Harvard Square Journal ~ ボストンの大学街で考えるあれこれ

メディア、ジャーナリズム、コミュニケーション、学び、イノベーション、米国社会のラフドラフト。

オンラインこそ、ジャーナリズムを強化できる

2012-10-19 | Harvard-Nieman
米ニュース週刊誌「ニューズウイーク」がプリント版を廃止し、オンラインのみに特化することになった。

個人的にも感慨深いものがあるけれど、この数年の同誌の動向を見ていれば、驚くに値することではなかった。
紙媒体の終焉を悲観的に捉える人もいるだろうが、私は、オンライン媒体こそ、ジャーナリズムの可能性をより活かせると思っている。

ただ深刻な問題は、オンラインジャーナリズムのビジネスモデルが未だ確立されていないことだ。

印刷や輸送コストは膨大なもので、それをカットできるのは大きな魅力であり、デジタル端末も浸透していることも考えれば、オンライン媒体のみに移行したいメディアは少なくない。しかし、それをしてしまうと、収益が出ないというジレンマに陥る。

オンライン広告は、紙媒体の広告に比べて、未だにその価値が格段に低いからだ。ただ、皮肉なことに、ニューズウイークのように、紙媒体自体の収益が劇的に低迷してしまうと、逆に吹っ切れてオンラインに特化できるとも言える。

米国の新聞を中心とするジャーナリズムは、これまで収益の大半を広告に頼って来た(媒体にもよるが約8割程度)。そのため、広告収益の減少は即痛手となり、経費や人員の削減が相次いでいる。しかし、一方で、デジタルネットワーク時代を迎えて、ジャーナリズムの手法自体は、かつてないほど向上している。

残念なことに、日本のジャーナリスムは、デジタルの特性をほとんど活かしていないため、新しいメディア環境がジャーナリズムにどう貢献するのかがわかりにくいかもしれないが、米国では、データ分析、視覚化、マルチメディア(映像、写真、音声、記者による映像での解説など)などはかなり浸透している。読者が自分の関心に応じて因子を変え、自分に関心を惹き付けて理解できるような、サポートを組み込んだインタラクティブな情報提供も行っている。アーカイブや関連記事へのリンク、ソーシャルメディアのとり込み、個別および全体のデザインなど、日々、あれこれと実験が行われ、新しい「機能」が追加(時には削除)されていく。だから、紙で読んだものと、オンラインでは、得られる情報、理解の仕方が、日本ではあり得ない程大きく異なるのだ。

勿論、いくら洗練された手法が使われていても、ジャーナリズムは「権力の監視」が主な仕事であり、こうした手法はそれをサポートするためのツールにすぎないことを忘れてはいけない。また、こうしたメディア環境の変化は、ジャーナリストの資質にも大きな影響を及ぼしている。これまで通り、調査・取材能力を持ち、読ませる記事を書ける表現力に加えて、デジタルメディアを理解し、関連ツールを使いこなせるスキルを持ち合わた「理系」に強い記者が必要とされているからだ。これまで、ジャーナリスト出身者は、「文系」が圧倒的で、テクノロジーが苦手だったり、マルチタスクが苦痛な記者には、厳しい時代になってきている。

肩書きにおいても、マルチメディアジャーナリスト、コンピュータ援用報道記者、ソーシャルメディア記者なども珍しくなくなった。また、ジャーナリズムスクールとコンピュータ学部が連帯する例も出て来ている。財団などは、オンラインジャーナリズムの可能性を探る為に、企業、非営利組織、個人を問わずに膨大な資金提供を行い、ジャーナリズムの世界にイノベーションが起こるように支援している。

興味深いのは、米国のこうした新しいジャーナリズムの手法を学ぼうと、各国からトレーニングを受けるジャーナリストが増えていることだ。米国では、ジャーナリスト団体や非営利報道組織、ジャーナリズムスクールなどが、これまでも、様々な形で積極的に学びの場を提供しているが、ジャーナリズムのフロントランナーである米国から学ぼうと、ここに来てさらにそれがエスカレートしているようだ。また、各国のジャーナリストはニューヨークタイムズなどへのアクセスが容易になったことから、「一流」のジャーナリズムをお手本に、自国のジャーナリズムを変革しようという気持ちも高まっている。勿論、米国のジャーナリズムが世界のスタンダードになることの是非もあるが、ジャーナリスト教育も「輸出産業」のひとつになるのでは、と思わせるほどの勢いだ。

また、先進国では報道機関の収益が低迷していても、これから経済成長が期待できる国々では、ジャーナリズムは成長ビジネスになるかもしれないとの期待がある。ニューヨークタイムズは中国版サイトに続き、ポルトガル語によるブラジル版サイトの開始を発表しているが、こうした事情と無関係ではないだろう。

話しが少しそれてしまったが、代表的なオンライン上の報道例をリンクしましたので、色々といじって、その可能性をチェックしていただければと思います。

ニューヨークタイムズの大統領選挙報道

各セクションに、リンクをはれないようなのですので、”Election 2012”の横にあるバーをスクロールして、色々とお試し下さい。因子を変えて、様々な結果を導き出してみる事も出来ます。
大統領討論会報道では、発言の内容が本当かどうかライブで「事実確認」を行ったり、政治献金についてのわかりやすいビジュアル、過去の大統領候補の失言の映像集、意見調査のグラフィックスなど色々とご覧いただけます。
http://elections.nytimes.com/2012/electoral-map

調査報道に特化したオンライン非営利報道組織のProPublicaのツール&データ
http://www.propublica.org/tools/


英ガーディアンのデータセクション
http://www.guardian.co.uk/data

米企業のスターバックス、Facebookなどは、どれくらいイギリスに税金を払っているか
http://www.guardian.co.uk/news/datablog/2012/oct/16/tax-biggest-us-companies-uk



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