クラシック音楽徒然草

ほぼ40年一貫してフルトヴェングラーとグレン・グールドが好き、だが楽譜もろくに読めない音楽素人が思ったことを綴る

光と陰のハーモニー~印象派の扉を拓く~ 三原麻里(オルガン) 萩原麻未(ピアノ)@2024.3.24 所沢アークホール 

2024-04-24 16:43:51 | 演奏会感想
ホールオルガニスト三原麻里さんとピアニスト萩原麻未さんのコンサート。

ピアノの麻未さんはかつてここ所沢でのオルガン講習会に講習生として参加されていたとのこと。
それから何年たったかわかりませんが、今度はピアニストとしてステージに立つ、というのはまあ本当に奇遇であります。

今回のテーマは「印象派」ということで、前半の曲目は
①フランク:前奏曲、フーガと変奏曲 Op.18 オルガン
②サン=サーンス:≪動物の謝肉祭≫より〈水族館〉〈白鳥〉〈フィナーレ〉 オルガン&ピアノ
③フォーレ:≪ペレアスとメリザンド≫より〈シシリエンヌ〉 オルガン
④ドビュッシー(松岡あさひ編曲):牧神の午後への前奏曲 オルガン&ピアノ

後半は
⑤ヴィエルヌ:≪24の幻想小曲集≫より〈鬼火〉〈ナイアード〉 オルガン
⑥ドビュッシー:≪前奏曲集 第1巻≫より 第4曲〈夕べの大気に漂う音と香り〉第7曲〈西風の見たもの〉第8曲〈亜麻色の髪の乙女〉第12曲〈ミンストレル〉ピアノ
⑦デュリュフレ:スケルツォ Op.2 オルガン
⑧トゥルヌミール:「過越のいけにえに賛美」によるコラール即興 オルガン

このプログラムを見て
あれ、「月の光」がないぞ…はは~ん、あの超人気曲はアンコールにとっておくのだな、と思ったら案の上アンコールは
ドビュッシー:「月の光」オルガン&ピアノ
でした。
「月の光」はどなたの編曲か不明ですが、④の「牧神」は松岡あさひさんが本演奏会のために編曲なさったとのこと。
「牧神」「月の光」はともに超メジャーなので少々手あかがついた感がありますが、オルガンとピアノでの演奏は新鮮でした。


「牧神」が「現代」音楽として演奏され、それにニジンスキーがバレエを振り付けて踊る。
そんな時代のパリを一言でいうと「爛熟」かなあ~~~
しかし、その「爛熟」も帝国主義で獲得した植民地からの富の収奪に立脚していると考えると、かなり危うい。
実際ドビュッシーが生きた時代をみてみると
 1862 ドビュッシー生誕
 1870 普仏戦争
 1884 清仏戦争
 1914 第一次世界大戦
 1918 ドビュッシー没
といった具合で戦争だらけ。
あのむせるような「爛熟」はどこかになくなっても戦争がない社会の方がよほどマシ、と妙なことを考えてしまうのは昨今のご時勢のせいか。

(おまけ)
麻未さんが恩田陸原作の映画「蜜蜂と遠雷」でのコンクール課題曲「春と修羅」の明石ヴァージョンを弾かれている動画がありました。

作曲したのは藤倉大氏。
藤倉氏は作曲にあたって、原作中の「春と修羅」言及部分を全部壁に貼って、齟齬が生じないようにチェックしたそうだ。
では原作にはどんなことが書かれているのか、あらためて「蜜蜂と遠雷」を読んでみると、まず
”「春と修羅」はタイトルからも分かる通り、宮沢賢治の詩をモチーフにしたものであり、ほぼ無調の曲。
長さは約9分で、演奏時間の四分の一近くを占めるのだから、どの順番で演奏するかは大きな問題である。”

ここで、演奏時間といっているのはコンクール2次予選の各コンテスタントの持ち時間のこと。
この動画の演奏は6分40秒でちょっと短いが、映画で使うために短くするように要請されたためかもしれない。

”「春と修羅」には、「自由に、宇宙を感じて」と指示された即興の箇所がある。”
即興部分は奏者によって異なるため、藤倉氏は明石、アーちゃん、マサル、塵と4つもヴァージョンを作曲した。
これはタイヘンだ!

明石の曲に対するイメージはというと
”電車に揺られながら、曲のイメージに文学作品のイメージを乗せてゆく。
ここはイギリス海岸の雰囲気でーたぶんこのあたりは銀河鉄道の夜ー夜空を翔るイメージーこの部分は永訣の朝かな。”

即興部分について明石が思いついたのは
”うん、そうだ、カデンツァはあの台詞をメロディに乗せよう。
パっとそう閃いた。

 あめゆじゅとてちてけんじゃ。
 あめゆじゅとてちてけんじゃ。

 賢治が死にゆく妹を謡った、「永訣の朝」の中の、ひときわ印象的な妹の言葉。高熱に苦しむトシが、雪を取ってきて食べさせてくれと賢治に頼んだ台詞。あまりにも痛切だが、同時にとてもリズミカルで音楽的な言葉だ。”

よし、右手でトシの台詞をメロディに乗せ、天に召された彼女の声が繰り返し降ってくるところを表現し、左手で水晶を拾いながら世界に宇宙に思いを馳せる賢治の日々を描こう。”
この先まだまだありますが、もうお腹いっぱい。
音楽についてこれほど豊かに語れるのはさすが恩田陸!という感じですが、それを受けて言葉通りの音楽を作曲してしまう藤倉氏もスゴすぎる。
明石は作曲家がもっともすぐれた演奏者に与える「菱沼賞」を受賞しているので、藤倉氏としても明石ヴァージョンは会心作なのかも。
4:04あたりで始まる”あめゆじゅとてちてけんじゃ”が心にしみる…












 

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