文在寅に関する書物を読み終えたとき強い印象を感じたのは、母親への感謝と尊敬がクラシックな形で披露されていることだ。
北朝鮮から逃げてきて釜山に定住した避難民だった一家を、厳しい仕事をやり遂げて支えた母親は、少年、文在寅の英雄だった。
その延長線上にいるのが姉だった。優秀な生徒だったのに、弟たちを支えるために大学進学をあきらめて商業学校に進学し、銀行の下級職員として働いてくれた姉について、文氏は、深い感謝と憧れをもつ。
私はこれをあえて「エディプスコンプレックス」とよびたい。それは性的な意味ではなく、社会観や政治観への母性的価値観の適用である。
アメリカの民主主義を語ったフランスのアレクセイ・ド・トクヴィル(Alexis de Tocqueville)はアメリカ人の集合的精神の特徴を「女性的良識」(feminine conscience)と要約した。
女性的良識をもつ人の身振りや言動は、男性的、マッチョ、威圧的などとは距離が遠く、穏健な方である。彼が文在寅を観察したら同じことをいったかもしれない。
文の個人的な生活模様をみると趣味は読書と1人歩きである。また、大学で音楽を専攻した妻の影響が強い愛妻家で、妻の宗教のカトリックを受け入れた。人との付き合いにおいて、 大げさな演説を嫌い、他人がいうことを傾聴してから冷静に是々非々で判断することを好む。
「女性的良識」の価値観をもつ文が、機会あるごとに力説することに「常識的社会」の追求がある。文が描く常識的社会とは、弱いものへの同情心が根底にある。こうした意味で文は米国のオバマ大統領と類似の思想をもっている。
現代ビジネス からの引用記事
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