クラシック音楽徒然草

ほぼ40年一貫してフルトヴェングラーとグレン・グールドが好き、だが楽譜もろくに読めない音楽素人が思ったことを綴る

東京六人組@2022.11.6 所沢マーキーホール

2022-11-09 10:36:15 | 演奏会感想
今回は5つの管楽器とピアノの6人組コンサート。


オープニングは
①チャイコフスキー(岩岡一志編曲):「くるみ割り人形」より小序曲、行進曲、金平糖の精の踊り、ロシアの踊り、葦笛の踊り、花のワルツ
「くるみ」はこの秋に
 9/17 ハープ王子メストレのソロで花のワルツ
 11/3 ピースコンサートのピアノ連弾+フルートで行進曲、葦笛の踊り、花のワルツ
と聴いていて、今日で3回目。大人気曲です。
だからと言って、聞き飽きることはない。
楽器も異なるし、それぞれ面白い。
次はいよいよフルオケ+バレエと行きたいところだが、川越も所沢も「くるみ」のバレエ公演無し。
日本は優秀なダンサーを輩出しているバレエ大国なのだから、年末は「くるみ」がふつうになってほしい。

②プロコフィエフ(松下倫士編曲):「ロミオとジュリエット」全幕抜粋版
 六人組のための編曲委嘱作品。
 「ロミオとジュリエット」組曲というのがあるが、ストーリーと関係なくいくつかの曲が並んでいるらしい。
 そうではなくストーリーに沿っていい感じにつなげて、と編曲者にお願いしてできあがったのがこの作品ということです。
 前半は悲劇を暗示する冒頭に始まりジュリエットの部屋、舞踏会、バルコニー、街のシーン、ティボルトの死とつづく。
 バルコニーはバレエでは見せ場だが、ほんのちょっとのさわりだけ。
 その代わり、ティボルトの死の場面がガッツリ入っていた。
 ここはバレエのシーンとしてはちょっと過剰と思えるところだが、音楽は非常に雄弁。
 プロコフィエフ特有の荒々しい不協和音と打撃音が強烈に鳴り響いて前半を締めくくる。
 後半はジュリエットの部屋と墓所のシーンがたっぷり入っていて、それぞれの情景が目に浮かぶ。
 2時間以上の全幕がぎゅっと凝縮されていて、実に素晴らしい編曲だった。

③磯部周平:ピアノと木管五重奏のための六重奏曲「きらきら星変奏曲」
 モーツァルトの「きらきら星変奏曲」K.265と同じく主題と12の変奏曲からなる。
 のみならず各変奏曲がいろいろな作曲家の有名曲のパロディになっているという凝った構成。
 各変奏が誰のパロディになっているかちゃんとタイトルがつけられていて
  1.三星のフーガ(バッハ)
  2.ケッヘル博士の忘れもの (モーツァルト)
  3.嵐のハイリゲンシュタット (ベートーヴェン)・・・
 という具合。
 いや~巧みなもんだ~と感心しました。

④ブラームス(夏田昌和編曲):ハイドンの主題による変奏曲 Op.56
 世界初演ということで演奏前に編曲者ご自身がステージに登場。
 ブラームスは最初に2台のピアノ版を書いて、それをオーケストラ編曲したそう。
 両者を参照するとブラームスがどんな音が欲しかったのかわかるので、その辺も考慮して編曲したとのこと。
 わたくしにとって本曲のデフォルト演奏は1954.5.4パリのガルニエ宮でのフルトヴェングラーBPO。
 ここから重厚な低弦や泣きのヴァイオリンを外したらどうなるかな~と思ったが素晴らしかった。
 各変奏の中で、特に好きなのは第7変奏。
 

 この変奏の後半にこんなパッセージが出てくる。

 ”クララ愛してる~抱きしめたい~”と憧れがムラムラ上昇するが、やっぱりダメ。
 なんともブラームス的だなあ~と思うところで、原曲は第1、第2Vaのオクターブ・ユニゾンでlegato,crescendoとモリモリ。
 そこを金子君がクラリネット1本で渾身の力をこめて表現していました。Bravo!
 隣のホルン福川君は”お~やっとるな~”みたいな顔して見てましたが。
 しまいには六人組とBPOの音が頭で混じり合って、ここはガルニエ宮かという妄想に至る。

プログラムとしてはここで終わり。
”最後に1曲、ハチャトゥリアンを弾きます”と福川君がしゃべったところで、珍事発生。
そう言ったご本人の譜面台にハチャトゥリアンの楽譜がない!
暗譜で行けるか、と一瞬考えたみたいだったが、楽譜を取りに戻ってしまった。
さすがにバツが悪くて、顔を手で隠して鼠小僧みたいにコソコソ現れたので大笑い。
”人間ですからこういうこともありますよ~”とフルートの由恵さんがフォローしてましたが、実は彼女も③の前にピッコロを忘れてきたのでした。
六人組忘れ物多し! 電車の網棚にピッコロ忘れませんように。

六人組の編成でのオリジナル曲はあまり無さそうだが、大編成のオーケストラ曲を六重奏でやるのは面白いかも。
意外性があるし、人数が少ないゆえにかえって曲の骨格がはっきり浮かびあがる効果も期待できる。
ワーグナーとかマーラーあたりどうでしょう?

ファゴットのマリ子さんは欅の紅葉がいいなあ~と思いつつ駅からホールまで歩いて来たそうです。
わたくしもそう思ったので、1枚パチリ。



 





ピースコンサート”四手連弾、華麗な響きをフルートと共に” @2022.11.3 ウエスタ川越

2022-11-04 10:18:07 | 演奏会感想
赤松美紀と奥山浩代(ピアノ)、隈倉麦(フルート)とお嬢様3人の華やかなコンサート。

曲目は以下のごとくでした。
①ブラームス ハンガリー舞曲第5番 連弾
 この曲はつい先日の大導寺コンサートでも取り上げていました。連弾曲として大人気か?
 わたくしは数十年前のKDDのCM”〇〇もお得ですよ~”がいまだに耳にこびりついているのは困ったことです。

②パッヘルベルのカノン 連弾
 この曲は前に東京交響楽団の弦楽四重奏で聴いた。やっぱり人気曲。
 原曲が3つのヴァイオリンとバスだからピアノだと各声部をくっきりさせるのが難しそうですが、うまくいきました。

③ショパン ワルツ第5番 Op.42 奥山浩代
 今日初のソロ。しかもこの曲を公開で弾くのは初めて、ということで緊張したみたいです。
 ご自身も”連弾だと気楽”と言ってましたが、お二人は高校生の時から連弾で楽しんでいたとのこと。それは楽しそう。

④チャイコフスキー バレエ組曲「くるみ割り人形」からマーチ、葦笛の踊り、花のワルツ 連弾とフルート(葦笛)
 ここで初めて麦ちゃん登場。「くるみ」も楽しい人気曲。

⑤ボルヌ カルメン幻想曲 隈倉麦(フルート)と赤松美紀(ピアノ) 
 この曲はフルーティストにとって憧れの曲だそうで、今年4月のコンサートで草薙友妃子さんも演奏していました。
 カルメンの有名曲メドレーにフルートの超絶技巧をまぶしてあって、指がけいれんしそうだけれども華やかな曲。
 オッサンが吹いてもイマイチだが、この日の麦ちゃんは黒の上に花柄スカートのフラメンコスタイルで、見た目もカルメン。
 音だけでなくヴィジュアルでもサービス精神を発揮いただいてありがとうございます!

この後はだいぶくだけて
⑥「魔女の宅急便」メドレー 3人全員
⑦「サウンド オブ ミュージック」メドレー 連弾
⑧山口景子 秋メドレー 隈倉麦(フルート)と赤松美紀(ピアノ)
 

と親しみやすいメドレーが続き、最後は

⑨ピアソラ(山本京子編曲)リベルタンゴ 連弾
 この曲も大導寺コンサートで取り上げていました。しかも同じ山本京子編曲。
 リベルタンゴ、大人気であります。

アンコールは3人で「ハウルの動く城」メドレー。
天気は小春日和、近所でお昼を食べてカワイイ女性たちが演奏する音楽も聴けて、平和のありがたみを実感する一日でした。


 

モーツァルト 「レクイエム」鈴木優人指揮BCJ@2022.10.28 所沢アークホール

2022-11-03 17:20:39 | 演奏会感想

本日の曲目は
 交響曲第39番 変ホ長調 K.543
 レクイエム ニ短調 K.626
アンコールとして 「アヴェ・ヴェルム・コルプス」 ニ長調 K.618

レクイエムの独唱者は
 森麻季(Sop) 藤木大地(Alt)櫻田亮(Ten)ドミニク・ヴェルナー(Bas)
でした。

最初に優人さんが出てきてあいさつ。
レクイエムと組み合わせる曲は「魔笛」と同じ変ホ長調ということで39番にしたとのこと。
レクイエムはアーメン・フーガ付の鈴木優人版。
基本はジュスマイヤー版だがアイブラーの補筆も取り込んだそうで、ランドン版にスタンスが似ている。
アーメン・フーガが書かれていた楽譜は、上半分にレクイエムに関するメモ書き、下半分にフーガが書かれているそう。
ならばこのフーガはレクイエムのために書かれた可能性が非常に高い。
モーツァルトはラクリモサ、すなわちセクエンツィア全体を壮麗なフーガで締めくくるつもりだったのは間違いない。

演奏はたいへん素晴らしかったです。
39番は木管楽器が活躍するが、ファゴットの音色がとりわけ鄙びていてなんだか癒し系。演奏は大変そうですが。
第2楽章はシリアスな弦楽器群とほんわかした管楽器群が対照的で面白かった。
第3楽章は遊び心たっぷり。クラリネットが遊んだトリオからダ・カーポする時の一瞬のゲネラル・パウゼは意表をつかれて思わず(笑)。
第4楽章展開部の激しい転調もやりようによっては激烈な雰囲気になるでしょうが、あくまで上機嫌。
とにかく人生すばらしい、と思えてくるところがモーツァルトなのです。

「レクイエム」もどこか明るさが感じられた。
視点が「彼ら」から「私」に転じるCum vix justusやsalva meは胸が締め付けられるところだが、そうでもない。
まだ39番の気分が残っていたのかな?
Recordareもしゃかしゃか進んで、焦点はLacrimosaとアーメン・フーガにあったようだ。
アーメン・フーガは短かったが、特にバスが雄弁でバロック的。
最後の年にK.608のような凄いフーガを自動オルガンのために書いたモーツァルトである。
もしレクイエムを完成していたら、壮麗なフーガが展開されていたに違いない。

レクイエムの後に「アヴェ・ヴェルム・コルプス」を演奏していただけたのはたいへん良かった。
モーツァルトはレクイエムの終曲にどのような曲を考えていたのだろうか?
キリエのフーガをそのまま使うのはあり得ないと思う。
冒頭が再帰しても、その後はニ長調に転じて永遠の安息を与えてくれる静かな終わりにしたはずだ。
「アヴェ・ヴェルム・コルプス」はニ長調だし、果たされなかった終曲をイメージできるわけです。

BCJはすでにバッハの全カンタータ録音という偉業を成し遂げた。
次はアーノンクールのようにモーツァルトに大進出して、全宗教音楽の演奏・録音にまい進してほしい。
もちろん場所は所沢で、というのがわたくしの我田引水的希望であります。
ピアノ・フォルテとともに演奏するピアノ協奏曲も聴いてみたいなあ~~

(追記)
本公演の2日後の東京公演のライブ動画がYouTubeで公開されていました。(現在は非公開)
演奏は所沢公演よりこなれていて、レクイエムのRecordareなど情感がグッと増しているように感じました。
Ne perenni cremer igni の哀願も痛切。
「アヴェ・ヴェルム・コルプス」はやっぱり素晴らしい。