Harvard Square Journal ~ ボストンの大学街で考えるあれこれ

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未来の社会問題の解決をサイエンスフィクションに学ぶ?~ソーシャルビジネス提唱者ユンヌ氏

2012-04-19 | Harvard-Nieman
ハーバードビジネススクールで、グラミン銀行の創設者で、2006年にノーベル賞を受賞した、モハメド・ユヌス氏が講演を行った。彼は、ソーシャルビジネスという、利益の追求ではなく、社会問題を解決するビジネスを提唱したことでも知られている。大ホールはほぼ満席。ヤードからたくさんの学部生もやってきたようで、若い熱気に溢れていた。

グラミン銀行は、農村部でマイクロクレジット、と呼ばれる貧困層対象の、低金利の無担保融資を提供している。
ユヌス氏によると、「貧困層にお金を貸す」「顧客が銀行に来るのではなく、銀行が顧客に出向く」など、これまでの銀行の真逆を目指したという。顧客も、農村部の女性が約8割を占めるらしい。

面白かったのは、彼によると、枠組みさえ与えれば誰もが起業家になれるということ。
また、「マーケットセグメント」と称して、人を一瞬で、この人は物乞いに向いているか、物を売るのに向いているのかを見抜くことを教えると、多くがすぐにその意味を理解し、実行するという。(このエピソードに、会場は爆笑。笑うのが適当かどうかは別として...)

あて、講演の大半は、どれもベーシックで、私でも知っていることばかり。しかも、議論が深まって面白くなるはずの、質疑応答タイムがないということで、がっかりした。

ところが、彼が、最後の2分で語ったことが、私にはとても興味深かった。

サイエンスフィクションは、科学の未来を自由に想像するのに素晴らしいジャンルであるが、同じように、社会の未来を考えるための、「ソーシャルフィクション」のようなものができないか」。

サイエンスフィクションは、作者の自由な発想で、科学的空想に基づいた(未来)社会を描いて行く。

いっぽう、私達が社会問題の解決策を考える時には、まずは現状に横たわる様々な制約を考えてしまい、できない理由を見つけることで終わってしまうことも少なくない。そのために、大きなビジョンを描くことが難しい。そんな時、実現するかどうかということとは別に、未来社会のあり方そのものを想像してみる。
まさに、彼もグラミンバンクを始めた時に、そうした発想を持っていたのではないだろうか。

社会を変える人は、最初の段階では、「クレイジー」だと思われ、相手にされないことも多い。
でも、個人の強いビジョンとパッションなくして、イノベーションも起こらない。
この一年、世界のあちこちで、イノベーションを起こした人たちの話しを多々聞く機会に恵まれたが、彼らは現状に縛られることなく、自らのビジョンをどんどん押し進めているというところに共通点があった。

日本でも、イノベーションを起こすことの必要性は長く言われて来た。
まさに、「ソーシャルフィクション」的発想とは、まさに、今の日本にとって、かなり必要なものではないかと思いつつ、会場を後にした。

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