名探偵の解答その35・平穏と言う名の泥沼を進めと

事務所を開設したばかりの新米探偵であるたかあきに、謎の紳士から『音の出ない愛憎』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に肩透かしのようです。

　新米探偵の辞書に依頼を断るという言葉は無い。と言う訳で事務所にやって来た紳士の、妻に対する讃美と不安と愚痴の入り混じった話を時間をかけて辛抱強く聞き出し依頼内容を確認した僕は、紳士の妻に対する退屈で何の変哲もない身上調査を始め、やはり退屈で何の変哲もない調査結果に纏め上げてから紳士に渡した。

名探偵の解答その34・太古の血脈と昔の因縁

食うや食わずの貧乏探偵であるたかあきに、謎の紳士から『割れた黄昏』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に残酷のようです。

　胡散臭い相手の依頼だったが仕事を選んでいられる立場ではなかったので引き受け、当然のように後悔する羽目に陥った。幾ら高額の報酬を約束されても黄昏時に獲物を物色する嘗て同僚だった吸血鬼の追跡調査など、どう考えても警官を辞めて野良犬になって久しい探偵が引き受けて良い仕事ではなかった。

骨董品に関する物語・初聖体拝領のリボン

　わたしが教会で初聖体拝領儀式を受ける時の為にと、母さんは白絹の太いリボンに刺繍を始めた。最初は何だか歪だったり染みで汚れたりしていたが母さんは諦めず何本も刺繍を重ね、とうとう儀式を受ける日にわたしが身に着けたのは、教会に集まった皆がため息を吐くほどに優雅なリボンだった。

名探偵の解答その33・ありがちな恋文

女性に大人気の探偵であるたかあきに、少女から『簡単な記録』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に平凡のようです。

　子どもの頃、仲の良かった女の子から開封済みの手紙を見せられた。所謂ラブレターだったが差出人が書いていないと言うので誰なのかを探すことにした。と言っても周囲にばれないようにするのは結構大変で、ようやく見つけ出した相手も手紙で名前を名乗らないような人は嫌いと女の子に振られていた。

名探偵の解答その32・何処かに在った何処にも無い場所

子供に大人気の探偵であるたかあきに、隣のおじさんから『奇麗な構図』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に難解のようです。

　子どもの頃から色々と世話になっている隣家のおじさんが、古い写真に写った景色が何処なのかを調べて欲しいと依頼してきた。死ぬ前にもう一度この綺麗な景色が見たいと言うので僅かな手がかりから見当をつけた場所を、おじさんは似ているが違う、あの景色の中の建物も樹も残っていないと寂しげだった。