Harvard Square Journal ~ ボストンの大学街で考えるあれこれ

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ピューリッツァー賞作家ジュノ・ディアスのMIT講演へ~ジュノとの出会い編

2012-09-28 | Harvard-Nieman
いや~、もう久しぶりに興奮状態で、このブログを書いておりますww

2008年ピューリッツアー賞受賞作家で、私の小説の師匠でもあるジュノ・ディアスがMITで講演したので行ってきました。ニューヨークタイムズを始めとするメディアでも絶賛中の新作「This Is How You Lose Her」のトーク&朗読の夕べです。会場を爆笑の渦に巻き込みつつ、人間のあり方、異文化に生きる意味、メディアに囲まれた世界に生きることなど、深く考えさせられました。ストリート感覚の卓越した知性と流麗な文章、吉本お笑いタレントを凌ぐ話術を併せ持つ作家。

「人生、この人に会えてよかった」と思える人は、そう多くはありませんが、今日の彼の話しを聞いていて、心から素直にそう思いました。
「知り合えてよかった!」と...。

MITの講演についても書きたいのですが、長くなりそうなので、前半と後半の二回に分けて書くことにしました。

まずは、ジュノとの出会いから。でも、「そんな個人的なことには興味ないよ~」という方はごもっともでございます。もしも、講演の方にご興味お持ちいただけるようでしたら、後日アップいたしますので、そちらをご笑覧くださいませ。

さて、全く独断ですが、彼との出会いには、勝手ながら運命を感じてしまうのです(ちと大げさではありますが)。

彼と最初に会ったのは、2007年に遡ります。その年の夏に、前に住んでいた家を売りに出したのですが、オープンハウスに見学にやって来たのが、すぐ近所に住むジュノでした。「MITの文学部で教えている」と聞いて、「へぇ~、MITにも文学部なんてあるんだ」という反応でした。(すみませんw)

「ニューヨークにフィアンセがいて、こっちに引っ越して来て欲しいけど、なかなかOKしてくれないんだ。家でも買ったら来てくれるかなと思って...」ということでした。何度かメールをやりとりしたものの、残念ながら、買って頂くには至らず。(最終的にはニューヨークからボストンに引っ越してくる予定の方が、買って下さいました。毎度あり~です)

それから、日々の雑事に追われ、彼のことはすっかり忘れていたのですが、ある日、MITのブックストアでブラウジングをしていると、大量に平積みされている本が目にとまりました。何かと思って手を取り、表紙の裏を見ると、プロフィールの横にジュノの顔写真を発見。「あっ、あの家を買ってくれなかった、MITの先生だ...」(笑)。
プロフィールを読むと「現在ニューヨーク在住」となっています。「そうか~、ガールフレンドが来てくれないから、彼が引っ越してしまったんだ...」。
本にはピューリッツアー賞受賞作品と刷り込まれています。それから、次から次へと、色んなところで彼の名前を目にしました。彼の受賞に、地元は大いに盛り上がっていたのでした。

それから、また、しばらくジュノとはご縁がありませんでしたが、次の機会が巡ってきます。
去年の9月のはじめ、ハーバードのケネディスクールで、授業のショッピングをしていました(こちらでは、授業を登録する前に、ショッピングと称して授業をチェックし、判断するための期間が設けられています)。たまたま隣に座ったBillが、MITのナイトフェローという科学ジャーナリズムの研究員で、名刺を交換、その数日後にパーティに呼んでくれたのです。

パーティもお開きムードとなり、Billに挨拶しようと立ち話を始めたところ「今学期は、どんな授業をとるの?」と尋ねる彼。
「実は、文章の可能性について深く考えてみたくて、これまでと違った表現のあり方を追求してみたいと思っている」と言った途端、「じゃー、ジュノ・ディアスの授業が絶対良いよ!!」と断言(笑)。う~ん、どこかで聞いた事がある名前。「ああ、あの家を買ってくれなかった、MITの先生だ...!」。

うかつにも、HarvardもMITも、授業カタログを目を皿にしてチェックしたつもりでしたが、彼が授業を教えているとは全く知りませんでした。
家に帰ってネットで調べてみると、確かに「Advanced Fiction Writing」というクラスが。
しかし、一方で、日本語でも小説を一度も書いたことがない私が、ついていけるかと考えるだけで怖じ気づき、面白そうだけど私には無理だと思っていました。

ところが「運命」とは不思議なもので、また、次の機会がやってきます。
その日は、ハーバードでニーマンフェローの歓迎パーティがありました。
もうそろそろ帰ろうかと思っていると、人ごみの中に例のBillがいて、こちらにどんどん歩いて来ます。
「今日はジュノの授業の初日じゃない?7時からだけど、どうしてここにいるの?」
実はすっかり忘れていた、というか、そもそも「私じゃ無理」だと思って、「ショッピング」にさえ行こうと思っていなかったのです。
Billはそう言い残して、用事があるからと、さっさと消えてしまったのでした。

どうしようか、と迷い始めた私に、いきなり「天の声」が...。
それは、ニーマンフェローの先輩がオリエンテーションの時に話してくれたものだったのです。
「成績に関係なく、何でもチャンレンジできるのが、フェロー(研究員)であることの特権。絶対に良い成績なんか取れっこない、と思う事にこそ挑戦できる贅沢を楽しんで!」。授業はあと10分で始まるので、遅刻は確実だったけれど、この「お声」に背中を押されて、車を運転しMITまでダッシュ。「何も失う物はないんだから、とにかく行ってみよう!」と開き直る事も出来ました。

案の定、着いた時には、授業の説明は始まっていました。
う~む、これはまさに、自分がやりたいことではないか!
彼の挑発的、かつ、ストレート、かつ、ものすごい頭の回転の良さと、世の中を建前ではなく、本音で捉えているスタイルにもうノックアウト状態。
ところが、教室には60人以上がいて、どうやら履修できるのは16人だけだという。
「希望者は、なぜこの授業を取りたいのかを完結にまとめ、あとは連絡先を忘れずに書いて下さい。結果はメールで通知します。終わった人から帰ってもらっていいです」。

軽い気持ちでやって来たものの、彼の話しを聞いて、「あ~、もうこれは絶対に取らなければならない!」と確信し、必死で理由を書きました。
でも、それだけではこの難関は、どう考えても突破出来そうにもないので、余白に「どうして家を買ってくれなかったの?」と、スマイルマークと共に書き添え、紙を渡す時には、「家を見に来てくれましたよね?覚えていらっしゃらないかもしれませんが」と彼に自己紹介すると、「あ~、覚えてるよ」と言いながらも、かなり驚いた様子でした。(そりゃそうだ!)そして、火事場のバカ力による「脅し」が効いたのか、無事に授業を受けることができました。Yay!

今振り返れば、こうした偶然の偶然に導かれて、彼の授業を取る事ができたのは、本当に幸運なことで、毎回、多くのことを学び、考えさせられ、既成概念をゆさぶられた、実に脳がダンスするような、刺激的で濃密な時間を過ごす事ができたのです。授業は、週一回、夜7時から10時までの3時間で、毎回2~3人の学生の作品が事前にメールで送られて来て、それを批評しあい、ジュノが、合間に少しだけ、でも、超的確なコメントを入れて行きます。ルールはたった2つ。「作品の良いと思ったところをあげ、その理由を具体的に語る」。「この作品をより良い物にするためには、どうしたら良いか。具体的に提案する」。こうした前向きなルールのせいで、クラス皆が建設的かつ、他の作品に敬意を持って批評し合うことができて、全体のモチベーションも高まり、皆、競うように、どんどん書いていました。そんなわけで、私も何とか、人生初の小説を書き上げられましたw
(小説の授業にご興味おありの方は、後日、別のブログに書いたものを、ここにリンク致しますので、またご報告させて頂きます)

今年4月には、ハーバードで彼と対談をさせてもらう機会にも恵まれました。

ジュノには、夏を挟んで全く会っていなかったので、今日の講演は楽しみでした。

しかし、私が到着した15分前には、MIT のStata Centerは老若男女で溢れかえっています。ホールは満席。「別のホールを用意していますので、そちらでモニターの映像を見て下さい」と機械的に話す担当者。

「それは絶対にありえない!」ということで、我ながらこんな言葉が...。「講演について、記事を書く予定なのですが...」(ブログ記事に書けば許されますよねw)。
「それでは、横で待っていて下さい」と係の方。
もし駄目でも、ジュノが来たら入れてくれるだろうと、ポジティブシンキングの私(笑)。

3分ほどすると係の方が「どうぞ」と、Reservedの席に通してくれて狂喜したものの、何と一番後ろ」。が~ん。
運良く知り合いが近づいて来てくれたので「念のため空いている席がないか見て来たいんだけれど」というと「じゃ荷物見ておいてあげる!」。ありがたし~(涙)。
というわけで、会場を巡回すると、何と一番前の、演台の真っ正面の席がひとつ空いているではありませんか!
本当に運の良さだけて生きている私。再び、ありがたし~。

さて、ジュノが登場。関係者と立ち話をしている間も、もう「聴衆は待てませんオーラ」全開。
学部長の挨拶が終わるか終わらないかのうちに、会場から絶叫が(笑)。
ほんと、コンサートみたいな感じです。
そして、いよいよ、スター、ジュノの登場です!

(講演編に続く)

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1 コメント

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突然すみません (佐藤修平)
2012-10-15 17:48:52
私は、22歳の大学生で佐藤修平と言います。

10月から大学を休学して世界で活動している日本人の方に会うために海外を訪れています。



僕は将来事業をやりたいと考えています。

事業をやる上で選択肢として日本だけではなく世界も選択肢としてあっても良いのではないかと考えました。

しかし、実際に世界で事業をやるといってもどこから手をつけたらいいか分かりませんでした。

世界で事業をやるには海外で起業している方に実際に会っていただき、話を聞かせてもらう事で、これからの自分の参考にさせて頂きたいと考えて



また、企業家の方だけでなく様々な人にも会いたいと思っています。

理由としては、国の現状を知る上で現地の人に話を聞かせてもらう事が1番だと考えているからです。

他にも、私が知らないだけで多くの日本人の方が海外を視野に入れ、行動に移され、海外で活動をしています。 そのような私にとってすごいと思える人の体験談を直に会って聞かせてもらう事で、日本の中だけで培った視点だけではなく、世界を視野にいれた視点を少しでも学びたいと考えています。



そんな中TWITTERで菅谷さんを見つけ是非会っていただきたいと思いメッセージを送りました。

お忙しい中突然メールをしてきた大学生に会う時間はないとは思うのですがよろしくお願いします。



PS;私がどんな人か分かるようにブログを始めました。読んでいただけたらうれしいです。ちなみにNYには10月の20日から31日までいる予定です。

http://ameblo.jp/toukinn/
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