生活保護制度が骨抜きにされかねない

2006年01月16日 15時45分12秒 | memo
ところで土曜日には生活保護改革を考えるひょうごネットワークの会合があった。
いくつか、まだ発表するわけにはいかないが重要なテーマについて有意義な話し合いが行われたが、そのときに話し合われた情勢分析で、決して楽観できない(むしろ危機的な)生活保護制度の危機について認識を新たにした。前に「保護費を基礎年金なみに」という新聞記事について、あまりのでたらめさに、これは観測気球ではないか?という感想を書いたが、そんな甘いものではないのではないかと言われた。
というのも昨年11月30日付の「三位一体の改革について」という政府・与党の合意文書を読むと、「生活保護の適正化について、国は、関係者協議会において地方から提案があり、両者が一致した適正化方策について速やかに実施する」とある。では「地方」はどのような「提案」を行っているのかというとそれが「生活保護制度との基本と検討すべき課題-給付の適正化のための方策(提言)」という全国知事会・全国市長会の文書にあらわれている。
「検討すべき課題」の内容は逐一問題点を指摘することのできるものであるが、とりわけ「有期保護の創設」(「就労可能な被保護者については」「適用期間を限定し更新制とする」制度の創設)「資産処分方策」(リバースモゲージの義務化、従来保有を認める取り扱いをしていた居住用不動産の取り扱いの全面的変更といえる)などは、生活保護制度の根幹にかかわる法改正を要すると思われるが、そうなりかねない。年金担保貸付を繰り返すことの弊害についても述べられているが、「国の対策が不十分」と述べているのみ。問題と思うのならなぜ「廃止」を提言しないのか?繰り返し受給者にはヤミ金に食い物にされているケースが多く、そうでなくても治療を要するギャンブル依存症であるなどむしろ真の意味でのケースワークを必要とする場合が多いと感じているのだが、ここでは被保護者を死においやりかねないペナルティを課せられる危険も存在する。
そしてこれらの提言のひとつが「年金制度の均衡等」である。「老齢基礎年金額や一般低所得者層の収入額が生活保護基準額より低く、均衡が損なわれていることについて考慮する視点から、それぞれの制度の性格を踏まえながらも、適切な見直しを検討する必要がある」というものである。これを受けたと思われるのが、過日紹介した「毎日新聞」の記事ということになる。

憲法25条の位置づけを考えると、実はこれは最低生活保障を通じて人権保障に「神の見えざる手」をはたらかせようという機能にブレーキをかけるものであるともいえる。すなわち、13条に「個人の尊重」、24条に(とりわけ「両性の平等」の観点から)「個人の尊厳」への立脚を定めた憲法がつづいて25条で生存権、26条で教育権、27条で労働の権利を定めているという関係である。支配ー被支配関係から抜け出したとしても「生存」が保障されないなら、人は結局支配に甘んじなければならなくなり「個人の尊厳」「個人の尊重」は空文化してしまう。だからこそ、そのような関係から脱出して尊厳を希求する個人に対して国は積極的に生存の権利を保障し、教育と勤労を権利として保障するのである。

現実には、労働三法などどこへやら、雇用保険にすら加入しない雇用主、本来支払うべき社会保険料をけちるために労働者に国民年金と国民健康保険に加入させその保険料だけは立て替えて支給するという雇用主は珍しくない。最低賃金は保護基準を下回り、それすら脱法を図る雇用主があらわれ、「ワーキングプア」とよばれる労働者が増大している。
法は有効に機能しているのか?
一方で罰則を積極的に適用して「やり得」を許さないということも必要だろう。
それと同時にそういう脱法行為がわりに合わないというふうにしていかないといけない。脱法的雇用主のもとででも働かなければならない労働者が存在する以上「やり得」の構造に終わりが無い。もう一方で、違法不当な雇用関係(支配ー被支配関係)に甘んじなくても生活できるという保障があれば、この関係から人は抜け出すことができる。それが「ケタオチ飯場」が普遍化しつつある現状を変えていく途だろうと思う。
実施機関が被保護者に「稼働能力」の「活用」を求めるのは生活保護法4条の遵守を求めているということだろう。だが国のレベルで考えれば法を守れという要求をおしつけやすい方にだけ押し付ける、というのでは、法が体系的にそれ自体持っている人権規定貫徹の自動調整機能を損ねてしまうこととなる。
保護率はもっと上昇していなければならない。
そして国は被保護者が真の意味で(「勤労の権利」を真に生かすという意味での)「稼働能力を活用」できるような労働環境を創り上げる義務を放棄しておいて、被保護者を鞭打つことは許されない。

(追記)
日本テレビ系列「ドキュメント'06」で「生活保護は助けない」という番組が放送された。私も見させていただいた。この番組をきっかけに、いい方向に動いていかないかなあと思う。何せ「あり方専門委員会」は(これも十分なものとはいえないが)無かったことにされようとしているとしか思えない状況だから。
P-navi infoさんのエントリーをリンクしておきます。

最高裁判決の影響

2006年01月16日 14時21分57秒 | Weblog
最高裁判決の影響でサラ金ノンバンクの株価が下がっているという。
今日、同業者としゃべっていたのだが、
施行規則が違法無効と判断されたことによりサラ金ATMは改造を余儀なくされるだろうから、メーカーの株は「買い」ではないか?という。
また「灰色金利」是正要請へ 法律家団体が公取委にという報道も。
違法金利の広告も遠からず無くなるのではないか?というかなくしていかなければ。

「戦後左翼はなぜ解体したか-変革主体再生への展望を探る/寺岡衛・著・江藤正修・編」

2006年01月16日 13時59分37秒 | book
「戦後左翼はなぜ解体したか-変革主体再生への展望を探る/寺岡衛・著・江藤正修・編」
「迷える者へのガイド/ギルアド・アツモン」
「ソニー病/城島明彦ほか・著」

アマゾンで購入。

ちょうどアッテンボローさんのところ草加さんの「旗旗」等で論議されているような論議の役に立つかと思い購入してみたのが「戦後左翼はなぜ解体したか」という本。第4インターナショナル日本支部再建準備グループ(MELT)の立場からの総括。まえがきを読むと「『第4インターナショナル日本支部を切り口とした労働運動を含む戦後左翼全般の総括』という性格上、70年代の第4インターが心血を注いだ三里塚闘争と80年代初頭に直面した『組織内女性差別問題』には言及していない」とのこと。
「迷える者へのガイド」は2012年にイスラエルが消滅して以降の経緯を2052年から振り返るというSF(とは少しちがう?)。