内容の予想が、私にはつかなかった。
行きなれない書店だったせいもあると思う。
手に取ってみれば帯にはこうあった。
『「博士の愛した数式」に連なる小川ワールドの真骨頂!』

貴婦人Aの蘇生
著者:小川 洋子
発行:朝日新聞社
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真骨頂。
それでは…と、レジに直行した。
『私』と年老いた伯母さんは、夫(『私』の伯父さん)が残した洋館の中、夥しい数の剥製に囲まれて住んでいる。
何よりも彼女を特徴づけるのは青い青い瞳。
そこだけは歳を重ねることがなかったかのように澄んだ瞳だ。
剥製に目をつけてやってきたブローカーが、伯母さんと『私』の静かな生活を一変させる。
伯母さんは変わらないが、その周辺はにわかに騒がしくなる。
伯母さんはあらゆるもの、夫の残した剥製にも刺繍を入れつづける。
飾り文字「A」の縫い取り。
「私はただ主人のそばにいたいだけなんです。ですから自分の本当の名前を一針ずつ、形見に刺繍してゆくのです。」
自分の本当の名前。
貴婦人A。
ロマノフ王朝の皇女アナスタシア。
「蘇生」という意味を持つ名前。
ここで、彼女が本物のアナスタシアであるのか、周囲は色めき立つ。
静かであるのは当の彼女だけだ。
あからさまな悪意が感じられない優しい世界。
誰も否定しない。
だが、誰も信じてはいない。
死んで、剥製として姿を留める獣達に埋め尽くされた洋館の中にあって、伯母さんはただ自分自身であり続け、『私』はボーイフレンドのニコとふたりで伯母さんを見つめ続ける。
物語の終わりに『完結した』という実感はない。
だた、静かな読後感が残る作品だった。
巻末の解説も良かった。
私自身は著者の作品はあまり読んでいない。
ベストセラー『博士の愛した数式』と『沈黙博物館』くらい。
『沈黙博物館』は好きな作品だ。
人の形見を、真の意味でその人の生きた証を集め、展示を続ける博物館。
果てしなく収蔵品を増やし続ける、その不気味さがたまらなかった。
とらえどころのない登場人物たちは、容易に同調することを許さない。
そのどこか冷えた印象が心に残っている。
本はついつい買いすぎてしまいますね~。あれもこれもと。お薦めがありましたら、ぜひ教えてくださいませ。
『沈黙博物館』。表紙の色はとても綺麗なのに、気持ち悪かったですね。(でも妙に好き)この作品のイメージが強かったので『博士~』が不思議なくらいでした。
カテゴリーは他に思いつかなかったんです。作品のジャンル分けが難しそうで
カテゴリーを出版社で分けているなんて、ホントに本がお好きなんですね。