蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

贋作 『三四郎』

2016-01-02 10:38:44 | 日記
贋作 『三四郎』

「しかしこれからは日本もだんだん発展するでしょう」と弁護した。すると、かの男は、すましたもので、
「滅びるね」と言った。――熊本でこんなことを口に出せば、すぐなぐられる。悪くすると国賊取り扱いにされる。
「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より……」でちょっと切ったが、三四郎の顔を見ると耳を傾けている。
「日本より頭の中のほうが広いでしょう」と言った。「とらわれちゃだめだ。いくら日本のためを思ったって贔屓の引き倒しになるばかりだ」
 この言葉を聞いた時、三四郎は真実に熊本を出たような心持ちがした。同時に熊本にいた時の自分は非常に卑怯であったと悟った。


 「しかし、これからは日本も安泰でしょう。先の国会で安全保障法制も通りましたから、中国も簡単に手出しは出来ないでしょう。韓国とも、慰安婦問題で合意しました」と弁護した。すると、かの男はすましたもので、「滅びるね」と言った。ネットの中でこんなことを言えばあっという間に炎上する。悪くすると国賊扱いされる。
 「ネットの中の世界より、現実の世界の方が広い。マスコミが報じる『日本』より、現実の『日本』の方が多様だよ」
 「自公政権は国民の支持を受けてると思いますが」
 「選挙で当選したという意味ではね。しかし、『戦争法案』への危惧と反対の声は、従来の保守・革新の枠を超えている」
 「たしかに、元内閣法制局長官の方も反対を表明していましたね」
 「だから、『戦争法案反対』の一点で共同候補を立てて、一人区中心に自公の候補者を倒してくれという声が上がっている」
 「そんな動きがあるんですか。私はアメリカに頼っていれば大丈夫だと思ってきたのですが」
 「とらわれちゃだめだ。アメリカが現実にやってきたこと、やっていること、そして、アメリカ国内の格差のひどさを知れば、アメリカにさえ頼っていれば大丈夫という考えは再考を必要とすることが分かると思うよ」
 この言葉を聞いた時、三四郎は、自分の世界が広がったような気がした。事実を知ろうとしなかった自分、誰かがやってくれるという考えであった自分は非常に卑怯であったと悟った。

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