アモルの明窓浄几

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耐震改修補助金の不正受給について

2010年06月17日 | すまいのこと
先月発覚した住友不動産の耐震改修補助金の不正受給については、既に報道などでご存じの方も居られると思います。今回、建築士事務所協会からの通達がありましたので、改めて考えてみたいと思います。

概要は、住友不動産が平成15年から21年の7年間に亘って兵庫県下で耐震改修補助金交付を受けた392件の内、357件で不正受給(約1億4,700万円)していたと云うものです。
不正受給に至った要因は、「補助金交付要綱」に定める手続きに違反していた事です。

補助金は、耐震改修設計(要綱では耐震改修計画と呼ぶ)と耐震改修工事の各々に交付されます。交付を受けるには、申請人である建築主が設計者又は、工事請負者と契約を結ぶ前に補助金交付申請を完了しておく必要があります。
具体的な流れは、①交付申請(建築主から役所へ)→②交付決定通知書(県から建築主へ)→③契約の締結(建築主と請負者)→④設計又は工事の着手(請負者)となります。

しかし、通常は設計者若しくは工事請負者が交付申請の代行(代願)を行っているのが実情です。
上記の流れで云いますと、①の交付申請を建築主に替わって請負者等が申請書類を作成して役所へ提出する事を代行と云います。更に、工事が完了すると「実績報告書」を提出するのですが、これも請負者等が作成し届出ます。
この実績報告書には、契約書の写しを添付することになっており、契約の日付(③)が交付決定通知書の日付(②)より以降であればよいと云う事になります。

今回の手続き違反とは、住友不動産が補助金交付申請(①)前に、正確に云うと交付決定通知書に記載された日付(②)前に顧客(建築主)と契約の締結(③)を済ませており、代行するに至って契約日付を(②以降の日付に)改ざんして申請していた事です。契約日を二年間も偽っていたものもあるそうです。

住友不動産は、県のみでなく当芦屋市も含む他市の補助金も不正受給しており、先月21日の記者会見で謝罪し、全額返還すると発表しています。
又、神戸新聞(5月21日付)によると「動機については『申請から交付決定までにかかる約1カ月が待ちきれず、先に工事を進めてしまった。違反と知りながら、現場では常態化しており、認識が甘かった』と説明。兵庫事務所長も黙認していたことを明らかにしたが、本社の指示は否定した。」との事です。

「違反と知りながら」、「常態化しており」、「事務所長も黙認」となると、補助金の全額返還で済む話なのかどうか、企業のコンプライアンスについてトップの釈明が必要でしょう。

県の担当課は、今後の対応として、同様の不正行為の発生を防止するため、中間検査の実施について検討するとの事です。この様な不祥事が起きると規制強化の方向に向かうのが常の様です。不正防止のため中間検査の導入は、効果があるでしょう。しかし、それに伴う費用(経費)も発生する事を考えると、補助金対象物件数の減少に繋がらないよう配慮して頂きたいものです。

又、問題の本質は動機で述べられているように「申請(①)から交付決定(②)までにかかる約1カ月が待ちきれず、…」に工事を進めている事です。
従って、下記の点の検討を提案します。

1.企業の本質はお金儲けですから、早く契約をし、早く着工し完工する事が最優先になります。毎月の売上高目標を達成するために、現場では無理をしているのです。とは云え、「法令遵守」を守らなくて良いわけではなく、企業のトップ(上層部)の責任は、大変重いものです。そこで、登録業者のみ申請代行を行ってよい事にしてはどうでしょうか。登録制度の導入です。
尚、大工さんや中小の請負業者において申請代行を行わない方は、登録の必要はないでしょう。その場合は、改修計画の申請を行う設計者に代行してもらえばよい事です。

2.耐震改修計画の補助金申請も企業内の管理建築士の名前で申請しているのですから、事前に登録させればよいと考えます。上記の1と同じく、登録者のみに代行を認めればよい事です。当然、違反行為を行えば登録抹消となり、代行業務は無論、補助事業業務そのものも出来なくなります。現行の簡易耐震診断事業の方は、診断員の登録制になっているのですから、同じようにすればよい事です。

3.建築主と契約を結ぶ前に補助金交付申請を完了しておく事については、私も実情に沿わない方法だと感じています。要綱の建前は、建築主が交付申請を行う事を前提に構成されています。しかし、先に述べたように請負者等が申請代行を行うのが実態です。従って、代行をする側からみると、契約もせずに交付申請を先行させることになります。交付決定通知書が建築主に届いた時点で、おたくとは契約しないと断られるリスクを含んでいます。業務はスタートしているにも拘らず、約一ヶ月先まで契約が出来ないと云うシステムは問題ですし、そもそも未契約の着手は、請負い企業側としても受け入れられない事ではないでしょうか。
建築士法においても、建築主へ「重要事項の説明」を行い、意思疎通を図った後に契約を締結し、契約業務を履行する事となっています。責任の所在を明確にすれば、契約と交付申請を同時平行に行ってもよいのではと考えます。

4.とは云うものの、契約締結前に補助金交付申請を行うのは、税金である補助金を交付するに値する(要綱に適合する)建物かどうかの判定が必要だからです。しかし、契約後の交付申請であっても、不適格なら補助金を交付しなければよい事であり、必要ならば、その様に要綱等を改正すれば済む事です。又、その旨を代行者に周知しておけばよく、その意味でも登録制に意味があると考えます。

以上、私なりにこの件を考えてみましたが、登録制で全てが上手く行くとは、私自身も思っていません。そもそも、兵庫県下は、報告書(添付写真含む書類)のみの審査方法だったのが、この様な事態を招く温床になっていたとも考えられます。

尚、肝心の耐震補強工事に違反はないとの報道ですが、契約日を二年間も偽っていた物件の工事に対して、違反でないとの確証がとれるのでしょうか。日付だけの偽装であるとの証明は、非常に難しい事だと思うのが普通の感覚ではないでしょうか。


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