アモルの明窓浄几

芦屋・仕舞屋・三輪宝…生噛りの話題を机上で整理します。

水谷洋一氏の講演を聴く

2008年03月20日 | 万帳報
昨日(3/19日)、上宮川文化センターでの水谷洋一氏の講演会に行って来ました。
水谷洋一氏は、西宮冷蔵(株)の社長で、『食品偽装と闘う』が講演のテーマでした。
予定時間の2時間を超える講演でしたが、前半の45分間は倒産から2004(H16)年の営業再開までを追ったドキュメンタリー「映像’04」(毎日放送)の上映でした。後半は水谷洋一氏の講演ですが、最後まで直立ちのままでハッキリと物言う姿勢に熱意の程が伝わってきました。

お話の内容は、2001(H13)年10月31日の水曜日である、中央市場や畜産業界が休みの日を狙って、雪印食品の関西統括支店関西ミートセンターから菅原センター長を含めた社員が西宮冷蔵(株)へ乗り込んできた処から始まります。
食品倉庫に入った彼らは、オーストラリアのレンジャーズバレー牧場と書かれたケースから輸入牛肉を取り出し、和牛と書かれたケースに詰め替えます。(註1)
後に、伝票処理が必要といわれ、西宮冷蔵(株)は伝票の改ざんを行うが、これが後に命取りとなります。

2001年に国内初のBSE(牛海綿状脳症)感染牛の確認を契機に、農水省の国産牛肉買い上げ・焼却事業(註2)には国民の税金300億円余がつぎ込まれたと云われています。

2002(H14)年1月17日は、政府買い上げの国産牛肉焼却処分が始まった日です。
水谷氏によると、国産牛肉の買い上げ価格が1,000円/㎏に対し、輸入牛肉は300円/㎏程度なので、差益が700円/㎏になる。焼却処分が始まる前に輸入牛肉を和牛肉と偽装することにより、雪印食品は税金を食い物にしたのです。それが後の、業界トップの日本ハムをはじめとする食肉業界大手の牛肉偽装犯罪に繋がっていきます。
2002年には、改ざん伝票や偽の在庫表により倉庫業違反に問われ、7日間の営業停止(11/3~9日迄)命令を受けます。(註3) そして、11月末日には社員全員を解雇するに至ります。
その後は、冷蔵倉庫、事務所の電気は止められ、梅田の曽根崎陸橋で「まけへんで!!西宮冷蔵」の幟を立て復活を目指すことになります。

2003(H15)年8月には、「西宮冷蔵を再建する会」が結成され、カンパを募り多くの支援の結果、2004年3月24日には、冷蔵倉庫の送電が行われ、4月21日には、本格的な営業が再開しました。

最後に水谷洋一氏の息子、甲太郎さんからの現状報告がありました。
再建後は、冷蔵倉庫の七割まで回復したそうですが、昨年からの中国食品偽装事件の長期化から、再び売上が悪化し、今日では五割を切っている状態だそうです。
再度の支援の呼びかけに、胸が痛む思いでした。

水谷洋一氏の口から、しばしば「正義」という言葉が聞かれました。水谷流に言うと、告発の意志決定をしたものの最後の一歩が前に出ないとき、朝日新聞記者の『巨悪を一緒に挫きましょう』という決め台詞にジーンとしびれたといっています。(註4)
内部告発がまだ一般的ではなかった当事において、彼のプレッシャーは相当のものだったと思われます。正しく、「正義」が彼の拠りどころであったのでしょう。

註1:今西憲之著「内部告発」によると、この時、約600ケース、13トン、国産牛として1,460万円分の買い上げ価格とのことですが、雪印食品が関西と関東の両ミートセンターで偽装した牛肉は、約17,000トンにのぼるとのことです。
註2:この制度には大きな問題があり、救済される対象が大手メーカーに事実上限られることです。同事業は、食肉メーカーへ補助金(約700~1,800円/㎏程度)を出すという仕組みです。その買い取り対象は「箱詰めの未開封の牛肉」と限定されたため、一般小売店の多くが救済対象から外れることになったのです。更に、国産牛肉の証明書(格付証明書等)が必要としていた条件をケース等の「国産」表示だけの冷蔵倉庫業者等の発行する在庫証明でいいことになりました。こうしてケースのラベル表示を偽装するだけで、補助金が手に出来るようになったのです。
註3:ロシナンテ社編集部編著.「正義は我にあり」によると、水谷社長は国交省の出先機関の神戸運輸管理部に雪印食品に対し再三、申請手続きを変更するよう警告していたと訴えているにも関わらず、「在庫証明を改ざんする前に内部告発をすればよかった(のに)。」の一点張りであり、「国交省によるこの種の行政処分は、20年前に2回あっただけ。そんな法律を使って処分することに別の意図や圧力を疑わずにいられない。」と結んでいます。
註4:今西憲之著「内部告発」による。


追伸:
・「再建救済貸付基金」が設立されました。
この件やカンパ等の支援協力については、下記へ問い合わせて下さい。
 →西宮冷蔵(株)担当:水谷甲太郎 電話0798-35-1234
・西宮冷蔵(株)の関係本を二冊紹介します。
  1.「内部告発」鹿砦社(今西憲之著)…水谷氏が元衆議院議員の河本三郎(河本敏夫の息子)の秘書をしていた頃の話や水谷氏自身が2002年の衆議院(大阪10区)補欠選挙に立候補した時の話題なども有り。
  2.「正義は我にあり・西宮冷蔵水谷洋一の闘い」アットワークス(ロシナンテ社編集部編著)…水谷氏の講演での話のまとめと内部告発について識者の見解等を掲載しています。
内部告発者保護のため「公益通報者保護法」が2006年4月1日に施行となりましたが、これは内部告発をした労働者を保護する法律で、取引先である水谷洋一氏は、保護の対象にはなりません。尚、お隣の韓国の『腐敗防止法』では、「誰でも腐敗行為を知り得た場合は、これを大統領直属の腐敗防止委員会に報告することができる。」と謳われています。
・講演会から戻り、夕刊を見ると本日、札幌地裁において食肉偽装事件で世間を騒がせたミートホープ社の田中稔元社長が詐欺と不正競争防止法違反の罪で、懲役四年の実刑判決を言い渡されました。
「安価な原材料で多額の売上を得ようとした動機は極めて利欲的かつ自己中心的。食の安全への信頼を根幹から揺るがした。」としています。これが大手メーカーの社長であれば如何であったのかと、ふと脳裏を掠めました。


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