リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

映画がヒットしたら誰が儲かるべきか~映画音楽使用料値上げ要求の波紋~

2017-11-11 | 一般
映画には監督,俳優その他多数の人が関わっており,著作権法でも「映画の著作物」として独特の規定がされている(ウィキペディア).まず,著作者となるのは「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」(16条)で映画監督などのことだが,著作物の利用を円滑にするため,たいていの場合「著作権」は映画製作者(映画会社やプロダクション)のものとなる.そして映画館における上映は上映権という著作権で保護されているという(22条の2).
映画がヒットした場合,その規模に応じて儲かるのは(劇場はもちろんだが)著作権を保有している映画製作者,ということになるのだと思う..
映画監督はどうなのか.ギャラを検索してみると,1本1000万~1500万円(ここ)とか,ハリウッドだったら3億円(ここ)とかの例がみつかるが,額の多寡は別として,ヒットの規模に応じて収入が増えるという仕組みではないように思える.
出演する俳優などはもちろん,どんなにヒットしようが収入には直結しない.

今回この話題を取り上げたのは,日本音楽著作権協会(JASRAC)が映画音楽の上映権使用料の値上げを求めているとの報道があったからだ(asahi.com).外国映画について,これまで「1本18万円」と定額だったのを興行収入の1%~2%にしたいと要求したが,映画業界は猛反発しているという.「上映権」を規定した著作権法上の条文(22条の2)は「著作者は、その著作物を公に上映する権利を専有する。」というものだ.映画そのものについては,著作権は上記のようにたいてい映画製作者に帰属する.JASRACの「上映権使用料」というのは,映画に使用された音楽についての「上映権」が,映画製作時の使用許諾とは別に残っているということらしい.
キネマ旬報映画総合研究所「映画における音楽著作権料」がJASRACの見解をまとめているが,「録音に関わる権利」と「上映に関わる権利」は区別されている.JASRACの音楽利用のための案内ページ(「劇場用映画の製作、上映」)でも(複雑で詳細はよくわからないが)「利用申込書」に(録音・上映)とあって,一方または両方に〇を付けて申し込む形になっている.

上映権の22条の2の「著作者は……権利を専有する」でいう「著作者の権利」というのが,映画製作者のもつ著作権のほかに音楽の著作者の権利までもカバーしているのかというのが問題の根本のようだ.上記のように映画の著作物の場合は多くの人が関与しているので,著作権はたいていの場合映画製作者に帰属する.だが,実はその根拠となる条文(29条1項)の規定は「映画の著作物……の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。」というもの.つまり,俳優や映画監督の権利は映画製作者に移ることになるが,その映画製作に参加して作った音楽以外については,音楽の著作者(作曲家・作詞家)の権利が映画の著作権とは別に残っているということなのだろう.逆に言えば,JASRACの上記案内ページにもあるように,「その映画のために新たに書下ろされた楽曲(委嘱曲)……のみの場合」は使用料が発生しない.つまり,JASRACが今回値上げを要求しているのは,その映画のために作った音楽の上映使用料ということではなく,既存曲を映画に使う場合のことなのだろう.報道では「アナ雪」のように大ヒットしても音楽の著作者に支払われるのは定額「18万円」という取り上げ方がされているが,「アナ雪」のヒットに貢献したと思われる主題歌の場合は「委嘱曲」なので,上映権の対象外ではないだろうか.
素人考えでは,映画制作時の「録音」に対する許諾と別に「上映」にも権利があるのは不思議な気がする.製作した映画は上映することが当然の前提となっていると思うのだがどうなのだろう.
難しい.上記のほかにも,日本と外国との格差,日本国内でも邦画と外国映画の格差などの問題もあるらしい.引き続き勉強して随時追記していこうと思う.

追記:「上映権使用料、どう決着? JASRAC「興収の1~2%」VS.映画界、上げ幅抑えた対案」(朝日新聞12月6日)の坂本龍一氏(作曲家),福井健策(著作権に詳しい弁護士)のコメントは双方の立場を端的に表している.


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