Harvard Square Journal ~ ボストンの大学街で考えるあれこれ

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「朗読会」で、初めて書いた小説を読みました

2012-04-16 | Harvard-Nieman
ボストンマラソンが行われた今日の夜、ニーマンフェローの朗読会のイベントがありました。
アメリカでは「朗読会」が盛んで、書店、図書館などでの著者による朗読会はもとより、愛好会、友達同士など、フォーマル、インフォーマルに、色んな形で行われているものです。

フェローの中には、小説やノンフィクションを書いている人が多く、ある意味では、皆、物書きとしてのマラソンランナー状態(ちと、こじつけかな?)。
昼間は30度以上の暑さで、チーズやフルーツに加えて、サングリアもふるまわれました。
今宵は16名が自らの作品を朗読。プログラムは、素敵な絵柄の紙に印刷され、綺麗なリボンで巻いてあり、スペシャル感あり。

私は、去年の秋に受講した"Advanced Fiction Workshop”の時に書いた小説、"Album from Beyond the Clouds"を朗読。
高齢の女性が人生を振り返りつつ、自分の記憶というのが、いかにあいまいか、そして、写真がいかに自分の記憶を呼び起こしてくれる、貴重なトリガーになるのか、ということを、夫が遺してくれた何気ない日常を切り取った膨大な写真を見ながら発見しつつ、亡き夫の自分への想いを再発見していくというプロセスを、娘の視点から描いたもの。

師匠は、デビュー作が高く評価され、2008年"The Brief Wondrous Life of Oscar Wao"(日本語訳)でピューリッツアーを受賞した、Junot Diazという、アメリカで注目されている若手作家の一人。作品は100万部を越えるベストセラーに。
始めての小説の授業に、始めての小説の執筆。いやはや、いろんな意味で、私の人生において、特別なものでした。

授業は3時間。毎回、2~3人がメールで予め作品を送り、それを皆で批評し合うというもので、ほとんどが学生同士の議論。
そこにJunotが、いいタイミングで割り込み、私達に挑戦し、挑発し、小説について、あらゆる角度から、深く深く考えさせて行きます。

この授業、夜7時から10時までという、朝型の私にはつらい時間帯だったのですが、とにかく、学ぶことが多すぎて、毎回、頭がハイパー状態。
いつもは、横になると0.3秒くらいで寝てしまう私が、授業の後は、興奮してなかなか眠れないというような刺激的なものでした。
言葉で表現することの難しさと楽しさ、物語とは何なのか、人はなぜ物語が必要なのか、良い物語とは何か、などを考えさせられた、とても、とても、貴重で、愛おしい時間でした。

記事を書く時は、とにかく自分が外へ外へと向かうものの、小説は執筆している時は、中へ中へと向かいます。自分がすっかり忘れていたエピソードや、感覚、感情が、思いがけずに次々と飛び出して来て、自分の人生の細かな断片を使って書いているという内省的なところが、とても新鮮で面白かった。(取材に行かなくてもいいし...違w)自分の人生のあらゆるものも、無駄にせずに使えるというか、また、大事なことだったのに、すっかりと忘れてしまっていることを思い出す最良のきっかけになるというか。とにかく、貧乏性の私には、あらゆる、自分の経験を再生して活かす機会があるというのが、何よりの魅力のような気がします(笑)。不思議なことに、この授業を取り始めてすぐから、小説の読み方がすっかり変ってしまいました。読者ではなく、作者の目線から読むようになったというか...。

さて、今日の朗読会での、フェロー仲間の作品も、どれもとても面白く、参考になるものばかり。
ただ、朗読なので、情景が浮かぶような具体的な書き方をしたものが、わかりやすく、共感しやすかったと思う。それが文字で読んだ場合は、どうなのかは別として...。
やはり、文字になったものと、朗読したものでは、作品の印象がかなり違うし、作品をいかに読むのかも、大きな違いを生み出すと実感。

私が気に入った作品は、子供の頃にジョーズを観に行った時のことを、子供の目線から書いたもの。
ずっと忘れていた、子供ならではの世の中を見る眼が蘇ってきて、楽しかった。勿論、会場も爆笑の渦ww

また、宝石をテーマに、夫婦の関係を描いた、ショートストーリーも、とても短いのに、目の前に状況が浮かんで来て、ぐいぐいと引きつけられた。

でも、私が一番好きだったのは、「リーダーシップ」の授業にいたという、普段ほとんど発言しないクラスメートが、最後の授業で、先生に指名されて皆の前に立たされ、緊迫感溢れる中で、彼なりの突飛な表現をし、最終的に喝采を浴びるという作品。人が追いつめられた時にどうなるのか、自分自身との戦い、など、ぐいぐいと引き込まれる、臨場感に満ちたよい作品だった。

いやはや、さすがに、皆さん、表現者のプロだけあって、本当に上手いと唸った!
小説は去年の冬以来、全く書いていないけれど、仲間の素晴らしい作品を耳にして、今の作品を磨いて、それなりの分量のものに仕上げ、また別の作品も書いてみたいという野心もむくむくと。

それにしても、私にとっては、耳から、小説やノンフィクションを聞くということには、いまだに慣れず、とても新鮮。
運転中にラジオニュースなどは良く聞くけれど、それとは違って、小説などは、かなり長い間、注意して聞いていなければ、ストーリーの流れが分からない。
やはり私の耳は、まったく鍛えられていないことを、悲しいかな自覚し、これから、もっと、色々な物語を耳から得てみるのも面白いと思った。

というわけで、楽しくも、モチベーションが上がった、素晴らしい夕べに感謝!

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