シシリア島にはいにしえの伝説が今でも残る。
このアレトゥーザの泉もそのひとつ。
川の神アルフェウスから逃れようと、
妖精アレトゥーザが泉となった、という言い伝えがあるのだ。
その神秘的な泉に白鳥が気持ちよさそうに泳いでいた。
泉の生け垣に私は釘付けになった。
赤い花が力強く泉を取りまいて
伝説の持つ神秘な魅力をいっそう強めているように感じられた。
伝説そのものの真相より、
何千年もの間、伝説と共に生きながらえてきた、
力強く咲き誇る花、淀んだ水の上でも
優雅に泳いでいる水鳥、そして風にそよぐパピルスの草・・・、
の生命力そのものに感動した。
娘も赤い花を気に入ったようだった。
手を伸ばして取ろうとする。
「そのまま咲かせてあげましょうよ」
と私が言うと、珍しくすぐ同意してくれた。
子供ながらも自然の秩序そのものへの畏敬の念が
あるものなのだろうか!
泉の横には小さな小さな水族館があった。
私も娘も早速入場券を買って、
お魚さんを楽しむことにした。
極彩色の魚たちをみて、
娘がさっそく写真を撮りたい、といいだした。
ところが魚はそんな娘の要望など
構っちゃくれない。
泳ぐ魚はポーズすら取ってくれず・・・。
カメラの技術や知識のない母娘は
水槽の中の魚を撮ること3枚ですぐ断念した。
泳ぐ魚を見ながら、娘が
「この魚、○○君にそっくり!」と笑い出す。
どうみても魚、どう似ているのか分からないまま、
母も笑う。きっとその子はこんな風にいい味を出して、
いるのだろう(なんとなく四角ばった感じのお顔)、
と母は勝手に思っていた。
さて、その水族館の前で猫たちが娘にじゃれてきた。
人間を本当に信頼している様子だった。
この町の人は優しいに違いない、そう思った。
(娘はさっきドゥオーモの近くのお店で買った
手作り石鹸の入った袋を持っている)