アモルの明窓浄几

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「芦屋市耐震改修促進計画(案)」に対する意見

2008年03月11日 | すまいのこと
芦屋市は、耐震診断及び耐震改修を促進するための施策を示した「芦屋市耐震改修促進計画」を策定しました。
新年度(平成20年度)からの施行を目指して居り、計画(案)がこの程発表されました。
市民からの意見を募集していましたので、良くご存知の方も居られると思います。
私も、応募締め切り日の本日(3/11)になって、意見書を提出しました。
それを当ブログにも掲載します。
尚、計画(案)は、芦屋市のhpから閲覧して下さい。

[意見書本文]
阪神淡路大震災を体験した私達は、被災者の自力再建には限界があり、 一度崩壊した地域のコミュニティは個人の努力のみでは容易に再生しないことを学びました。

居住の継続こそがコミュニティ形成の保障であり、震災直後のような経済的効率性や交通の利便性に主眼を置いた都市整備であったり、住居は自己資産であり自助努力は当然とすることを強調するあまり、自己責任諭等に振り回され、急ぐべき復興が大きく遅れました。
今日にあっても被災者向け等の住宅ローンの返済が重く、返済不能に陥って住居を売却する人々が後を絶たないという現実は、震災後の施策に問題があったということです。
耐震改修率が進まなかったのも、国が住宅再建に個人補償をしなかった結果であり、『住居は、公共性がある。』とする視点の欠如によるものです。

地震は自然現象ではありますが、震災の被害の多くは人災の側面があるため、人間の英知と技術と努力により、災害を未然に防止し、被害を最小限に食い止めることが可能です。
物理的な住宅の建設のみがコミュニティの継続性を保障するものではありませんが、芦屋市が近隣市町(註1)に先駆けて公益的建築物だけでなく、個人資産の住居に対しても従来の県の補助事業制度に上乗せする形での補助金制度を「芦屋市耐震改修促進計画(案)」(以下、計画(案)という。)に盛り込まれたことは、震災というハンディを背負った我々市民にとっては当然とは云え、震災体験の教訓に基づいたものと歓迎したいと思います。

以上の認識に基づき、当計画(案)について、幾つか意見を申し上げたいと思います。
一つ目は、市の基本的なスタンスについてです。
「4.住宅・建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための施策」の「(1)基本的な取り組み方針」(P.18)において、『建築物の耐震化は、それぞれの所有者等が地震防災対策を自らの問題として取り組むことが不可欠であり、市としては、既存民間建築物所有者等の取り組みを支援する観点から必要な施策を講じるとともに、自ら所有する建築物の耐震化を推進する。』とあります。
『…それぞれの所有者等が地震防災対策を自らの問題として取り組むことが不可欠であり、…』とするのは、自己の建物は個人資産であり自助努力は当然とする考えに基づくのではなく、市民として主体的、自立的に地域づくりに取り組む存在としての責任を持つ観点から、地震防災対策を自らの問題として取り組むと捉える事と考えたいと思います。
従って、後半の『…市としては、既存民間建築物所有者等の取り組みを支援する観点から必要な施策を講じるとともに、…耐震化を推進する。』とある部分は、支援する観点からではなく、『…市としては、健全な地域社会を持続的に形成してゆくために主権者である市民の建築物は公共性があるものと認識すると共に、災害を未然に防止し被害を最小限に食い止めるために必要な施策を講じ、建築物の耐震化を推進する。』としては如何でしょうか。
又は、そのような理念である文言に替えるのが適当かと思います。

二つ目は、現況の耐震化率についてです。
「3.住宅・建築物の耐震診断及び耐震改修の実施に関する現況と目標」(P.12~P.17)において、住宅及びその他の建築物の『現況耐震化率』には、「新耐震基準の建築物」が含まれています。
これは1981年(昭和56年)6月の建築基準法改正後の建築物を指し、それ以前の建築物(旧耐震基準建築物)と区別し、適法に建築されているものは一応安全と考えられることから、「耐震性あり」に分類されているものと思われます。
しかし、木造住宅を例にとりますと、2000年(平成12年)の建築基準法改正において、柱の仕口部の接合方法や壁配置の具体的規制基準が制定さたことにより、その間に建築された住宅については、その耐震性能に幅があるとする考えが専門家の間では周知の事とされています。
当計画(案)の「2.-(1)-②」(P.5)において、『将来に本市に大きな被害を及ぼす地震は、…直下地震…であると想定される。』との記述もあり、1981年の建築基準法改正後の建築物であっても仕口部の引き抜きの検討のされていないものは、必ずしも直下型地震に対しては安全であるといえません。
「新耐震基準の住宅」の内容の精査が必要です。現況耐震化率、言い換えると「地震危険住宅」戸数の見直しが必要ではないでしょうか。

三つ目は、簡易耐震診断の支援策についてです。
「4.-(2)-①」(P.18)において、簡易耐震診断推進事業を引き続き実施することが謳われています。大変結構なことですが、心配な側面もあります。
2000年から実施されていた「わが家の耐震診断推進事業」及び今日に至る「簡易耐震診断推進事業」において、一応安全と診断(木造住宅の場合の総合評点1.0以上)されたものは、兵庫県が実施している「わが家の耐震改修促進事業」の耐震改修工事費の補助が受けられないため、同事業の履行を条件とする当計画(案)の助成制度も受けることが出来ません。
当該簡易耐震診断は、専門家による調査、診断でありますが、上記で述べた事と同じく、柱と土台・梁との仕口部や筋違い端部の接合等の欠陥は、診断結果の評点に反映しない部分的欠陥として扱われています。
将来においても県周辺で起こり得ると想定されている直下型地震に対しては、総合評点が1.0以上であっても、中地震では機能を保持すること、大地震では崩壊からの人命の保護を図ることが求められている「新耐震基準」に適合するかは疑問です。
従って、直下型地震のあり得る地域的特長を考慮するならば、総合評点1.0程度の木造住宅を安易に補助対象から除くのは、問題があると思われます。
仕口部の検討を行い、必要に応じた金物補強等に対しては補助金を出すべきではないでしょうか。

四つ目は、特定建築物(註2)についてです。
兵庫県の防災機関「人と防災未来センター」の調査によると、全国自治体の二割は、公立小中学校の耐震化が今後10年以内に終えるめどが立っていないとの事です。
市においても学校の現況耐震化率が50%(P.14・17)を割っており、平成27年度までの8年間で計画目標の37件が達成できるのか、国の補助率引き上げの可能性は低いと云われており、相当の努力が必要と思われます。
又、市有の内で耐震性がない病院が4件、福祉施設が8件あり、何れも現況耐震化率が50%以下となっています。
特に問題としたいのは、民間の幼稚園と保育所です。特定建築物に該当しない規模の施設がどの程度あるのか不明ですが、将来を担う幼児達の施設が当計画(案)の助成制度を利用できないとすれば、検討の必要があるのではないでしょうか。

最後に計画目標達成のために何をなすべきかについて触れてみたいと思います。
「5.-(3)関係団体との連携」において、建築設計事務所協会等と連携し、建築物の耐震化について啓発活動を行うとしているが、従来のような行政からの発信に対し、受動的対応の連携では計画期間の8年間での目標達成は、厳しいものと思われます。
双方が共通する地域社会の課題解決に向けて、目的の共有と相互の特性を認識した上で尊重し、対等の立場で経験や英知を出し合いながら協力し合う事により、能動的連携が生まれます。
それが、市民から評価される結果に結びつくものと期待します。
更に、耐震化の推進には、国の補助制度の拡充が必要です。
劣化が進み、著しく危険な建築物に対しては、建築物所有者に対し勧告、命令等の措置を講ずることが可能となりましたが、広く社会資本と考えるならば、安易な措置は講ずるべきではなく、市民の理解の得れる手法が必要であり、そのためにも国や県に積極的に働きかけることが重要です。
其れには、市民と行政及び関係団体との連帯が不可欠でしょう。
以上

(註1):「芦屋市が近隣市町に先駆けて…」としていますが、私が調べた範囲では、七市一町(神戸市・西宮市・尼崎市・伊丹市・宝塚市・川西市・三田市・猪名川町)の内、神戸市と川西市は既に市独自の補助金制度を実施しています。
神戸市は、「一般型」と「小規模型」の二本立てです。
一般型とは、県の促進事業と同じく、木造住宅の場合は、耐震改修後の総合評点が1.0以上にすれば、工事費の1/4(上限30万円)を補助します。県補助金の上乗せとなります。
小規模型の場合は、木造戸建て住宅のみが対象で、総合評点0.7未満であるものを0.7以上~1.0未満に引き上げる場合又は、1階の評点が1.0未満のものを1.0以上に引き上げた場合に、工事費の2/3(上限20万円)が補助されます。但し、県の促進事業は対象外です。
尚、川西市も原則神戸市と同じです。但し、新年度については確定していないため、詳細については4月以降に発表されます。

(註2):「特定建築物」とは、耐震改修促進法施行令第5条2項の規定により、用途及び規模を限って指定されている建築物を云います。
幼稚園と保育所については、2階以上且つ床面積の合計500㎡以上の規模の場合を特定建築物と呼びます。
小中学校と福祉施設は、2階以上且つ床面積の合計1,000㎡以上の規模。
病院と事務所及び住宅等は、3階以上且つ床面積の合計1,000㎡以上となります。
尚、民間の特定建築物は、当計画(案)の対象外となっています。
但し、市が指定する「多数のものが利用する建築物」(註3)に該当する特定建築物若しくは、附属(複合)している施設は、当計画(案)の対象となると思われます。
民間の幼稚園や保育所で云えば、市が指定する「多数のものが利用する建築物」と複合している場合を除き、当計画(案)の対象外となるようです。

(註3):「多数のものが利用する建築物」とは、耐震改修促進法第6条1項に掲げる学校、病院、劇場、百貨店、賃貸住宅(共同住宅に限る)、事務所、老人ホーム等であって、階数が3以上且つ延べ床面積1,000㎡以上の建築物を云う。
尚、当計画(案)の対象となる、市が指定する「多数のものが利用する建築物」とは、学校(大学、専門学校を除く)、病院及び福祉施設のみとする。




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