蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

2015-09-15 19:30:08 | 日記
 完全につぶれた小さな商店街の入り口に、アンティークショップがある。開いているのか閉まっているのかもわからない店である。
 通りかかって開いていると、とんでもない幸運に恵まれたような気になる。

 一本の鍵を見つけた。長さは5cmほどで、真鍮製である。アラベスク模様が施されていて、イミテーションなんだろうが、鈍く光る石がはめ込んである。肝心の鍵の部分は、大層複雑な形をしている。凹凸が全部で7か所ある。
 「鍵だけなんですか?」と訊ねると、「そうなんです」と答えが返ってきた。
 「どこの鍵なんでしょうね?」と訊ねると、「さあ、私もモロッコの市場で買って来たけど、その時から、何の鍵なのかわからないと言ってた」。「トランクなのか、家の鍵なのか、金庫の鍵なのか、それもわからない」。「そう」。
 そんなに安くはなかったけれど、何か惹かれるところがあったので、衝動買いをしてしまった。
 その店で売っていた10cm四方の小さな座布団を買って、棚の上に置くことにした。

 しばらくは何も起こらなかった。ところが、ある夜、8時頃だったと思うんだが、鍵が座布団の上で動き出した。とうとう座布団をはみ出して、棚の上でカタカタ弾みだした。そして、ピタッと止まった。

 その日はそれで終わったが、4日後の今度は午後7時ごろに同じ現象が起きた。

 その次は、1か月後の8時ごろ。
 
 さすがに考えた。共通点は何か?天候、気圧、気温・・・・調べているうちに、ふと頭に浮かんできた。私の住んでいるところの至近距離に国際空港がある。そこで、その時間に発着する便を調べてみた。某国からの直行便が候補に挙がってきた。
 
 予想があたっていれば、午後8時ごろに空港に到着する飛行機と何らかの関係がありそうだ。

 仮説を立てて、時を待った。

 2か月が過ぎた。動き始めた。すぐに空港に直行した。乗客が手続きを済ませて出てくる。鍵には紐をつけて、頸からかけていた。突然、激しく反応し始めた。鍵はほぼ水平になって、ある人物を指し始めた。
 中東系の若い女性だ。近寄った。彼女も驚いている。嬉しいことに彼女は、片言の日本語が話せた。あとは身振りと手振り。テーブルに座って話した。

 「コノかぎハ、アナタニアイタガッテイル」
 「ワタシニ?」
 「アナタハコノかぎデアケラレルナニカモッテマセンカ?」

 トランクの中から彼女は、きれいな箱を出してきた。

 「コノハコハ,ワタシノイエニナガイコトアリマス。ズットムカシカラ。かぎガナイ。アケラレナカッタ」

 鍵はここにある。箱もここにある。
 
 二人で考えた。何が入っているのか?パンドラの箱か?玉手箱か?

 開けてみた。小さな阿修羅様が入っていた。

 「何か望みを言って見よ」

 相談したわけではない、二人の口から出たのは、「世界を平和にしてください」という言葉だった。

 「わかった」と阿修羅様は応えた。眼がキラッと光った。姿が消えた。

 世界には、人の良い人、自分の事よりも他人の幸せを望む人、こつこつ働いて、平凡な生活を大切にする人、他人を笑わせたり、幸せにすることの大好きな人、争いを好まない人たちが残った。

 世界の人口は確かに減った。しかし、それほどでもなかった。こんな数の奴らに振り回されていたのか・・・という数だった。

 阿修羅は、三面六臂の像として現されている。元々は戦いの神であり、破壊を事としている。阿修羅像には怒りは表面化していない。しかし、内に怒りと憂いとを秘めていることは分る。
 阿修羅はどんな基準で残す人とうち滅ぼさねばならぬものとを区別したのだろうか。私にはわからない。

 ふと、「馬鹿は死ななきゃなおらない」という言葉が頭浮かんだ。

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