーフにした芸術、そういったものについての説明や登場人物たちの言葉を読み、その変転や、洋の東西の違いなどを思うことがこのシリーズの私にとっての面白さだったが、2作目にして若干それは印象が薄れた。
1作目で主人公スウィーニーとその研究分野、このふたつ、それぞれの興味深さのお披露目が済んで、さあこれからという2作目では薀蓄よりも、このどうしようもなく「死」に惹きつけられている女性自身の行く末に重点が置かれたようだ。
絵に描いたように幸せとは言い難い子供時代を過ごし、成長してからは婚約者を悲惨な出来事で失っているスウィーニー。
両親が原因なのか、彼女に染みついてしまった愛情へのどことない不信感、婚約者を亡くした悲劇を乗り越え、彼女は誰かを人生のパートナーとして選ぶことができるのか、どうか。
今回のスウィーニーはシニカルでクール、悪く言えばどこか意固地でめんどくさい雰囲気を漂わせているのに、妙に惚れっぽい感じもあって、両極の間でふらついている感じがする。
もともと1作目から人を寄せつけない雰囲気と、人恋しげな風情を併せ持つ美貌の主人公。
それはそれで魅力的だが、この路線でシリーズが進むとしたら、毎回スウィーニーの前には事件がらみでちょっとイイ男が現れて、浅いか深いかはわからないけれど、ロマンスが生まれる展開になるのだろうか。
うーん。
 
と、そんなことを思ってしまうのは、今回の作品で取り上げあられたのが感覚としてわかりやすいジュエリーであったこと、そして犯人が想像しやすかったからだと思う。
わかりやすくはあったが、完結しない死が、時を経てさらなる死を呼んだ事件そのものはかなりせつない。
死者をきちんと葬ること、心の中できちんとその人を終わらせることができなかったゆえの苦しみが底にあるこの事件は、死が人に何をもたらすかを通底音とするこのシリーズにふさわしいと思える。
今作で登場したクイン刑事は、そのテーマをわかりやすく体現する人物になるのかもしれない。
次作にもぜひ登場してほしい人物。
スウィーニーの恋人候補になってもならなくても。






 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ロミ【完全版 突飛なるものの... | トップ | 鹿野政直【近代国家を構想し... »

コメントを投稿

東京創元社」カテゴリの最新記事