ツレヅレグサ

雑記と愚痴と、時々小説

GunCuts and inHuman

2007-06-12 23:32:56 | 小説
 ※この作品には暴力的・流血などの表現が含まれています。生理的に受け付けない方は素直に戻られる事をお勧めします。




 白一色の窓のない部屋の中央に、少女が一人座り込んでいる。その少女の両腕は肘から先が灰色の長い毛に覆われ、手の部分は虎や豹のような猛獣のそれと化していた。背中からは六枚の巨大な翼が突き出し、床にだらりと垂れ下がっている。その隙間から、爬虫類のごとく鱗で覆われた長い尾が一本伸び、足先には硬く鋭い爪が四つ、脚全体を覆う灰色の毛皮から突き出ていた。胸と下半身はボロボロの布で覆い隠され、左右に投げ出した両足には鎖で繋がれた鉄球が革ベルトで固定されていた。
 何の前触れもなくドアが開き、白衣を着た数人の人間が部屋に入ってくると、彼女はうなだれていた顔を上げた。彼らは彼女の藍色の瞳を無機質な表情で見つめると、一人の運んできた台車を彼女の傍に停め、その上に載せられた機械を手に取る。左右から一人ずつが彼女の両肩を押さえ、もう一人がケーブルの片方を彼女の首筋に幾つか挿し込んだ。先端の針が肉に食い込む度に彼女が悲鳴を上げたが、彼は淡々と作業を続けた。それが終わると、ケーブルを機械の端子に接続し、機械を持っている一人に電源を入れるよう指示した。彼がスイッチを操作し始めると、機械のモニタに幾つかの波形が表示された。
「記録しろ」
ケーブルを挿した人間が命じると、台車の傍にいた一人が持っていた紙に何かを書き込み、それが終わると彼に合図した。彼はそれを確認し、機械の電源を切らせた。そして、針を丁寧とも雑とも言えないやり方で抜き、ケーブルを片付けていく。ケーブルを一纏めにして台車に載せると、ぐったりとしている彼女を見つめながら独り呟いた。
「これでも人間とは信じられんな・・・」
「そのうちまたモノ扱いになりますよ。それに、研究が終われば存在理由もなくなって廃棄処分でしょう」
先ほどの言葉を聴いていたらしい、台車の傍にいた人間が言い返すと、彼は何も言わず部屋を出ていった。それに続くようにほかの人間も出ていき、ドアが閉じられた。・・・ただ一人、少女だけがうつ伏せになって床に転がっていた。

 『・・・人と獣、それらを合成する事で生物兵器として十分通用する存在を造り、その能力を研究してきた。現段階で判明した事としては、身体の一部に変化が生じている事、そして知能は多少低下するものの、戦闘能力は兵器レベルである事だ。現在、実戦投入への検討が進められており、早くて来月の下旬には最初の実戦投入が行われる予定だ。また、量産に関してだが・・・』
少年はそこで映像の再生を止めると、その横に置かれていた缶からクッキーを何枚か取り出した。そしてそれらを一気に口に入れると、向かい側に座っている女性に話しかけた。
「へえ、もひはひへほろ・・・んぐっ。もしかしてこの兵器って奴を『回収』するのかよ?」
「その通り。勿論、潜入・脱出の際には私も協力する。報酬はそれ相応の金額を支払うそうだ」
クッキーを無理やり飲み込んだ少年に向かってそう言うと、彼女はフレームレスタイプの眼鏡を掛け直した。その奥で、褐色の瞳が冷たい輝きを放っている。彼はクッキーをまた一つつまみながら言い返した。
「この前みたいに厄介な物なら嫌だね。俺だって『一応』人間なんだ、危険な仕事は一切御免だからな」
「その心配はない。警備レベルはほぼ標準、兵士もごく普通の雑魚だけだ。・・・この兵器を投入する可能性もあるが、お前の能力値なら問題ない」
「そういう問題か?・・・まあいい、どうせ拒否権はないんだろ」
少年はそう言って席を立つと、壁掛けに吊り下げられている皮製のホルスターを掴み取り、装着した。白銀に輝く二挺の拳銃を取り出して動作を確認する彼をじっと見つめたまま、女性が一方的に話を続ける。
「零時丁度に警備の交代がある。その間、五分程度警備に隙ができる。その隙を狙って施設内に潜入し、被検体が監禁されている部屋まで向かう。その間、敵に見つかった場合は全て殺せ」
彼は壁の収納から9ミリ通常弾の入ったマガジンを取り出し、それぞれの銃に装填する。更に数本をホルスターのポケットに放り込んだ。
「扉は電子錠だが、私が予め開錠しておく。被検体が抵抗しなければそのまま、歯向うようなら眠らせて運び出せ。兵士は私が引き寄せておく」
別の収納を開き、噴霧式の麻酔薬を別のポケットにしまう。そして指先が露出するタイプの手袋を装着し、壁に掛かっていた黒色の大きな帽子を被った。
「質問はあるか?」
「今から出発したとして、何時頃到着するんだ?」
少年が背を向けたまま尋ねると、彼女は無機的な口調で答えを返した。
「車で普通に行けば二時間以上、警備の目を潜り抜けるとなれば三時間以上だが、遅くとも作戦開始二時間前には到着する」
「わかった。・・・出るぞ」
その言葉と同時に二挺の拳銃がホルスターに収まった。

 午前零時。都市から離れた山間に建てられた施設を巡回していた兵士は腕時計を確認した。
「・・・そろそろ交代の時間か」
彼は右肩に提げていた自動小銃を降ろすと、大きく伸びをした。二日に一度、六時間門の周囲を警戒して回る仕事は辛いものだ。三年前に隣国との戦争が終結して以降、任務の殆どが重要施設の警備になった。国の為に戦い、死ぬ事を望んで入った筈なのに、今の彼は奇妙な研究を行う施設を守っている。仕方がないとはいえ、このまま自分が朽ちていくのに納得できる筈もなかった。彼は銜えていた煙草を捨てると、苛立ち紛れに踏みつけた。
「クソッ!」
彼は憂鬱な表情で再び銃を担いだ。その時、彼の脇を一瞬何かがすり抜け、やや遅れて銃声が一発響き渡った。慌てて振り返ると、その視線の先には彼と交代する予定だった兵士が壁にもたれ掛かるように座り込んでいた。ただし、首の上が消失した状態だったが。
「嘘・・・だろ!?」
グリップを握る手が小刻みに震え、その度に銃が金具と接触してカタカタという音を立てる。突然の緊急事態に動揺しながらも、彼は通信機を掴み、やや上ずった声で怒鳴った。
「し、侵入者だ!警備が一人やられた!」
『なんだっ・・・ザザー・・・』
無線のノイズに混じって銃声と何かが倒れる音が聞こえてきた。どうやら既に手遅れだったらしい。それでも彼は必死に呼びかけ続けていた。
「オイッ!?一体何が起きた?・・・返事をしろぉっ!!」
「・・・他人を心配する前に自分を心配するべきだった」
背後から女性の落ち着いた声が聞こえ、彼はさっと振り向いて小銃を構えた。しかし、完全に向き直る前に拳銃のグリップが彼の鳩尾に半分ほど埋まっていた。その場にうずくまった彼に冷たい視線を向けつつ、女性は再び口を開いた。
「心配するな。あの馬鹿どもと違って殺しは好まん」
そして彼から小銃を取り上げ、彼を門の外側に引きずり出した。
「さて」
小銃を片手に、もう片方の手で眼鏡を取って投げ捨てる。灰色の瞳が月光を浴びて、更なる冷たい輝きを帯びた。
「こちらも動くとするか」

 『敵は被検体収容区画へと向かっている!先回りして奴を迎え撃て!』
慌てて武装を済ませた待機中の警備兵数人が施設内部を走り回る。だが、少年はその背後から頭部に向け正確に銃弾を撃ち放った。続けざまに血飛沫が弾ける中を駆け抜けると、彼は丁字路を右に曲がった。そして、最も突き当たりにある扉を開いた。
 彼が部屋に入ると、一面白色の何もない空間が広がっていた。ただ、その中央に半人半獣の少女が半ば衰弱した状態でうつ伏せになっている事を除いてはだったが。
「なあ、ここで合ってるよな?」
無線機を取り出し、彼はそう尋ねた。すぐに、女性の冷静な声が返ってくる。
『間違いない。そこにいるのが連中の造った兵器だ』
「弱ってる。鉄球付きの足枷まで嵌められてるぜ」
『悪趣味だな、ここの連中も。・・・早く脱出しろ。いくらお前でも四方を囲まれてはまずい』
彼女の言葉を聞きながら、彼は空になったマガジンを捨て、予備のマガジンを装填した。そして二発彼女の足元に撃ち、足枷の鎖を破壊した。もう一つの銃にも新たなマガジンを入れ終わったところで、少女が目を覚ました。
「だれ・・・あなた?」
彼女が継ぎ接ぎだらけの言葉遣いで尋ねると、彼は彼女に右の手を差し伸べて答えた。
「お前と同じ『人間』だ。お前を、助けに来た」
「たすけに・・・?」
「説明してる暇はない。歩けるか?」
彼が尋ねると、彼女は軽く頷き、獣の手を差し出した。
 その時、扉が開くと同時に嘘牛田兵士達がなだれ込み、二人の周囲を取り囲んだ。無数の銃口が彼と彼女に向けられ、そのトリガーのどれにも指が掛けられている。
「侵入者に告ぐ。大人しく武器を捨てて投降しろ。従えば命だけは助けてやる。だが逆らえば・・・」
兵士の一人がそこまで言いかけたとき、彼はニヤッと笑みを浮かべて言い返した。
「どっちにしろ殺すんだろ?・・・だったら、手段は一つだけだ」
「仕方がない。殺せ!」
兵士が怒鳴った瞬間、彼とその周囲の兵士の頭部を銃弾が抉り、血の飛沫が上がった。一瞬気をとられた兵士達を、彼はまったく躊躇する事無く撃ち抜き、物言わぬ肉塊へと変えていく。たったの十秒で環状に血の池が出来上がると、彼は空になったマガジンを二つとも床に落とした。
「行こう。また奴らが来る」
彼が予備のマガジンを装填しつつ言うと、彼女は黙って頷いた。

 「・・・っ、一体何がどうなって・・・」
兵士はまだ傷みの残る鳩尾を押さえたまま、地面を這うようにして門の前に出た。そこにはあの女性が、彼を気絶させた彼女が仁王立ちになって小銃を構えていた。その銃口の先には、四肢を撃ち抜かれた警備兵達がもがき苦しんでいた。その光景に彼が凍りついた時、彼女が冷たい光を放つ灰色の瞳で彼を見つめた。
「案ずるな。急所は外している」
冷たい口調で言い放つと、彼女は通用口から現れた兵士を正確に射撃し、血溜まりの中に倒れこませた。
「テメェ・・・!」
彼はホルスターから拳銃を引き抜くと、彼女に銃口を向けた。しかし、彼女は冷静な口調のまま言い返した。
「やめておけ。弾薬と命の無駄だ」
「くたばれっ!」
彼は叫びながらトリガーを引いた。放たれた銃弾は彼女の背中に当たり、そのまま内部を抉って胸部を貫通した。彼女の体がガクッと後ろに仰け反り、バランスを崩していく。だが、右足を引いて体勢を戻すと、何事もなかったかのように銃を構え直した。
「何でだ・・・?何で倒れない・・・?」
「無駄だと言った筈だ。さもなくば殺す」
「馬鹿にするな・・・!俺を馬鹿にするなぁっ!」
半ば狂乱した状態で、彼は続けさまにトリガーを引いた。銃弾が次々と彼女を貫き、抉っていく。ようやく膝をついたところで、ハンマーがカチッという音を立てた。残弾の無くなった銃を握り締めたまま、彼は笑い声を上げた。
「何が無駄だ。不死身とでも言うつもりか。バーカ・・・結局死んでんじゃねぇか」
その時、地面についた右手がピクッと動いた。そして、彼女がゆっくりと立ち上がり、彼に凍りつくような視線を向けた。
「これでわかった筈だ。その程度の装備で私は殺せん」
血に濡れた穴だらけの背中が急に泡立ち、あっという間に傷が塞がっていく。そして、撃たれたのが嘘であったかのように完治してしまった。彼の手から、拳銃が零れ落ちる。
「化け物・・・なのか?」
「その通りだ。・・・暇潰しは終わりだ。死にたくなくば下がれ」
彼女が忠告すると、彼は顔面蒼白のまま這いずるようにして門の後ろへと退却した。
 その直後、返り血を浴びた少年と半人半獣の少女が施設から出てきた。門の前に差し掛かったところでやせ細った少女はガクッと膝をついた。視点の定まらない藍色の瞳を、灰色の瞳が見下ろした。
「意識が混濁しているな。そこの兵士、水を渡せ」
門の後ろから金属製のボトルを握った手が現れると、彼女はボトルを取り上げた。そして少女を抱えるようにして起こし、ボトルをゆっくりと傾けた。少し口にして、少女は軽く咳き込んだ。彼女は少女の首筋を軽くさすると、ポケットから小型の医薬ケースを取り出し、そこから錠剤を一つ取って彼女の口に入れた。そして、再び水を飲ませて錠剤を飲み込ませる。
「これで死亡する確率は激減した。兵士、彼女の世話を頼む」
「頼むってどういう・・・!?」
事態が飲み込めていないらしい兵士に少女を渡し、彼女は施設の入り口を睨んだ。次の瞬間、何かに引き裂かれたように入り口の側壁が切り刻まれ、崩壊した。その瓦礫の間から、以上に長く鋭い爪がのぞいている。
「暴走したか。どちらにしろ消す他ないだろう」
そう言って銃を構えようとする彼女を制し、少年は前に進み出た。
「獣には獣が一番いい。だから、俺が行く」
彼はそう言って目の前の怪物に近づいていき、そして発砲した。わざと急所から外した銃弾が左腕の肘関節を砕き、怪物が悲鳴を上げる。仕返しといったところだろうか、右腕を使って彼を一瞬で薙ぎ払うと、更に左腕を引き摺るようにして一帯を薙いだ。その巻き添えを受け、施設の外壁が轟音とともに崩れ落ちる。
「おいおい!あんなガキ一人で大丈夫なのかよ?」
兵士が不安そうに尋ねると、彼女は冷徹な表情のまま言い返した。
「奴も私と同じだ、問題はない」
「化け物って事か・・・?ったく、なんでどいつもこいつも化け物なんだよ!?」
彼が悪態をついた瞬間、再び怪物の腕が施設を切り砕いた。そして、崩壊音の合間に何発かの銃声が響く。どうやら、あの少年はまだ生きているらしい。
「兵士、お前はこんな話を聞いた事があるか?」
「ああん?」
彼が荒っぽく聞き返すと、彼女は冷静な口調で語り始めた。
「4年前、隣国に侵攻した一個大隊が化け物数体によって殲滅されたという。特に本隊のいた密林は凄惨を極め、兵士の血で山が赤く染まったそうだ」
「・・・その話なら戦友から聞いた。『山猫』に右目と戦士の誇りを奪われたって話だ」
右目に眼帯を着けた髭面の兵士の顔を思い出し、彼はそう言い返した。
「お前達はそう呼んでいるらしいな。簡単に言えば、猛獣と人間の遺伝子を無理矢理混合させた合成生物の一種だ。開発コードは『ワイルドキャット』。対人戦闘を得意とする生物兵器・・・戦争の道具だ」

 そこまで言った瞬間、銃声とともに怪物の片腕がちぎれて落下した。相当の重さがあったであろう肉塊が突然なくなった事で、怪物が残った腕の方向へとバランスを崩す。その腕も、直ぐに間接部から抉られるようにして脱落し、その反動で怪物は後ろに倒れた。
「なあ、何でそんな事を知ってる?・・・もしかして、隣国の連中か?」
兵士が訊くと、彼女は門に立掛けていた小銃を担ぎながら答えを返した。
「そういう事だ。・・・折角だ、『山猫』の現物を見せてやろう」
「まさか冥土の土産ってわけじゃねえよな・・・?」
不安げに訊き返した彼には構う事無く、彼女は急に静まり返った戦場を見渡した。その視線の先に、ゆっくりと歩いてくる少年の姿があった。既に拳銃はホルスターに収まり、代わりにボロボロの帽子を右手に掴んでいた。
「怪我はないようだな」
「まあね。帽子が駄目になったせいで晒す事になったけど、問題ないよな?」
少年はそう言い返して帽子を捨てた。偶然破壊を免れた非常灯に照らされ、彼の姿が露になると同時に兵士ははっと息を呑んだ。
「猫の耳・・・だと?」
驚く彼に、彼女は冷静な口調で言った。
「わかりやすいだろう?人間の数十倍も感度がいいという話だ。・・・さて、丁度依頼主が来たようだ」
言い終えたところで、ヘリコプターのローターの回転音が反復して聞こえてきた。
 程なくして、暗闇に包まれた森林から中型の輸送ヘリコプターが姿を現し、門の前にゆっくりと降下し始めた。兵士がその上を見上げると、更に二機のヘリコプターが旋回しているのが見えた。その速度と形状からして、戦闘用である事に間違いはない。輸送機が着地を終えると、女性は門の傍で横に寝かされていた少女を抱え上げた。
「任務御苦労。これでまた戦争の種が消えた」
後部ハッチが開き、隣国の軍服を身にまとった男性が姿を現した。彼女が更に現れた兵士の一人に少女を渡すと、直ぐに機内へと運ばれていった。男性は彼女の目の前で立ち止まると、一瞬だけ兵士の方に目をむけ、彼女に尋ねた。
「なるほど、唯一の生存者というわけだな。何故殺さなかった?」
「第一に今回の任務において射殺対象には該当していない、そして第二に、私は不必要な殺生は好まん。それだけで十分だろう」
彼女の事務的な釈明を聞きながら、彼は微かに笑った。
「承知した。どの道この国の軍の事だ、放っておいても死亡扱いにされる。後はお前に任せる」
「了解した」
彼女の答えに軽い頷きを返すと、彼は少年の方に視線を向けた。が、今度は何も言わず踵を返すと機内へと消え、直ぐにハッチが閉じられた。そして、ローターが一気に回転を増し、機体が浮き上がった。
「まだ許す気はない、か」
夜空へと上がっていく漆黒の機体を見送りながら、彼女はたった一言だけ呟きを漏らした。そして小銃を兵士に投げて返すと、少年に声をかけた。
「任務完了だ。帰還する」
「了解。で、こいつどうする?」
彼が尋ねると、彼女はきっぱりと言い返した。
「居場所が消えた以上、私達に協力してもらう他ないだろう。状況によっては斥候として使えるかもしれん」
「俺にスパイをやれって?テメエらを裏切るかもしれないぜ?」
兵士はそう言うと、冗談のつもりで銃を向けた。しかし、どうやら真に受けたのか、彼の頬を銃弾が一発掠めた。
「その時は必ず抹殺する。だが、今殺す気はない」
彼女は冷たい灰色の瞳を彼に向けたまま、拳銃を収めた。
「有難いとは思えねえな・・・。死ぬよりゃマシだが」
「わかったら私について来い。連中も馬鹿揃いというわけではないからな」

 『調査報告書:警備任務に就いていた兵士のうち、ほぼ全員の死亡を確認。一人分の死体だけが発見されず。監視カメラ等警備装置に不審者の姿なし。被検体収容室にて猫科の動物の体毛を発見、人為的遺伝子改変を示す染色体あり。以上、研究所襲撃に関する現状報告とする』
「猫か」
「ええ、猫です。しかも4年前のあれと同じ」
「まだ動きはないのか」
「現状では確認されておりません。ですが、国内に潜伏している可能性もあります」
「そうか。近いうちに駆除せねばならんな」
「はい」

To Be Countinued?

(C)akkiy