Belle Epoque

美しい空間と、美しい時間

『海を呼びもどす』

2010-11-07 | rayonnage...hondana
遊びと学びを両立させている人が好き。
太陽の下でスポーツすることや他人との交流を愉しむ遊びの世界と、
独りでお気に入りの椅子に座ってコツコツ、という誰にも告げない密やかな充実のひと時、自らの内面を深め広げる学びの時間。
仕事のほかに、こういうまったく異なった世界それぞれを、スイッチしながら生活に作りだす人を、魅力的だと思う。

なぜ魅力的かというと、その人は進化するから。変化していくから。
自分に課した学習でもって新しいことを知り、新しい感動を得た人は、もはや知る前の「その人」ではありません。瞬間的に変化し続けることをずっと続けるなら、年月を経たその人はまったく別人に生まれ変わっている、といえるかもしれない。

ここで重要なのが学びだけでも遊びだけでもよろしくないこと。
「偏ってカチカチ」、あるいは「ダラダラ」になっていくので、両極端のバランスをきれいに持つのが良いみたい。
異なる世界を行ったり来たりする行為、が、より良い進化の燃料になる。


ひとは同じものとずっと付き合っていくのを好まない性分で、常に新しい刺激を脳に求めるものらしいです。
数年ごとに友人の顔ぶれがなんとなく変わっている、という現象が起きるのも、そのためでしょう。お互いに飽きてしまうと、または変化のスピードがお互いに合わなくなると、それ以上関係は続けられない。
別に悲しむことでもなく、自然なことであると思います。
「昔から変わらない友情」、とかいうのもありますが、それは、信頼を土台にしてお互いに刺激を感じつつも、実際に接する頻度がかなり低い間柄であったりする場合で、
適正またはそれ以上の距離が、相手に感じる刺激を増幅してくれているから、ではないでしょうか。

だから距離を適正に保つことが、良好な関係にとても役立ちます。
そして逆を言えば、毎日のようにずっと接している相手と、数十年にわたって密度高い関係を続けるのは、たいへんに難しいこと。
相手と密度高くずっと付き合っていきたいと思うなら、自分の進化のスピードを上げる心意気を一生涯なくしてはならない。それも、片方だけではなく双方が。


『階段を駆け上がる』を頂いたおかげで片岡作品再読に火が付いたこの頃、さらにShioさんにお薦め頂いた、『海を呼びもどす』を、そういう「変化」のスピードの物語として読み、とても新鮮でした。これはかなり以前の作品でしたが、未読でした。
年齢が若いほどに変化していく度合いは目まぐるしいから、10代最後の人間たちが主人公なことでさらにスピード感は増し、作品のムードそのままに、とてもフレッシュな気持ちで読了しました。
登場する3人の女性の対比がとても面白く、片岡氏もお好きだというデ・キリコの絵たちを、何度となく想起しました。
実際、登場人物のひとりに「霧子」さんがいるのは、何か遊びなのかな?とも思ってしまう。


(image)

主人公の青年は、“目的を持って、内面を、独り、強く変化させ続ける”敬子さんに惹かれていきます。
彼女は自分の勉強を秘密にしていて、仲良く語らいながらも、彼にはなんの具体的な情報もないのだけれど、確実に彼女が独りで学習し、進化している様子は、なぜだか佇まいから強く感じられて、彼は彼女から目が離せない。

進化というのは、内面のことであっても、外側に薫り立つもので、隠すことができない。
他人とのコミュニケーションのとき、アウトプットに知らず知らず出てしまうので、当然ではあるのだけど。

自分も進化しなくては、と主人公の彼は思う。
そう相手に思わせることが、魅力の強さ。
敬子さんの、「人と適正な距離を取りながらも関係は良好に保つ」、そして「自分の世界の充実を深め続ける」、という清々しい佇まいが、読んでいて素敵だと思いました。
お薦めくださったshioさんも、読まれた当時、影響を大きく受けられたそうですが、さらに実際にご自身の「進化」のきっかけになさったことも、ものすごく素敵だと思いました。まるでこの本の続きのような素晴らしさ。そして現在も、よく遊び、よく学び。そのエネルギーがいつもまぶしいです。

こうして、進化を楽しく絶え間なく続けていかれるお友達に出会えたことに感謝している一方で、自分も変化を怠ってはいけないわ、と発奮させられます。
人と、本と、すべての出会いを、進化につなげる心意気をいただきました。
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2 コメント

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御礼 (shio)
2010-11-08 17:20:02
miさま、おすすめした本をさっそくお読みいただき、またこのようなすてきな書評文をアップしてくださって、どうもありがとうございます。とても感激しています。

今回、miさまの「階段を駆け上がる」や「海を呼びもどす」の書評記事を拝読したり、片岡作品についていろいろおしゃべりさせていただいたことを通じて、読書が自分に与えてきた影響にしみじみと想いを馳せていました。

私自身はこの本を読んだのはもう約20年前、18、19歳のころです。
ストーリーの細かい流れや、霧子さんのことは、おすすめしておきながらすみません、もう覚えていないのですが、以前miさんにもお伝えしましたように、

『“目的を持って、内面を、独り、強く変化させ続ける”敬子さん』

に衝撃を受けました。

というのも、miさんと同じく私も中学高校通じて片岡さんの本を読みあさり、その登場人物の女性達に素朴に憧れていたのですが、彼女たちのしなやかな美しさ、清々しさはやはり虚飾や空想のたまものではなく(あのお洒落で都会的な部屋の間取り、とかは現実離れしすぎてるので、そう思いがちだったんですが^^)、努力や学習の継続に裏付けられた実体のあるものなんだ、ということを、敬子さんに突きつけられた気がしたのです。

ほんと、「よーし、がんばろう!」と思わせてくれた本でした(単純ですね^^)。

私のことももったいなさすぎるくらいほめていただき、ありがとうございます。
もっとも、私にそんなエネルギーがあるとしたら、それはmiさんのおかげさまなのです。
miさんのブログを読むと、語り口はとても柔らかく優しくあたたかいのに、読後はいつも禅寺で座禅を組んだかのようにきりりと爽快な気分になり、また頑張ろうと思わせていただけるのです。きっと私を含めて大勢のかたが励まされていることと思います。

私こそ、miさまや、miさまにご紹介いただいたたくさんのひとたち、教わった本、美術、語学、行ったことのない或いはなかった国や場所、そのほかたくさんのことやものとの出会いに、感謝の気持ちでいっぱいです。
いつもほんとうにどうもありがとうございます。

ところで、キリコについての指摘は興味深いです。もっとも、10代後半の私には、「キリコの絵」と言われても何のことやらさっぱりわからなかったでしょう。再読したくなりました。きっと年月を経て新たな発見や解釈があるのでしょうね。これも読書の楽しみですね。

またまたこってり長文になってしまいすみません。まだまだ書き足りないくらいなのですがこのあたりで、
感謝をこめて
しおこ
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Unknown (shioさま(mi))
2010-11-09 11:04:44
こちらこそ、素敵なコメントをありがとうございました。書評なんてとんでもない、感覚的な感想のみつらつらなのに、恐縮です~。
ご縁の広がりには、こちらこそ大感謝です!また、いつもあらゆる場面で細やかに支えて頂き、たくさんエネルギーをいただいているのはこちらの方です^^
そして、shioさんの燃料のひとつをこうしてご紹介いただき、あらためてパワーを分けて頂いた心地がいたしました。
高校時代でふっつりと読むのを途絶えさせていた片岡作品ですが、大人になってからこそ、さまざま得るものがあるなあと、この頃読み返していて感慨深いです。きっかけを与えてくださり、本当にありがとうございます。

この本を読んでさらに思うのは、巻末の解説にもありましたが、片岡さんは当時にして(当時だからこそ?)すでに、男性社会に挑む女性の強い味方だったんだなあということ。Shioさんはじめ、優秀な女性が社会で活躍することをすごく応援していらしたんですね。そして実際、その応援がみごとに届いている!そしてまた、幼稚な男尊女卑の精神をスマートに批判し、笑い飛ばしているやり方が、こういう一冊なのか、と知ると、なんて洒落てるんだろう!と幾重にも感動してしまいました。

キリコの絵については、お借りして挿入している作品『The Disquieting Muses』についてもまったく私が勝手に楽しんでいる連想・妄想なのですが、どんな断片からでも物語を引っ張ってくる片岡氏ですから、ちょっとはこちらにインスピレーションを得た可能性がありそう!と思って書きとめました。
この絵なんて特に、3人のシュールで特徴的な女性像が距離と光を違えて配置されていて、物語中の3人の女性にまつわるエピソードをそれぞれに感じてしまいました。描写がとても多いのに抽象的な片岡作品は、とても絵画的ですよね。

あと、この本の中でもうひとつ私が面白い!と思ったのは、敬子さんの父が娘に課した「禁止事項」の数々でした。禁止することによって、欲望の存在を浮き彫りにさせる。古典的ですが強力な手法ですよね。片岡作品には、他にも似たような生い立ちを持つ女性が多々登場しますし、きっとこのエピソードはどなたかの実話なのでしょうね。

あーこちらこそこってり書いちゃいました^^
また続きをこってり語り合いましょう!!!

こちらこそ感謝をこめて。mi
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